第三十五鐘 神の罠
<お久しぶりです>
待っていて下さった皆さん、お待たせしました。今週から「ANOTHER REALITY」を再開します。ハイトとロゼの旅を引き続きお楽しみ下さい。一応、物語を忘れてしまった方の為に今までのあらすじを書いておきます。詳しく書くので長いです。なので、必要無い方は読み飛ばしちゃって下さい。
<あらすじ>
ある高校に通う二年生の少年、佐崎 露は、ある晩に落ちていた携帯電話を拾い、その携帯によって不思議な空間に飛ばされてしまった。眼の前に現れた自称神によると、露は自称神によって創り出された世界に招待されたらしい。頑なに拒む露を無視して、自称神は露を異世界へと転送した。そこはゲームと現実を合わせたような世界。見知らぬ場所に立った露は、そのまま持っていた携帯で自分の名前がハイトに変わっている事に気付き、以降このゲーム世界ではその名で名乗る事にした。行く当ても無く辺りを彷徨っていると、一匹の魔物に襲われている一人の少女と出会う。携帯で自分が“剣豪”である事を知っているハイトは、飛んできた剣を武器に魔物を殺し、少女を救った。ロゼと名乗る“魔剣士”の少女は、助けられた礼に戦術を教えてくれると言った。これから世界を旅する為に、ハイトはロゼと共にいる事にした。月日が流れ何時しかハイトとロゼの間に固い絆が結ばれ、十分強くなった所でハイトとロゼは共に森を抜け世界へと旅立った。森を抜けて近くの村“シンベル”に訪れたハイトとロゼは、そこで村長のロイドから娘であるミリアの次期村長になる為の儀式に行く護衛をして貰いたいとクエストを頼まれた。断る理由も無く受諾したハイトとロゼは、ミリアと村で出会った“騎士”のウィルと共に、儀式を行う場所である洞窟へと向かった。昨晩に送られて来たミッションをその身に背負って……。
「やっと終わりましたね」
戦闘が終了し、各々の前にウィンドウが表示された時、ウィルが顔を緩めて言った。
「弱い魔物でも、あれほどの大群で来られたら流石に疲れるね」
ロゼもウィルに同調するように頷いた。
「それでも、三人とも汗を掻いていないではないか」
ミリアが額の汗を拭いながら溜め息をついた。
「私たちは鍛えているからね。あれくらいなら平気だよ」
「やはり凄いのだな、世界中を旅する人は」
感嘆するようにミリアは再び溜め息をついた。
「……ハイトはどうしたのだ? 会話に入らないが」
「ハイトなら、あそこに」
呼ばれているが、俺は気にせずにウィンドウを操作していた。
先程の戦闘で消費した投剣を、服の内側に装備し直す。無くなったら自動で装着してはくれないので、自分で装備しなければならない。
「ハイト、お主は大丈夫なのか?」
ミリアが俺の安否を確認して来た。
「ああ」
ウィンドウを閉じて俺は短く返事を返した。
「そ、それと、あの時私を護ってくれて感謝するぞ」
何故かミリアは頬を朱く染めていた。
「別に。お前を護るのが仕事だからな」
「それにしても、ハイト君はよく周りを見てますね。まだ魔物が自分を狙っている状況で仲間を護れるなんて」
ウィルが俺の戦い方を褒めた。
「本来ならアンタが適任の筈なんだがな、騎士様?」
俺がそう言うと、ウィルは苦笑した。
「ごもっともですね」
ウィルのスタイルは“騎士”で、その名の通り、守備、魔防に長けた“テリクス”だ。なので、パーティーを護るのに適している。
「でも、ウィルも頑張っていたよ。<ヴォウグ>で敵の注意を引き付けていたし」
ロゼがそんなウィルをフォローした。
<ヴォウグ>は盾スキルの一つで、使用すると敵のヘイトを稼ぎ、狙われやすくなるスキルだ。敵の攻撃を仲間から遠ざけたい時などに重宝する。
「そうだ。ウィルがいたからこそ、私は前に出る事が出来たのだ」
