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ANOTHER REALITY  作者: マンドラゴラ
第二章 善悪が交差する口
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第三十三鐘 静から動

 始まりを迎えた“森幸祭”の舞台に立たされたハイト。初戦で前回準優勝だった対戦者を打ち負かした事で、村人達から注目を浴びる事になる。それから早く逃れる為、ハイトは選手達を挑発した。それに釣られた前回優勝者を難なく負かすが、それに納得いかなかったゴークはハイトを攻撃する。自分が起こした事態の収拾の為に、ハイトはゴークに“ウェイジャー”を持ち掛けた。自分が負けない事を疑わないゴークは、そのゲームに乗り、そして敗北する。勝者のハイトは、ゴークに被害を加えそうになった親子の謝罪を命令する。大人しく従ったゴークを見届け、自分も村人全員に謝罪し、舞台を去った。

 あの後、俺は舞台から下り、そのまま離れた。盛り上がりを壊した張本人がいて、祭りに参加する人間が楽しめる筈が無い。


「…………」


 再開した祭りの喧噪が微かに聞こえる場所で、俺は何もせず、無意味に空を見上げていた。


「…………」


 そんな不甲斐無い俺に、ロゼは傍にいてくれた。


「……悪いな」


「気にしなくてもいいよ。少なくとも、私は君のやり方が間違っているとは思ってないよ」


「なら、俺は正しかったのか?」


「どうだろう。物事の受け取り方は人によって千差万別だからね。少なくとも、私は正しいとも思ってないよ」


「……そうか」


 感情に捕われない正論が、今は心地良かった。


「無理に俺に付き添わなくても良いんだぞ?」


「あの時も言ったでしょ? 私は君といるだけで楽しいから」


「……そうか」


 そこで会話は途切れ、辺りは沈黙が支配した。

 暫くすると、ロゼが静かに忍び寄って来た。

 不思議に思いロゼの顔に視線を向けると、ロゼは柔らかく微笑み、身体がくっつくほどまで進めた。

 ロゼの暖かい体温が、俺に伝わって来る。

 それだけで、冷えた心に温もりが宿った。


(不思議なものだな……)


 自分の心の変化に感慨深く思っていると、数人の足音が聞こえてきた。

 スススッ、とロゼが俺から離れた。それと同時に、俺を安心させてくれた柔らかさも離れて行く。

 視線をそっちに移すと、二人の人間が俺達の方に歩み寄って来た。


「……アンタら」


 その二人は、あの時の親子だった。


「……こんにちわ」


「こんにちわ!」


 母親はおどおどとしながら、メルは元気良く俺達に挨拶をした。


「私達に何か用ですか?」


 ロゼが俺の前に立ち塞がり、親子に訊ねた。口調は柔らかかったが、何処か追い払うような硬さが含まれているような気がした。


(俺を責めに来た、と思っているのか)


 俺の前に立ち塞がったのは、俺を気遣っての事だろう。


「彼に言いたい事があって、会いに来ました」


「出来れば後にして貰えませんか?」


「良いよ、ロゼ」


 俺はロゼの前に立ち、右手で制した。


「……大丈夫なの?」


「ああ、心配するな」


 心配した表情で俺を見るロゼに、ひらひらと右手を揺らして答えた。


「……で、何の用だ?」


 良い話では無いだろうが、俺はこの人間の言葉を受け止めなければならない。そうしなければいけない行為を、俺はしてしまった。

 相変わらず母親はおどおどしていたが、決心した表情で一歩前に出て、


「ありがとうごさいました」


 俺に深く一礼をした。


「……何を……しているんだ……?」


 予想外の行動に、俺は戸惑ってしまった。


「私達の為にゴークさんに立ち向かって頂いて、貴方にお礼を述べたかったのです」


 どうやらそんな事でわざわざ此処まで来たようだ。


「……アンタが礼を言う必要は無い。あれは俺の失態の為に行った事だ。それに……」


 俺はそこで言葉を切ってしまった。


(そうだ。俺は礼を言われる立場じゃない。俺はこいつらを巻き込んだんだ)


 思い返せば思い返す程、己に対して怒りが沸き上がって来る。今すぐこの場を走り去り、人気の無い場所で自分自身を気が済むまで殴り付けたい。


「……貴方が何に対して許せないのか、私には分かりません。しかし――」


 母親はそこで笑みを浮かべ、


「――貴方がゴークさんを説得し、私たちに謝罪をさせた事は、貴方だけではなく、私たちの為にもなりました」


 母親の偽りの無い言葉に、俺は驚愕した。


(あの行動が……この親子の為になった……?)


 だとしたら……俺は……。

 言葉に詰まっていると、静かに会話を見守っていたメルが、一歩前に出た。


「ハイトにいちゃん」


「……何だ?」


 相変わらずぶっきらぼうに言う俺に、メルは怖気づかず、


「ぼくたちのために戦ってくれてありがとう! すごくかっこよかったよ!」


 子供特有の無邪気な笑顔でそう言った。

 その後、親子はもう一度俺達にお礼を言い、祭りへと戻って行った。


「……ねえ、ハイト」


「……何だ?」


「村の人たちの中には、君に反感を抱いている人がいるかもしれないけど……」


 ロゼは俺の前に立ち、


「君の事を快く思っている人もいるみたいだよ」


 俺に手を差し延べた。


「……ああ」


 俺は躊躇無くその暖かい手を握った。


 <ファイアーボール>

 炎魔法の一つ。前方に頭一個分の炎の玉を発射する、炎魔法の基本。一割の確率で対象に『火傷(一定時間にダメージ。守備の低下)』の状態異常を与える。属性は炎。禁止時間は0,6秒。

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