第二十六鐘 本音の夜
ロゼと別れて一人店に向かうハイト。詫びの雛を購入する為に真剣に選んでいた時に、一人の青年が近寄る。ウィルと名乗る青年の手助けを受けながら、ハイトはロゼの為の品を購入した。
「あ、ハイトお帰り。どこ行ってたの?」
何もする事が無く、宿に戻ると、ロゼが先に戻っていた。
「あー、ちょっとな」
本当の事を言うのも恥ずかしいので、適当にはぐらかした。
「ふ〜ん……あ、そうだ、シンベルでイベントがある事、ハイト知ってる?」
首を傾げたがそれ以上追求せず、話題を変えた。
「いや、知らん」
「何でも年に一度のお祭りがあるらしいよ」
「祭り……?」
思い返せば、ロゼと散歩をしている時に、何か飾りを付けている人がいたような気がする。村中も変な活気があったな。
「どんな祭りなんだ?」
「私たちがベンチに座っていた時に遊んでいた子供たちの中に、ミリアちゃんがいたでしょ?」
「ああ、いたな」
俺を怖がらなかった少女か。
「ミリアちゃん村長さんの娘さんでね。この村には古くからの習わしがあって、次期村長の子は十歳になると、近くにある洞窟で儀式をして、一人前になった事を証明するの」
「へえ」
「その儀式に挑む子供たちの為に、いつしか楽しませるお祭りもやるようになったんだって」
「へえ」
「だからね……」
ロゼはそこまで言うと、何故か指を絡ませてながら頬を染めた。
「ハイトはすぐにシンベルを出たい?」
「…………? いや、今すぐに出たいとは思わんが」
元々当ての無い旅だ。すぐに何かする事は無い。
「な、ならさ……私と一緒に歩かない?」
「……俺とか?」
コクンとロゼは小さく頷いた。
「構わないが」
断る理由も無いしな。
「やったー! ありがとうハイト!」
「お、おう」
俺の手を握ってぶんぶんと上下に回すロゼに、俺は少し驚いた。
そんなに嬉しい事か?
「でも、良いのか?」
「…………? 何が?」
キョトンとした様子でロゼが訊いて来た。
「そんなに楽しみにしている祭りを楽しむ相手が俺なんかでさ」
「…………」
ロゼの腕を振り回す力が弱くなっていくのに気づかないまま、俺は言葉を続けた。
「ロゼも知っている通り、俺は誰かを楽しませる事が苦手な人間だ。折角の祭りなんだから、俺なんかよりも他の奴といた方がきっと楽し――」
両方の頬が暖かい温もりに包まれて、俺は口を動かせなかった。
「ハイト、それ以上言ったら、私怒るよ」
「ロゼ……?」
静かに、でも確かな怒気を感じて、俺は動く事が出来なかった。
「私がいつハイトの事をつまらない人だって言ったの? 確かに、ハイトは人と接するのが苦手な人だって思っているよ。でも――」
俺の眼を見つめながら、ロゼは真剣に語る。
「――私はハイトと一緒にいられて、凄く楽しいよ。他の人がどんなにハイトの事を怖がっても、私はハイトを優しいと思うよ。だから……」
何度も見るロゼの微笑み。だが、見惚る事の無い日は、おそらく一生来ないだろう。
「私は君とお祭りを楽しみたい。君以上に楽しめる人なんていないから」
「…………」
俺は胸が熱くなるのを感じた。
あの時から、俺はロゼに対して負い目を感じていた。ミッションの為とは言え、人間を殺す事を拒むロゼに強要し、俺はロゼの負担を一つ作ってしまった。
本人が許してくれたとしても、俺がやったことに変わりは無い。
俺といてもロゼは楽しめない。
そう思い込んでいた。
だが……。
(俺の勝手な妄想だったか)
俺はロゼに失礼な事をしていただけだ。
「悪かった。それと……ありがとう」
「分かればよし! 今度ハイトの事を悪く言ったら、本気で怒るからね!」
そう言って、ロゼは微笑みを浮かべた。
「それと、ハイトは気づいてないかもしれないけど、君、笑ってたよ」
「……は?」
笑っていた……俺が……?
思わず自分の頬を触ってみる。手の感覚からは頬の手触りが伝わるだけで、笑っていたかは分からなかった。
「信じられないような顔してるけど、本当だよ」
「そう……か」
まだ実感が湧かない。普段笑えない俺が笑うなんて……。
「あ〜、楽しみだなぁ! ハイトとのお祭り!」
クルクルと楽しそうに回るロゼの姿を見ていると、自然と俺も楽しくなっていた。
(まあ良いか。ロゼが笑っていたと言うなら、笑っていたんだろう)
それで良い。深く考える必要は無い。
そう思った。
――その夜。
「なあ……やっぱりまずくないか? 二人一緒の部屋で寝るのは」
「だ、大丈夫だよ! ベッドは分かれてるんだし」
「そういう問題か?」
「あの家に住んでいた時は一緒の部屋で寝てたじゃない!」
「まあそうなんだが……。あれは部屋が足りなかったから、止むを得ずあそこに布団を敷いたんだろ?」
「そ、そうとも言えなくもないかもしれないね」
「だろ? 今からでも遅くは無いから、新しい部屋を借して貰おうぜ」
「だ、だめっ!」
「いや、ここは拒否する場面じゃないだろ」
「だめったらだめ!」
「何故そこまで拒む……。なら訊くが、何かの間違いが起こったらどうするんだ?」
「そ、それは……(私としては嬉しいと言うか……むしろ来てくださいと言うか……)」
「…………?」
「それに……ハイトが寝込みに来る度胸が無い事、私信じてるからっ」
「……ああ……。(俺はいったいどんな返事を返せば良いんだ……?)」
そんなこんなで、長い一日は終えた。
<グレプション>
剣スキルの一つ。命中すれば必ずクリティカルとなる。硬直時間は1,7秒。
<追伸>
またしても遅れてしまいました。何かあった訳ではなく、ただ単純に忘れていただけです。最近だらしないですね……。待っていた方すみません。




