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ANOTHER REALITY  作者: マンドラゴラ
第二章 善悪が交差する口
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第二十四鐘 PCとNPC

 森から外の世界に旅立った二人。道の途中で乗った馬車に酔ったハイトを気遣って、ロゼは通過するつもりだった小さな村に滞在する事を決めた。

「……あの、ロゼさん」


「なーに?」


「言い難い事何ですが……」


「んー?」


「手……離してくれませんか?」


 俺は周囲の人々から浴びせられる視線を無視しながら、ロゼにそう頼んだ。

 宿から出てシンベルを歩いていると、一つ気付いた事がある。

 ロゼの容姿は男女関係無く眼を引いていた。

 女は羨望の眼差しをロゼに向けており、男は見惚れたような顔をして溜め息をついた。

 無理も無い。さして女に興味の無い俺でさえ、初めて会った時は見惚れたし、今だってそんな時がある。

 男共はロゼの隣にいる俺を見た後、苦虫を噛んだような顔をしたり、舌打ちをした。

 確かに俺はロゼに不釣り合いな男だが、そこまで反応しなくてもいいだろ、という思いを込めながら男共を見ると、決まって顔を青くして視線を逸らす。果てには、俺から逃げるように距離を置く奴もいる。


(……そんなに俺は不気味なのか)


 変化した自分の容姿を見て覚悟していたが、まさかここまで怖がられるとは思わなかった。

 こんなどうでもいい事に支障が起こるのは良いが、重要な場面で何かあったら訴えてやる。

 で、無視すれば解決する問題は放っておいて、今はこの握られている手だ。

 まだ人が少ない場所は我慢出来たが、今俺達は村の広場を歩いている。

 ……さすがにこの人数は許容範囲を超えている。


「どうしても?」


 ロゼが振り向いた。何故か機嫌が良かった。


「キツイ」


「ん〜……じゃあ、あそこのベンチまでならどう?」


 俺が正直に答えると、ロゼは木陰にある横長の椅子を指して訊いた。


「ああ、それで良い」


 あそこまでなら頑張れそうだ。

 俺とロゼは公園にありそうな木製のベンチまで歩み寄った。

 最初にロゼが座り、次に俺がロゼの隣に座った。勿論、多少の距離を置いてだが。

 そこで、やっと手が解放された。


「いい村だね〜」


 ロゼが身体を伸ばしながら言った。


「そうだな」


 俺は簡潔に返事をした。

 森の中にあるおかげか、シンベルの空気はあの家に劣らないくらい新鮮で、深呼吸すると心地好い気体が肺に送られ、リフレッシュした気分になる。

 体調の回復に、この空気も影響しているだろう。


「顔色も大分よくなってきたし、もう大丈夫かな?」


 俺の顔を覗き込んで、ロゼは訊いて来た。


「おかげ様でな」


 ロゼが俺の無謀な決定を止めてくれて正解だった。


「ハイトが馬車酔いするなんて思わなかったよ」


「乗り物酔いをした事は無いんだがな……」


 まさか異世界に来て、初めて乗り物酔いを体験するとは考えもしなかった。人生何が起こるか分からないな。


「しかし……このゲーム世界は凄いな」


「何が?」


「NPCがさ」


 俺は広場にいる村人を眺めながらそう言った。

 普通のゲームなら、NPCが何か行動をする時、予めシステムによって決められている範囲内で動く。

 俺が初めてこのゲーム世界のNPCを見たのは、馬の手綱を引いていた人だ。

 彼は俺達が馬車に乗ると、被っていた帽子を脱いで「こんにちわ」と一言挨拶をしてお辞儀をした。

 これはNPCとして、異変の無い行為だ。

 だが、俺が酔って、ロゼが彼に次の村までの距離を訊いた時、彼は彼女の質問に答えた後、俺に気遣いの言葉を言った。

 普通なら有り得ない行動だ。PCである俺の体調と言う不確定要素に首を突っ込む事は。

 そして、視界に映る人々の行動も多種多様だ。

 世間話をする奥さん方、ボールを蹴りながら広場を駆け回る子供達、俺の事を不審な眼で見る男女のカップル。

 皆各々の意思で動いているように見えた。


「まるで……」


「俺たちみたいだ?」


 ロゼが俺の言葉を代弁して言った。


「ハイトはNPCの行動に違和感を感じる?」


「違和感……と言うか、戸惑いに近いな」


 俺みたいな年中無休のゲーマーは、ある程度ゲームのお決まりと言うものを掴んでくる。例えば、RPGで初めての町に着いたら、まずは町人に話しかけて情報を集めるとか、ダンジョンの奥にセーブと回復が出来る親切設計があったら、その奥にボスが待ち受けているとか、ここにいるNPCは次にこういう行動をすると予測出来るとか、学習した知識で物語を進行する事が出来る。

