第三十四鐘 同時進行
舞台から去ったハイトとそれに付き合ったロゼの二人は、人気の無い場所にいた。祭りの進行を妨害してしまった事に後悔するハイトの前に、あの時の親子が歩み寄って来た。自分達の為に戦ってくれたハイトに対して礼を言い、祭りへと戻って行った。ハイトももた、ロゼと共に親子の後を追うように歩を進めた。
紅く染まった大空の下、乾いた風が辺りを吹き抜けたのは、俺の気のせいだろうか。
時間も祭りも佳境に入ろうとする中、俺とロゼ、ウィルは、シンベルの出入口でクエストの開始を待っていた。
「いよいよですね。今の心情はどうですか?」
ウィルが笑みを浮かべて訊いて来た。
「ノーマル」
「まずまず、と言ったところだよ」
俺とロゼはその質問に答えるが、本当のところ普通じゃない。これから起こる命懸けのミッションが待っているのだ。否応無しに身体が強張る。
「その割りには身体が固まっているように見えます。リラックスした方が宜しいと思いますよ?」
それをクエストの事で緊張していると思ったのか、ウィルは柔らかい笑みを浮かべ、徐に準備運動を始めた。
「ありがとう。気遣ってくれて」
「いえいえ、仲間を気遣うのは当然の事ですよ」
ロゼがウィルに対して敬語を使っていないが、これはウィルが普通に接してくれ良いと言われたからだ。
「ハイト君も、ガチガチにしたって良い事ありませんよ?」
「余計なお世話だ」
そんな事、言われなくても分かっている。
「(何やらハイト君、イライラしているようですが、何かありましたか?)」
ウィルがロゼの傍に寄り、耳打ちをした。
「(ううん、ハイトは別に怒っている訳じゃないよ。何時もあんな感じだよ)」
「…………?」
何か失礼な事を言われた気がする。
「待たせたな」
俺達がそうして時間を潰していると、幼いながらも凜とした声が聞こえた。
振り返ると、そこにはロイドと恐らく村人全員、そして……。
「ミリアちゃん、凄く綺麗だね」
巫女装束に身を包んだミリアがいた。
「うむ、ありがとう」
声色に変化は無かったが、顔は少し嬉しそうにはにかんだ。
「本当に綺麗ですよ。ハイト君もそう思いますよね?」
「何故俺に振る……」
俺には関係無いだろその話題。
だが、どうした事か、ミリアは俺を見続けていた。
「……悪くは無いんじゃないのか?」
刺される視線に耐え切れず、俺は当たり障りの無い言葉を言った。
「う、うむ、ありがとう……」
ミリアは俺の言葉に俯いてしまった。
(……何か嫌な事言ったか俺?)
人付き合いに低評のある俺ならやりかねない。
「ほほう……やりますねハイト君」
「……何だ、その素敵に憎たらしい笑みは」
地味に苛つく。
「ハイト……幼女に手を出したらロリコンだよ?」
「行き成り何を言い出すんだ……。そして、何で怒っているんだ……」
地味に傷付く。
「ハイト君、私の娘の心を掴もうなど、一億年早い」
「訳が分からないよ……」
俺は思わず天を仰いだ。
(何故袋叩きにされなきゃならんのだ)
そこまで酷い事をしたのか俺は。
「準備が済んだのだから早く行こう。此処で無駄話をしていても意味が無い」
俺はこの空気から逃れる為、早口で言うとシンベルの出入口へと向かった。
「あ、ちょっとハイト! では、行ってきますロイドさん」
「うむ、武運を祈っているぞ」
「吉報を待っていて下さい。それでは、行きましょうか、ミリア」
「うむ、宜しく頼む」
俺の後ろで三人の会話が聞こえ、その後足音が近付いて来た。
(さて……)
到頭この時が来てしまった。
あの裏の有りそうな内容はまだ分からない。
(何があっても、ロゼだけは護り切る)
喩え、他を捨ててもだ。
「はあっ!」
幼くも勇ましい声が洞窟中に木霊する。
数多の魔物に囲まれている中、ミリアは細身の剣で応戦していた。剣技は中々の業で、我流のようには見えない。
「…………!」
パーティーの中で最年少の巫女が戦っているのだから、護衛である俺達も怠けてはいられない。俺は毒の状態異常にする霧を吐くグリーンゴブリンを頭から縦に一直線に斬り、右斜め後ろから迫って来たケムバットを剣の柄で殴打し、真上から落下して来た<ボルテックス>を躱す。
「<バブルライガン>!」
離れた位置でロゼが魔法スキルを詠唱する。弾幕となって発射される泡の弾丸が、前方の魔物共を撃ち抜いた。
「せあッ!」
俺とロゼよりミリアの近くに位置するウィルが、右手にある長槍を回転させ、周囲の魔物共を吹き飛ばした。
「やあっ!」
周辺の魔物を片付けたミリアが、先程ウィルが吹き飛ばした魔物共に体勢を整える間を与えずに攻撃を仕掛けた。
反撃出来ない魔物共は、ミリアの剣捌きに次々と殺されてゆく。
魔物と奮闘するミリアの背後から、歪な棍棒を持ったゴブリンが迫っていた。
(気付いて無いのか)
俺は眼の前にいる邪魔なゴブリンを手早く殺すと、服の内側に備えていた投剣を左手に構え、狙いを定めて放った。
放ったと同時に、ゴブリンが棍棒を頭上に構えて攻撃体勢に入った。
そこでやっとミリアが後方にいる魔物に気付き、慌てて防ごうとした所で、
「ゴギャァ!」
見事、投剣がゴブリンの後頭部に刺さった。
その一撃てゴブリンのHPは全て無くなり、消滅した。
「あ……」
その流れに驚いたのか、ミリアはその場で動きを止めてしまった。
「戦闘中に不用意に止まるな。死にたいのか」
忠告をしながら、俺はミリアの頭上へと迫っている二体のケムバットを、二本の投剣を放って殺した。
「か、忝い」
ミリアは再び気を引き締めると、己に迫る魔物共と戦いに臨んだ。
「…………」
その様子を見て、俺も魔物の排除に戻った。
次々と魔物が現れるが、何とかなりそうだ。
<重大なお知らせ>
突然ですが、リアルの忙しさのせいで「ANOTHER REALITY」の投稿が出来なくなりました。ここまで読み続けて下さった読者さんには大変申し訳ないですが、長期休載とさせて頂きます。少なくとも、今年中は投稿できないと思います。何時かこの場に帰ってくるつもりなので、それまでお待ち頂ければ幸いです。それでは、また会える日を祈って……。




