第二十三鐘 シンベル
お待たせしました。ここからハイト視点に戻ります。森から旅立った二人の冒険を引き続きお楽しみください。
世界が揺れていた。
「…………」
視界が揺れていた。
「……………………」
見る物全てが揺れていた。
「………………………………」
森の香りが何時にも増して疲労している俺の心を癒す。
吹き抜ける風が心地好く感じた。
「…………………………………………」
座っている俺の下から、不規則な振動が身体に伝わる。
流れていく風景を見ながら、俺は――
「…………………………………………………おえっ」
盛大に酔っていた。
俺とロゼが旅を始めて二日目。
広い森の中を一日歩き続けて、やっと整備された道(野草などを取り除いただけの、RPGにお約束なアレ)に辿り着いた。
そのまま道に沿って歩き続ける事数分、俺達の後ろから馬車が通りかかった。
せっかくだから乗せて行って貰おう、と言うロゼの提案に賛成し、俺達は数人の乗客を乗せた馬車に座った。
日本では乗り物酔いをした事が無かったのから、馬車も平気だろうと楽観していた。
甘く見ていた。
土地の関係もあるだろうが、馬車がここまで独特な振動をするとは思わなかった。
その結果、俺は少しでも気持ち悪さから逃れる為、現実逃避を試みていた。
「ハイト、大丈夫?」
隣から心配する声が聞こえた。
聞くだけで心が癒されそうなその美声の持ち主は、それに見合う容姿をした美少女のロゼだ。 限界突破までもう一歩、と正直に言うところだったが、そんな事を言ってもロゼをさらに心配にさせるだけだ。
そんな意味の無い事をしても仕方が無いので、ここは戯けてみせて、安心させよう。
「だ、大丈夫だ。問題うえっ」
……自分で言っといて何だか、大丈夫じゃないな。色んな意味で。
「無理しなくてもいいんだよ?」
俺の言葉からさらに心配したのか、それともネタを知らないのか、どの道俺の茶番は無視された。
(ネタに滑った芸人って、こんな気持ちなのか……)
それでもめげずに挑戦する芸人さん、凄いな。どうでもいいが。
「本気で大丈夫だ……心配いらぐはッ」
ヤバイ。オープンする。胃のごちゃまぜがオープンしてしまう。
てか、ぐはッ、って何だよ。どう考えても酔っている奴が言う台詞じゃないだろ。
……何か花畑が見えてきた。
「ぜ、全然大丈夫そうに見えないよ」
俺の体調が悪くなってから、俺の背中を擦る行為を続けているロゼは、
「降りる?」
俺にそう訊いて来た。
「……いや、諦めるのはまだ早い」
俺は残された気力を振り絞って、姿勢を整えた。
……片手で口を押さえたままなのが情けないが。
「次の町、または村までは行ける。もう少し頑張ればその先の所まで――」
「無理しないの! 次の所で降りるからね、いいね!?」
「あ、ああ。分かった」
有無を言わせない声色で説得するロゼに、俺は反論する事が出来なかった。
「すみません、次の町か村までどれくらいかかりますか?」
「あとちょっとじゃよ。もう少しの辛抱じゃ。頑張りなされお若いの」
「……どうも」
ロゼは大きな声で、馬車を引いている馬を操縦している人に訊き、その人はロゼに答えた後、他人の俺を励まし、KO気味な俺は一言お礼を言った。
ガタゴトと揺れ動く馬車の振動を感じながら、俺は内なる魔物(性的な意味では無い)と戦っていた。
(頼むからもってくれ……)
「はい、お水」
「サンキュー……」
あれから数分。俺達は森の中にある小さな村で降りた。
『シンベル』。それがこの村の名前だ。
シンベルに一つしかない宿の部屋を借り、俺はそこのベットで寝ていた。
「…………?」
俺の気のせいでなければ、飲んだ水に微かに甘い味があった。
「ロゼ、この水って……」
「どうやらこの村の特産品みたいだよ? 天然水にこの村でしか採れない果物を漬けた飲料水だって」
「へぇ……」
俺は先ほど飲んだ液体を見る。無色透明で、何処からどう見てもただの水にしか見えない。
後味が残らず悪くない。まだ治り切らない酔いの身体には、スッキリする味は大歓迎だ。
「ご馳走さん」
俺は飲み干したコップをロゼに渡した。
「少しは気分よくなった?」
テーブルに空っぽのコップを置き、ロゼは俺が入っているベットに腰掛けた。
「良くなった」
ロゼの世話のおかけで、俺の体調は吐き気を催す程のものではなくなった。
「よかった」
俺の返事に、ロゼは笑みを浮かべた。
最近、ロゼは笑顔が増えたような気がする。前は何が悲しい出来事を思い出したような、何かに怯えているような表情を表に出す事があったが、今ではそれを見る事も無くなった。
何があったかは分からないが、仲間として喜ばしい事だ。
「暇だし、そこら辺を歩いてくる」
俺はベットから立ち上がり、ロゼにそう告げた。
「私も一緒に行く。何かあったら不安だし」
ロゼも俺と同じく立ち上がった。
「心配しなくてもいい。歩けるぐらいには回復したから」
「それでも心配なの。私と一緒は、イヤ?」
ロゼが不安な顔で俺に訊いて来た。
「……そんな訳ないだろ」
恥ずかしかったが、俺は何とかそう言えた。
「ふふっ、ありがとう」
ロゼがまた笑みを浮かべながら、俺の手を取った。
「お、おい」
人前で手を繋ぎながら歩くという行為は、女性との交遊が皆無だった俺にはハードルが高い。
俺は柔らかい手の感触を惜しみながら、ロゼに手を離してくれと頼もうと、口を開け――
「いこっ!」
――ようとして、ロゼが振り向いた。
その顔には満面の笑みがあって、俺は何も言えず、見惚れていた。
(……あ)
気付いた時には、ロゼはドアノブを回して、ドアを開けていた。
(タイミングを逃してしまった……)
………………………。
(まあ、いいか)
これも立派な大人への経験だと思おう。
「(ハイトと一緒にいる時間を、いっぱい作りたいのもあるんだけどね)」
「ん? ロゼ、何か言ったか?」
考え事に没頭していてあまり聞き取れなかったが、ロゼが何か言ったような気がした。
「う、ううん。何も言ってないよ!」
「…………? そうか」
(空耳か……?)
何故か顔を若干紅くしているロゼのを見ながら、俺は首を捻った。
<キュア>
治癒魔法の一つ。対象一人のHPを最大値の七割+詠唱者の魔力分回復する。待機時間は約2,5秒。
<追伸>
またもや訂正です。様々な魔法スキルを説明してきましたが、それを属性や性質で分けたいと思います。例えば、炎属性の魔法スキルだったら炎魔法スキル、水属性の魔法スキルだったら水魔法スキルと言った具合にです。ご協力をお願いします。




