番外編24 些細な一コマ
少年と出会った翌朝。ロゼは夢にうなされる少年の為に手料理を振舞おうと、一人キッチンに立っていた。料理をしながら、昨日の件について思案している間に時間は過ぎ、食べ終えた少年からお礼の話を持ち出される。ロゼは少年を最終的に利用するかどうか決めてないものの、初心者である少年を鍛えた方が良いと判断し、少年を指導する事を決めた。
「で、とうするんだ?」
握手をし終えた後、少年はそう訊ねてきた。
どうする、というのは、今日は何をするのか、という事だろう。
「そうね……」
私は何をしようかと考えて、
「今から魔物と実戦しましょうか」
そんないきなり!? と言うかと思いきや、
「分かった」
そう言って玄関に向かった。
「あれ、やけに素直だね」
私が不思議に思って、そんな事を言うと、
「どうせ言葉で指導するのが苦手なんだろ?」
振り向かず、歩みを止めずに少年はそう言った。
「まあ……当たってるけどさ……」
当たってるから、強く言い返せない。
微妙な気分を抱いて、私は少年の後を追った。
「剣を貸してくれ」
私が家の外に出ると、待っていた少年がそんな事を言った。
「剣? ……ああ、君はこのゲーム世界にログインしたばかりだったね」
「忘れてたのか」
「い、いや、忘れてなんて……」
「…………」
「…………」
「そんな事より、早く貸してくれよ」
少年はあまりこだわらない性格のようだ。
「う、うん」
少年の気が変わらないうちに、私はケータイから予備の剣を実体化した。
「はいこれ」
剣を少年に渡す。
少年は鞘から剣を抜き、眼の前に構えた。
「――いい剣だな」
じっと剣を見つめていた少年が、不意に言った。
「……分かるの?」
日本で真剣をみる機会はそんなにない筈だけど。
「ああ、何となくな」
「…………」
(……少年は本当はお茶目さんなのかな……?)
私が疑問に感じている中で少年は剣を縦横に振っていた。
(……あ)
私はとても大切な事を思い出した。
「君っ!!」
「……何だ?」
私が大声で呼ぶと、少年はうるさそうな顔で私を見た。
「私、とてもとても大切な事を忘れてたの」
「大切な事……?」
私の危機迫る顔を見たせいか、少年の顔も真剣になってきた。
「私ね――」
「…………」
「――えっと……」
「……おい?」
口ごもる私に、少年は先を促した。
「だから……その……」
「はっきりしろよ」
「だからっ! 私お風呂入ってないの……」
「…………………………」
少年が気まずそうに視線をそらした。
「あーうん」
少年が頭をかきながら視線はそのままで、
「一風呂入ったらどうだ」
慈悲深い事を言ってくれた。
「……! いいのっ!?」
「ああ」
「ありがとう! 優しさなんて一欠けらもないと思ってたけど、見直したよ!」
「…………」
少年は刺すような視線で見た後、
「風呂っつっても、どこにあるんだ? あの家の中には無かったんだが」
もっともな疑問を私にぶつけた。
「ふふふっ、まあ私について来て」
すぐには教えず、勿体ぶるように私は言った。
「はいはい」
少年はどうでもいいという感じで私について来た。
「あの湯気が私のお風呂だよ」
前方に見える湯気を指しながら、私はそう告げた。
「へえ」
少年は関心したように言い、もうもうと立ち込める湯気を見た。
なんだ、少年にも何かに興味を抱く心があ――
「湯に浸かって身体を洗っているのかと思ってたが、まさか湯気だったとはな。アンタ凄えな」
「そんなわけないでしょ! 私はちゃんと湯船に浸かっています!」
一瞬でも少年に感心した私が馬鹿だった。
「アホな事言ってないで、さっさと降りるわよ」
「は? 降りるって……」
少年は途中で言葉を止めた。
そう、今私たちは下に降りている。階段を使って。
「へえ、これは凄いな」
少年が、今度は本当に関心したように言った。
「凄いでしょ」
私は鼻を高くして、眼の前に広がる温泉を自慢した。
ここは縦穴に掘られていて、そこから温泉が湧き出ていた。
「敵が襲い掛かって来たらどうするんだ?」
少年が周りを見渡しながら、私に訊ねた。