「そもそも、ミリアちゃんが前に出なければ良いんじゃないのかな? あの程度の魔物なら、私一人でも対処出来るし」
ロゼの意見は正にその通りだ。その通りなのだが……。
「いや、それでは駄目だ。私も魔物に立ち向かわなければ意味が無い」
ミリアにとって、これは己の実力を示さなければならない時なのだそうだ。だから、護られてばかりでは己にも、周りにも納得がいかなくなるらしい。
「そうは言っても、怪我をして儀式に臨めなかったら元も子も無いよ」
「それでも、私はやらなければならない」
ミリアの顔には揺るがない決意があった。
「……まあ、良いだろう」
「……良いの? ミリアちゃんを危険から護るのが、私たちの仕事でしょ?」
「ああ、そうだ。そして、我が儘を聞いてやるのも仕事だ」
俺は肩を竦めながら言った。
「見た所ミリアはそこまで弱くない。俺達がいれば、さほど問題は無い筈だ」
「意外ですね。君ならロゼさんに同意すると思ったのですが」
「アンタが俺をどう思っているか知らないが、敢えて危険な場所に立たせるのも悪くはないさ」
ミリアは俺の言葉に深く頷いた。
「休憩も済んだだろう。そろそろ行くぞ」
俺が言うと一同は頷き、ミリアを先頭に俺、ロゼ、ウィルの順で歩を進めた。
「(……ねぇ、ハイト)」
少し時間が経った後、ロゼが俺と肩を並べて耳打ちをして来た。
「(どうした)」
自ずと小声になる。
「(あの文章の意味、分かった?)」
あの文章と言うのは、ミッションの事だろう。
「(いや、まだだ)」
――古の伝承に従いしき神の矢を欺き、儀式の洞窟に赴く巫女、ミリアを死守せよ――
これが、あのミッションに表示されていた文章だ。
「(後半はともかく、前半が読み取れない)」
古の伝承、神の矢、この二つの意味。そしてそれを欺くと言う行動。
これらがミッションをクリアーする鍵である事は間違いないのだが……。
「(ロゼは何か気付いたか?)」
「(……少しだけなら)」
「(本当か? なら、教えてくれないか?)」
「(でも、大した事じゃないよ)」
「(どんな小さな事でも良い。今は僅かな情報でも欲しいからな)」
少なくとも無駄にはならない筈だ。
「(……一番最初に古の伝承ってあるよね? あれ、変だと思わない?)」
「(と言うと?)」
「(大体伝承って古くから伝わっている話でしょ? わざわざ書く必要なんてあるのかな?)」
「(…………!)」
確かにそうだ。他ならともかく、命を賭けるミッションに不必要な単語を入れる訳が無い。
「ロゼ、こっちに来てくれ! 話がある!」
思案していると、前方からミリアの声が聞こえた。
「ハイト、行ってくるね」
「ああ」
半ば思考があっちに行っている状態で言うと、ロゼはミリアの元に行った。
それに視線を移さず、俺の思考は回転し続ける。
(なら、この古には何か別の意味が……?)
安直に読み取ってはいけない類いか。はたまた、プレイヤーを紛らわす為のものか。
(どちらにせよ……一筋縄ではいかんな)
もし、これが誤認させるものだとしたら、全文に裏がある可能性も出てくる。
(厄介なものだな……)
もやもやと霧の掛かった脳のお蔭で憂鬱となり、嘆息を吐ながら無意識に上を見上げる。
――それは紛れも無い偶然だった。
(…………?)
一瞬、それが何だか理解出来なかった。
(…………)
一秒にも満たない時間の中で、数々の戦闘を生き延びて来た身体が、養われた直感が告げる。
――あれは危険だ。
(……――!?)
気付いた時には、全速力で駆けていた。
紫紺に輝く光は、空を切り裂き貫く物体――矢と言う表現をするのに相応しい形状をしていた。
見ただけで恐怖を募らせるその紫紺の鏃は、俺達がいる下の方に。
正確には――ミリアに向けられていた。
(ミリアではあれを耐えられない!)