 それが出来ない。

 このゲーム世界は、現実を忠実に再現しているように見える。怪我をすれば痛みを伴い、腕を斬られれば元には戻らず、出血を放置していたらそのまま死ぬ。

 眼に映る色も形も、データによって構成されたとは思えないクオリティだ。触感や嗅覚、味覚と言った普通のゲームでは使わないであろう器官までもが刺激される。

 見るもの感じるものが現実、またはそれに近い。

 まさに『ANOTHER REALITY』だ。

 果たしてゲームの枠から外れたゲームで、俺の常識は通用するのだろうか。


「そんなに深く考えなくてもいいと思うよ」


「……そうか?」


「そうだよ。と言っても、これはゲームをあまりしていない私だから言える事かもしれないけどね」


 ロゼは苦笑しながらそう言った。


「ロゼはそれ程ゲームをしなかったのか?」


「しなかったね。やったゲームの数は五本指に入る程度だったし、高校に入学した時からまったくしなかったなぁ」


「俺には想像できない生活だな」


 ゲーム無しの人生とか拷問でしかない。


「だからね、私にはPCとNPCの区別が定着してないと言うか、あまり考えた事がなかったんだよね。今の私にとってNPCと言うのは、このゲーム世界の原住人という感覚かな」


「このゲーム世界の原住民か……」


 無邪気に遊び回る子供達を意味も無く眺めながら、俺はロゼが言った言葉の一部を呟いた。

 もし仮にロゼの言った「NPCはゲーム世界の原住民である」と言う定義が正しいとする。

 ならば、俺とロゼ、そしてこのゲーム世界にいるだろう地球人も、NPCと言う事になるのではないだろうか。

 このゲーム世界は、有り得ない要素があるが、現実世界に酷似している要素もある。その一つがこのゲーム世界に最初から存在するNPCだ。

 彼らの感情、表情は俺達PCと一寸も変わらない。それを思うと、ロゼの言う定義も間違いではない。

 ここは、存在するか分からなかった神によって創られたゲーム世界だ。

 では、どっかの神が創ったであろう現実世界も同じなのではないだろうか。

 現実世界には宇宙と言う枠があり、その中に地球がある。

 神は創造主クリエイターであり、宇宙は箱庭ゲームであり、地球は舞台ワールドであり、そこに生きる俺達は――。


(……馬鹿馬鹿しい)


 俺は今まで考えていた想像を全て一蹴した。何ともイタい妄想だ。少しでもそんな意味の無い事に頭を費やした自分に嫌気が差す。


(そう言えば、昔似たような事を考えていたな)


 あれは確か小学生五年生の頃だったか。俺は自室のベットで横になっていた時に考えていた。

 暗い天井を眺めながら、小さい身体には不釣り合いな事に頭を使っていた。

 ――この世界に終わりはあるのか――と。

 俺はこの頃からゲームと読書に嵌まっていた。

 理由は小学生四年生の時にある出来事が起き、俺は他人を信用しなくなった。

 だから、俺はつまらない小学校から帰ると、食事や入浴、家事の手伝い等の必要な事を除く全ての時間をゲームや読書に費やした。

 ゲームや読書は独りでも楽しめる。俺はそれらと遊び以上の感覚で付き合っていた。

 そんな小学生の頃からダメ人間生活をしていた当時の俺は、そんな事を取り止めも無く考えていた。

 人間の手によって創られたゲームや本は、それぞれの終わり方がある。ハッピーエンドだったり、バットエンドだったりと、幕を閉じる形はそれぞれだ。

 なら、この世界は? ビックバンから始まったと言われているこの現実はどうなる?