「大丈夫。ここ、魔物が寄り付かないようになっているから」
このゲーム世界のルールによって守られているんだろう。
「システムによって守護されたエリアか……」
少年もすぐに納得したようだ。
「うん。だから、危惧する事は……」
私は言葉を切って、少年に視線を向けた。
「……まあ、一日じゃ信用出来ないだろうしな」
すぐに理解したようだ。
「物分かりが早くて助かった――」
「一緒に入って親睦を深めようとするんですね分かります」
「君は私を馬鹿にしているのかな!?」
分からない……この人の性格が分からないよ……。
「冗談だ。アンタの自由にしてくれて構わない」
少年は真面目な表情で言うと、その場に腰を下ろした。
「……本当だよね?」
「冗談だと言った筈だ。何より……」
「……何より?」
「アンタの裸に微塵も興味がない」
…………………………。
「……そう。なら、お言葉に甘えさせてもらうね」
「ああ――って、何怒ってるんだ?」
「ふふっ、気のせいよ」
「ふぅ〜、いいお湯」
着用していた装備を全て外して、私は湯船のお湯に入った。
丁度いい温度の温度は、一日の疲れを癒す気持ちよさだ。
事実として、この温泉には回復効果があり、浸かっているだけでHPが回復していく。
まさに旅人のオアシスと言うものだ。
さて、あれから一言も喋らない少年はと言うと、
「…………」
私の後ろに横たわっていた。
眼隠しをして、縄で身体をぐるぐる巻きにした後、魔法で気絶させた。
念には念を入れないと……ね。
この温泉にいるのは、ほとんど私一人だ。
(……でも、ちょっとやり過ぎたかな……)
さすがに魔法はオーバーだったかもしれない。
そもそも、私は裸に興味がないと言われただけで、何をそんなに怒っているんだろう。私には色気がないなんて、昨日分かりきった事なのに……。
「私……どうしちゃったんだろう……」
そんな私の呟きの返答はもちろん返って――
「それを俺に訊くか?」
きた。
「えっ!? 君……起きてたの!?」
驚いて私は後ろを振り返る。
少年は相変わらず拘束されたままだったが、ぐるんと回って私の方を向いた。
……見えてないよね?
「まさか気絶させられるとは思わなかったな」
「うっ……ごめん」
「…………」
少年は何も言わず、黙ったままだった。
「……怒ってる?」
「別に」
「…………」
私は気まずくなり、視線を少年から外した。
「「…………………」」
沈黙が辺りを支配した。
「……あ、あのさ……」
「…………」
少年は何も言わなかったけど、私は気まずい雰囲気をなくす為、そのまま続けた。
「私って……色気がないのかな……」
「……は?」
「えっ……あ」
とんでもない事を言ってしまった。
「えっと、その、そうじゃないの!」
(私はいったい何を訊いているの!? これじゃまるで……)
私が裸の件について気にしているみたいじゃない。
「……なあ」
私がばしゃばしゃと水面を叩いていると、まったく動揺している様子がない少年が私に語りかけてきた。
「な、なに?」
固唾を飲んで少年の言葉を待つ。
「それ、誘ってんの?」
整然とした声で私に追い討ちをかけてきた。
「いや、だから、違うんだって――!」
少年はフォローと言う言葉を知らないのではなかろうか?
(――あれ?)
私は少年の言葉に、何か引っかかりを覚えた。
(誘ってる……?)
少年はそう思って私にそんな事を訊いたのだ。
逆に考えれば、私に色気がなかったら、そんな事を言わないのでは……?
「…………」
私は少年の方を見る。
少年はいつの間にか私に背を向けていた。
「……ありがとう」
「…………」
顔をほんのり赤くしながら言っても、少年に反応はなかった。
<オスレイ>
斧スキルの一つ。装備している斧を振動させ、敵を攻撃する。一割の確率で対象をスタン(一定時間気絶)させる。硬直時間は1,5秒。
<追伸>
この話を出すのに少し考えました。理由は作者的に、ハイトの性格が少し壊れているような気がしたからです。考えた結果「この姿もハイトの一つ」という事で、変えずに投稿しました。気になった方は申し訳ありません。