俊敏パラメーターが悲鳴を上げるような速度で、楽しく談笑しているロゼとミリアへと駆け寄る。
(間に合え……!)
上を見る余裕も無い為、虚空に浮かぶ矢がどうなっているか分からない。それが俺の脚を速める。
接近した所で、跳躍してミリアを左に押した。
「きゃっ!?」
ミリアが左に倒されたのを確認して安堵し――
ザスッ――。
右肩から肉を貫き裂くような音が聞こえ、激痛が走った。
「――――ッ!!」
あまりの痛みに思わず歯を食いしばり、地面に倒れ伏せても起き上がる力が出なかった。
「い、一体何事――」
ミリアの声が途中で止まる。それに構う余裕は俺には無かった。
「ハ、ハイト……?」
ロゼが呆然と俺の名を呼んだ。いきなり隣の人間が倒されたと思ったら、その張本人が矢に刺されている光景を見ればそうなるだろう。
俺は痛みの発生地となっている右肩を見る。そこには、あの時浮かんでいた紫紺の矢が俺の肩を貫いていた。
その痛みの原因が前触れ無く消えると、細い穴が開いた肩から留め止め無く血が流れてきた。
「だ、大丈夫ですかッ!?」
後ろからウィルが駆け寄って来て、手に持っていた“ハイパーポーション”を俺に使用した。
「……何とかな」
出血が止まったので傷は塞がったようだ。痛みが残る身体を無視して、俺は立ち上がった。
「本当に大丈夫なの? 無理してない?」
「安心しろ。HPを見れば分かるだろうが、もうダメージを受けていない」
俺は頭上にあるHPバーを指しながら言った。実際まだ痛いが、そんな事を気にしている場合ではない。
「すまぬ、ハイト。私の身代わりなった為に、そのような傷を……」
ミリアが不安そうな顔で俺に謝って来た。
「別に構わん。それより、ミリアに質問したい事がある」
「何だ? 何でも訊いてくれ」
「この洞窟に罠などは仕掛けてあるか?」
あれが儀式に臨む者に襲い掛かる罠、と言う可能性がある。俺としてはそうであって欲しいが、恐らく、これは無いだろう。
「無いと父様から聞いている」
「……そうか」
考えれば気付く事だ。この洞窟は毎年次期村長とその護衛が訪れており、シンベルは村の祭りがあるぐらいには年月が経っている。と言う事は、何時からかこの洞窟で次期村長を試す為に、村人達がこのダンジョンを確認したり、軽く作り替えたりしただろう。つまり、罠が仕掛けあろうと無かろうと、気付かれずに次期村長を殺せる罠を村人達が仕掛ける筈が無い。
「……誰か私たちを狙っている人がいる……?」
「…………っ!」
ロゼの言葉に、ミリアは顔を硬くした。
「現状ではその可能性が一番高いな」
俺は淡々と事実を述べた。
洞窟に仕掛けられた罠で無い以上、誰かか持ち込まなければあの矢は出現しない。
そして、あの矢はミリアを狙っていた。
「ミリア、“シンベル”が他の奴らに憎まれているとかないか?」
ミリアを狙うと言う事は、“シンベル”の次期村長を狙うと言う事。他の奴らが“シンベル”を滅ぼしたいと願うなら、ミリアを狙う筈だ。
「それは断じて無い。そもそも、“シンベル”と他の村落は交流が少ない。我々はお互いの存在が如何に大切かを知っている」
「…………」
なら、何故あの時ミリアを狙った? 只の偶然か?