 始まりがあるから、終わりもあるのか。

 それともこれは例外で、永久に続くのか。

 拙い頭を働かせて思案していたが、途中で止めた。

 考えても仕方が無いと思った瞬間、あの時も馬鹿馬鹿しく思えたからだ。


(世界の終焉か……)


 このゲーム世界は、どっちだろうか……。


「――ちょっとハイト、聞いてるの?」


 ロゼの声で、俺は我に帰った。

 視線を横にずらすと、ロゼが怪訝な顔で見ていた。


「あ、ああ……。何の話だっけ?」


「もう、人がせっかく面白い話をしてたのに。ハイトったら華麗に無視しちゃってさー」


 頬を膨らませてロゼは怒っていた。仕草が子供っぽく可愛らしかったが、言うとさらに油をそそぐ事になるので自重した。


「ふんだ。ハイトなんて知らない」


 何も言わない俺に苛立ちを覚えたのか、さらにキツイ言葉を言った。


「あー……」


 俺は気の利いた謝罪も言えず、視線を下に向けた。

 こういった時、どのような対応をすれば良いのだろうか。長い間人間との関係を絶ち切った俺は、そんな常識を欠けていた。


(ラノベのキャラクターはこんな時、何か装飾品をプレゼントして機嫌を取っていたな)


 常識が欠けている俺は、ラノベの知識を利用する事を思いついた。

 ……今でもダメ人間だな、俺。


「その……だな。何かロゼにプレゼントするから、機嫌を直してくれ」


 何か物で解決しようとしているようで嫌だが、口下手な俺に言葉で解決するのは無理だ。


「えっ……ハイト、私の為に何か買ってくれるの?」


 ロゼが驚愕に満ちた顔で訊いて来た。

 ……まあ、気持ちは分からんでも無いが、その反応はちょっと傷付く。


「ああ、約束する」


「……そ、それなら許して差し上げましょう!」


 ロゼは胸を張って、微妙な壮大さを持って言った。


「(ハイトからのプレゼント……えへへ〜)」


 ロゼが顔を緩ませながら何か言ったが、小さかったので聞き取れなかった。


「約束だからね!? 絶対に忘れないでね!? 絶対だからね!?」


 我に帰ったロゼが念を押すように捲し立てた。


「振りか?」


「振りじゃないよ!」


 何とかロゼの機嫌を直す事が出来たようだ。良かった良かった。


「そういえば、ハイト、何か考えているみたいだったけど、何考えてたの?」


 無垢な瞳で訊いて来るロゼから顔ごと逸らした。

 言えない。「小学生の頃世界の終焉について考えていました(キリッ)」なんて言えない。言ったら死んでしまう。


「……大した事じゃない」


「大した事じゃなくてもいいからさ。話してみてよ」


 興味津々な表情で近づいて来た。


「いや、ホントつまらない話しだから……」


 ロゼが近づいて来た分、俺はロゼから離れた。


「それでも聞きたいな、ハイトの話」


 またロゼが寄って来る。

 俺の心は焦りと痛みによって入り乱れていた。


(そんな眼で俺を見ないでくれ……)


 ロゼの眼には、相手のどんな話も聞いて、会話を通して親睦を更に深めようとする気持ちがあった。

 そんな彼女の眼から逃げようとしている自分に罪悪感が芽生えた。

 寄っては逃げて、また寄っては逃げてを繰り返しているうちに、ベンチの端まで来てしまった。


「フフフ……さあ、捕まえた!」


 端まで来て逃げ場はないかと、ロゼとは反対側の方を向いている隙を突いて、ロゼは膝立ちをして俺の肩を掴んだ。

 男の俺なら女であるロゼの拘束を無理矢理突破出来るかもしれないが、それは現実世界の話。今ここはゲーム世界だ。

 俺とロゼの力の数値。ロゼが体重をかけて下に押す力とそれに抗う俺の力。普段は感じない重力。その他諸々の関係している総データを緻密に算出し、その結果がゲーム世界に影響する。

