第二十五鐘 買い物と出会い
宿の外に出てシンベルの空気を堪能する二人。ベンチに座ってハイトは、このゲーム世界のNPCのAIに感嘆を抱いている事を話す。ロゼにとっては現実世界と大差変わり無い存在だと知り、ハイトは現実世界とゲーム世界の相違について思案した。
……と見せかけて、俺は宿には戻らずに、小さい商店に寄っていた。
いくら小さな村だからと言って何も売っていない訳では無く、少ないながらも旅人を対象にした物が売っていた。
(…………)
並べられている商品を一通り眺めながら、俺は迷っていた。
(何買えば良いんだ……)
他人にプレゼントをするなんて小学生以来だ。正直センスのある物を選ぶ自信がない。
選ぶのに時間がかかるが長居はしたくない。
店主がいつ逃げてもおかしくないからな。
(プレゼントも無理があったか)
約束をしたからには破る訳にはいかない。うんうんと悩み続けていると、
「お困りのようですね」
いつの間にか、俺の隣に男が立っていた。
「…………」
早速見知らぬ人には無条件で警戒する俺。
「怪しい者ではありませんよ」
こちらの警戒を解く為に笑顔で話しかけて来た。
確かに外見は怪しそうには見えない。薄い黄金色の髪に茶色の眼をした姿は、俺とは正反対だ。
顔も整っており、爽やかイケメンと言う風貌だ。社会人ぐらいの年に見える。
「怪しい奴は大体その台詞を吐くんだよ」
それなのに、俺は我ながら捻くれた返事を返した。
「なるほど。そう言われると、反論の仕様が無いですね」
屈託の無い笑みで、感心したように言った。
「……何で感心してるんだよ」
普通ここは怒るところではないのか。
「いえ、あまりにも綺麗な返し言葉だったもので」
「……はあ」
この男、何かがズレている気がする。
「自己紹介がまだでした。私はウィルと言います。よしなに」
ウィルと名乗った男が俺に握手を求めるように、手を差し出して来た。
「…………」
俺はそれを一瞥して、当然無視した。
「…………」
ウィルは差し出した手を下げない。
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「………………………………」
「………………………………」
小さな商店の中で頑なに手を差し出す青年と、それを頑なに無視する少年というシュールな光景が誕生した。
「……何で手を下げないんだ?」
結局根負けして訊ねた。
「貴方と握手がしたいからです」
「俺としてどうする」
「仲良くしたいですね」
「俺はしたく無い」
「私はしたいです」
「…………はぁ」
俺はウィルの手を軽く握った。
「これで良いだろう?」
「まだ貴方の名前を聞いてません」
「教える程の名を持ち合わせていない」
「そんな筈ありません。人の名前は、誰も等しくつけられています。名前の価値に上下などありません」
「ああああ、でもか」
「ああああ、でもです」
「じゃあ、ああああ、にはどんな意味があるんだ?」
「あの子はきっとああなるから、将来はあれになって欲しい。と言う意味でしょう」
「いやに愉快な名付け親がいたもんだ」
てか、こんなくだらない話をしている場合じゃなかった。
「貴方の名前は?」
そこに戻るのか。いい加減しつこいな。
「ハイトだ。邪魔だから静かにしてくれ」
きつく言って、俺はプレゼント選びに戻った。
「ハイト君ですか。最初の続きですが、力になりますよ」
「……は?」
力になるって、そんな事して何のメリットがあるんだ?
ウィルは俺の疑問に気づいたのか、
「困った時にはお互い様ですよ」
善人魂全開に言った。
「…………」
追い返そうと考えたが、俺よりもセンスが良さそうなウィルに、プレゼントを選ばせた方が良いかもしれない。
「手伝ってくれ」
俺は他人に頼む事にした。
「はい、何をすれば良いですか?」
「仲間にプレゼントをしたいが、何を買えば良いか分からない」
「その方は男性ですか? 女性ですか?」
「女だ」
「その人の好きな色とか分かりますか?」
「……いや」
ウィルに言われて気づかされた。
(俺、ロゼについて知っている事が少ないな)
好きな色さえ知らないとは、これから世界中を歩く仲間だというのに如何な物か。
(これからは、もっと会話をする時間を設けた方が良いか)
上手く会話を続けられるかは不明だ。
「う〜ん、そうですね……」
ウィルは考え込むように唸った。
無理も無い。訊ねられる質問に、俺は満足に答える事が出来なかった。今のところ、プレゼントの相手が女だという事しか教えていない。
「これなんてどうですか?」
なのに、ウィルは数ある商品の中から一つを選び抜いた。
ウィルの手には、翡翠色の宝石がついたネックレスがあった。
「ネックレスか」
「はい。ネックレスなら嫌いな人はいないですし、贈り物なら最適だと思いますよ」
確かに、ネックレスならハズレではないだろう。
「そうだな。これにするか」
俺はウィルから翡翠のネックレスを受け取ると、若干顔が引き攣ってる店主に代金を支払い購入した。
「やりましたねハイト君。無事にゲットしましたね」
「一体何に対して危険を感じていたんだアンタは」
まるで一仕事やり遂げたと言わんばかりの顔で語るウィルに、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
「気にしないでください。それでは、私は少し用事があるので、ここで失礼します」
軽くお辞儀して、ウィルは立ち去ろうとした。
「待ってくれ」
俺は今にも歩き出しそうなウィルの背中に声をかけた。
「はい、何でしょう?」
「……助かった。礼を言う」
感謝を言葉にするのは苦手だが、ここは言っておかなければ失礼だろう。
「どういたしまして。また会えると良いですね」
笑顔で応えて、ウィルは歩き去って行った。
<ファントムトラクト>
銃スキルの一つ。銃口から見えない弾丸を発射する。硬直時間は1,8秒。
<追伸>
定期考査のせいで遅れました。待って下さった方、ありがとうございます。