(……いや、それよりも決めなければならない事がある)
「如何しますか皆さん? ここで戻りますか?」
ウィルが言った事は、今正に俺が思案している問題だ。
「私は戻った方が良いと思います。何処から攻撃をしてくるか分からない以上、このまま進むのは危険です」
ウィルが引き上げる事を提案した。
ウィルの意見は正しい。その一言に尽きる。俺も進行する事は得策では無いのを重々理解している。
(……それでも、俺は……俺達は……)
俺はウィルの意見に賛成する事は出来ない。ウィルに従うと言う事は、俺とロゼの命を捨てると言う事。
「いや、進もう」
だから、俺は尤もらしい道理を挙げて進ませる事を決意した。
「……理由を聞かせて貰えますか?」
案の定、ウィルが厳しい顔で俺に迫った。
「確かに、得体の知れない敵から早く遠ざかるのは俺も賛同する。だが、進む方向は出口じゃない。奥だ」
「どうして、奥に進むのですか?」
「一つは距離だ。俺達はもう洞窟の半分以上を進行している」
ウィルは俺の言葉に何の反応も示さず、黙って聞いていた。
「もう一つは……言わなくても分かるだろ?」
俺は敢えて曖昧な事を言って濁らせた。
「うむ、なるほどな」
ミリアが合点するように頷いた。
村長から聞いた話だと、洞窟の奥には金属製の扉があり、中に入れるのは次期村長と巫女、そして護衛しか入る事が出来ない仕組みになっている。そこまで行けば、ミリアを扉の中に匿い、俺達三人で襲撃者を対処出来る。
「私もハイトに賛成」
ロゼが俺の案に乗った。
「私もだ」
ミリアも同意した。
「アンタは?」
残っているのはウィルだけだ。
「……その間、ミリアをどうやって護るんですか?」
まだ納得出来て無いようだ。
「その点なら心配無い」
俺はメニューウィンドウを表示し、アイテム欄を操作してあるキューブを実体化した。
「“フォトレスキューブ”。ミリア」
俺がキューブを使用すると、キューブの中で輝いている銀色の光がミリアを包み込んだ。
「これは……?」
ミリアが不思議そうに、己に纏わり付く光を観察した。
「“フォトレスキューブ”……対象者の守備と魔防を一時的に大幅に上昇させるアイテムですか」
「これなら、ミリアでもあの矢に耐えられる筈だ」
受けたダメージと俺の総合的な守備で計算すると、ミリアの総合的な守備に“フォトレスキューブ”を上乗せさせたステータスなら3回まで凌げる。
「ウィルよ。お主の意見を選んでも、私が狙われる事に変わり無い。ならば、少しでも可能性が有る方に進む方が良かろう?」
「……そうですね。分かりました。私もハイト君の案を信じます」
ミリアの止めの言葉で、ウィルが折れた。
「そうか。なら、早く奥へと進もう」
俺は思惑通りに進んだ事に内心安堵しながら、全員に声をかけた。
全員俺の言葉に頷き、俺達は進行を再開した。
「しかし、ハイト君。“フォトレスキューブ”とは、レアなアイテムを持っていますね」
先程の固い表情など何処かに消し飛んだウィルが、俺に話し掛けてきた。
“フォトレスキューブ”は、普通では手に入らない貴重なアイテムだ。特殊な方法で特定の魔物からドロップしなければならない。
「あれはそんなに珍しいアイテムなのか?」
ミリアが話に加わって来た。
「別に。気にするな」
「ハイトの言う通りだよ。アイテムの価値よりも、ミリアちゃんの方が大切だからね」
俺がぶっきら棒に、ロゼが笑顔で言うと、ミリアは涙ぐんだ。
「……うむ、ありがとう。お主らがいてくれれば、何も恐れる事は無い。本当にありがとう……」
涙声で例を述べるミリアに、ロゼが優しくその頭を撫でる。
その光景を、俺とウィルは黙って見続けた。ここで早く行こうだなんて水を差すKYではない。
見守りながら何時襲撃されても対処出来るように辺りを警戒している俺は、後々知る事になる。
ミリアを護れたのは偶然であって、決して奇跡では無いと。
<作者の一言>
これから、「追伸」を「作者の一言」に変えます。何かこっちの方がしっくり来るんで。何時もの説明のコーナーは次鐘からやります。