 結果はロゼの方が上回ったようで、俺は逃げる事が出来なかった。


「ここまで引き延ばされたんだもん。きっと凄く面白い話だよね?」


「ちょ……ロゼさん、眼が据わってます……」


 地味に肩が痛い。


「話してもらうよ。私をこんなに期待させたんだからさ」


「マジ勘弁してくれ……」


 ズイッとロゼが顔を近づけて来た。端から見たら、これってキスシーンに見え無くも無いよな……。

 そんな現実逃避をして、どうやってごまかそうかと脳をフル活用していると、

 コロコロ……トン。


「ん……?」


 爪先に何か当たった感触がした。

 見てみると、そこには一つのボールが。


「何だこれ?」


 サッカーボールよりも一回り小さいボールを持ってから、俺はボールが転がって来たであろう方向に眼を向けた。

 視線の先には、小さな子供達がこっちを見ていた。


(ああ……そういえば、ボールで遊んでいる子供達がいたな)


 このボールは子供達の物か。

 その子供達は……俺とボールを見たまま何もして来ない。

 不思議に思っていると、子供達はひそひそ話を始めた。


「(おい……お前行ってこいよ)」


「(えー、やだよ。あっちにボールを蹴った人が行ってよ)」


「(ぼ、僕だって嫌だよ。何だかあの人怖いもん)」


 ……なるほどな……。


(早速支障出でんじゃねえかッ!)


 今すぐ誰かあの馬鹿呼んで来い。一発殴りたい。


(さて、どうするかな)


 あの馬鹿に使ってやる時間が無駄だ。思考を変えよう。

 俺は頭を振って、子供達に眼を向けた。

 ……俺から逃げたそうな眼でこっちを見ている。


(これ、俺が行っても逃げるよな……)


 仕方無い。ここはロゼに頼もう。

 俺がボールをロゼに渡そうとした時、


「皆、ここで待ってくれ」


 一人の女の子が子供達の輪から抜け、俺に向かって歩いて来た。


「あ、危ないよミリアちゃん!」


 悠々と歩いて来る少女はミリアと言うらしい。

 いや、そんな事はどうでもいい。そこのお前危ないとか言うなただでさえ周りから警戒されてんだから。

 その思いを込めて発言した本人を見ると、その少年は「ひいっ」と怯えた声を上げた。


「だめでしょハイト。小さい子を怖がらせたら」


 隣から窘めるロゼの声が聞こえた。


「……ああ」


 見ただけなのに……。

 悲しい思いに浸っていると、あの少女が俺の前に立った。

 肩の上で切り揃えられた茶髪。同じ色の眼には、自信に満ち溢れていた。


「……ほら」


 なるべく優しく言ったつもりだ。

 遠くから何か怯える声が聞こえたが、気のせいだ気のせいだ気のせいだ。


「うぬ、すまぬ」


 少女らしからぬ大人びた口調で喋る少女だ。

 ミリアが俺からボールを受け取り、礼儀正しくお辞儀をした。


「皆の言う事は気にしないでくれ。悪気があって言っている訳では無いのだ。」


「あ、ああ」


 まさか謝られるとは思っていなかった。

 吃りながらも言った了承の言葉に、ミリアは満足気に頷いた。


「お主ら旅の者じゃろう? ここは良い所じゃから、ゆっくりしていくと良い」


 そう言って、ミリアは子供達の輪に戻って行った。


「怖がってなかったね、さっきの娘」


「そうだな」


「やっぱり、分かる人には分かるんだよ。ハイトの優しさは」


 嬉しそうにロゼは笑っていた。


「……どうだろうな」


 まあ、無駄に怖がられるよりはマシか。


「さて……と」


 俺はベンチから立ち上がった。


「あれ、ハイトどこ行くの?」


「トイレ」


 簡潔に言って、俺は宿に戻った。


 <レスレイション>

 治癒魔法の一つ。対象者の装備している装備の耐久値を一つ全回復する。属性は無。待機時間は2,4秒。


 <追伸>

 突然ですが、皆さんはこの世界に対して何か抱いた事はありませんか? ハイトは小学生の頃から世界の終末について考えてたようですが、皆さんはどう思うでしょう?

 この話を読んで少しでも思うところがあったら、考えてみたら何か面白い発見があるかもしれません。

 この作者の言葉に、何か特別な意味がある訳ではありません。なので、深く考えなくてもいいですぜ。

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