番外編22 久方ぶりの対話
見知らぬ少年と共に敵を殺し、生き延びてしまったロゼ。少年は強力なスキルを習得していながらも、自分の容姿に驚いたりと変わった行動をする人物だった。そんな無愛想な性格の少年が自分から離れてしまう事に、ロゼは何故か引き止めてしまう。嫌がる少年を何とか行かせまいと、ロゼはお礼を理由に自宅に招いた。
「ここが私の家だよ」
歩いて三十分くらい。ようやく私の家に着いた。
森の木がぽっかりと無い所に、木で出来た小屋。これが、私のテリトリーだ。周囲の環境にとけ込んでいる程似合っているので、私はこの家が結構気に入っている。
ドアを開け、中に入り、
「さあ、どうぞ」
私は玄関の前で立ったままの少年に促した。
私の家や部屋に異性の人を招き入れたのは、初めてではない。私がまだ“天弧の遊楽団”に所属していた頃、仲間を部屋に入れていた。
と言っても、さすがに二人きりになった事は無い。その事に関してはラナさんが、
――恋人同士じゃないとか、合意が取れない場合は二人きり、または男女の一方が一人だけの時は、個人の部屋に入るのは禁止!――
と、規則を発令したからだ。これは私にとって凄くありがたいルールで、ラナさんにこれを発令した理由を訊いてみると、
――私は色々な場所で、そう言う男女のいざこざを見てきたから――
少し悲しげな表情でそう語っていた。
現実世界にいた頃、ラナさんは親友のクリフさん、グルトさんと一緒にMMOをプレイしていて、そこでもギルドを作って、MMOで知り合ったプレイヤー達と楽しい時間を過ごしていたらしい。
でも、一つの小さな拗れがその関係をボロボロに崩した。
原因は三人の男女関係。一組の男女がお互いに想いを伝えられず、後一歩が踏み出せない所に、同じギルド仲間でその女の人が好きだった男の人が、進まない関係を利用し、その男の人から女の人を奪おうと企んでいた。一早くラナさんがこれに気づき、自分の力だけで三人の関係をどうにかしようと努力した。
それがいけなかった。
ラナさんの行動に気づいた男の人が、早くその女の人を手に入れようと、強硬手段でその男女の仲を引き裂いた。
二人の不穏な仲は瞬く間にギルド中に広がり、誰もが同じ仲間に不信感を抱き、ついにはギルドが破滅した。
その時の事を、ラナさんは“天弧の遊楽団”にいた時も後悔していた。二度とあんな悲惨な事件が起こらないようにと、このギルドでそんな事件が起こって欲しくないと、ラナさんは言っていた。
(…………)
私は静かに部屋の奥に入った。今、私の顔を少年に見られたくなかった。
(ラナさんが今の光景を見たら、怒るかな?)
きっと怒らないだろう。私には、その価値がない。
「…………」
足音が聞こえる。どうやら、少年も入ってきたようだ。
振り向くと、少年は中の様子を観察していた。
(……私、変わった物置いてないよね?)
私は少年に気づかれないように部屋を見渡した。
変わった物は無い。むしろ、生活に必要な物しか置いてない。一言で言えば、殺風景な家だ。
「さて……何をくれるんだ?」
私がテーブルのイスに座ると、少年も私の前にあるイスに座って、本題を出してきた。
一刻も早く私から離れたいのがひしひしと伝わってくる。
「う〜ん……」
出来る事なら、私も少年とは離れたい。早く決めてしまおう。
(どんなお礼がいいかな)
私も、少年も納得するお礼はなにか。私は腕を組んで考えた。
……。
…………。
(そういえば、彼は初心者なんだよね)
私は少年を見る。彼は窓の外の光景を眺めていた。
私はあの時の事を思い出していた。戦い方と言い自分の容姿に対する反応と言い、初心者丸出しだった。
少年はこの森から出たかったようだけど、PCだから帰る家は無い筈。
ならば、旅をするつもりなんだろうか。
(あの実力じゃ無理ね)
旅はそんなに甘くない。弱い人が外の世界を歩き回れば、すぐに魔物や盗賊の餌食となってしまう。
(……なら、私が少年を鍛える?)
そうすれば、時間はかかるだろうけど、少年は強くなる筈だ。
(お礼はこれで良いんじゃないかしら)
これなら少年も納得する筈だ。
少年を鍛えて、私より強くして、そして――
(少年が私を殺す――…………?)
…………………………。
(私は一体何を考えているの!?)
意識せず思いついた発想に、私は自分が恐ろしくなった。
会ったばかりの人に自分を殺させるなんて、どうしたらそんな発想にたどり着くのだろう。
(いや……でも……)
私はこの森で、数え切れない程の魔物と戦った。どれも、私を殺せる程の実力はなかった。
このままで、私は死ぬ事が出来るのだろうか。
(…………)
私は視線をテーブルから少年の方に移した。
「おい、まだ決まんないのかよ?」
少年はいつの間にか、私の方を見ていた。
「……ねえ、明日にしない?」
私は少年の言葉に思考が停まり、そんな事を言っていた。
「はぁ!? 何で明日に持ち越さなくちゃならないんだよ!」
少年の言い分はもっともだった。私が言い出した事なのに、こんな勝手な事を言っているのだから。
「今の時刻は零時五十八分。もう寝る時間だよ。頭も働かないし」
私はケータイを少年の前に突き出し、それっぽい事を言って納得させようとした。
今はダメだ。今の私は今まで以上におかしくなっている。こんな時に何かを決断したくなかった。
「………………分かった。明日の朝まで待とう。それで案が浮かばなかったら地図だけ貰って俺は出て行くぞ」
少年は何か言いたげそうな顔をしていたが、私のお願いを受け入れてくれた。
「ありがと。それじゃあ寝ましょう?」
私は気持ちが変わらないうちに、話題を終わらせたかった。
「俺は何処で寝れば良いんだ? 床に寝転べってか?」
少年は私に皮肉交じりの質問をした。
「ううん、人が来た時の為に私布団を一式用意してたの。それを使って。私が用意するから、君はそこで待ってて」
私はその皮肉をさらりと受け流し、寝室へを向かった。
人が来た時の為に用意してたなんて、まるっきりの嘘だ。ケータイの中に保存していたのを破棄していなかっただけだ。
私は寝室に入り、ベットの横に置いてある布団を床に敷いた。
布団は使っていないのにふかふかだった。
(いつも乾しておいてよかった)
「布団の準備できたよー」
敷き終えて、私は隣の部屋にいる少年に言った。
(……あれ、私、男の人と一緒の部屋で寝るのって初めてじゃない?)
今更そんな事に気づいてしまった。
(な、何もしてこないよね……?)
今からそっちで寝てなんて言えない。そんな事言ったら、意識していると思われてしまう。
あたふたと考えているうちに、少年が寝室に入ってきた。そして、止まった。
沈黙…………。
「私と一緒に寝ることになるけど……変な事期待しちゃだめだからね?」
私は抱いている気持ちを悟られないように、余裕の表情をしておどけてみせた。
「別にしねえよ」
ぶっきらぼうに言って、少年は布団の中に潜り込んだ。
(よ、良かったぁ〜。気づかれてないみたい)
心の中でほっと一息吐いた。
「冗談だって。おやすみなさい」
安堵の笑みを浮かべて、私は少年におやすみの挨拶を言った。
少年は何も答えず、眼を瞑った。
(……寝顔かわいい……)
意外にも、本当に意外にも少年の寝顔はすごくかわいかった。あの無愛想が信じられないくらいだ。
(こんなにかわいいなら、普段からそうすればいいのに)
そう思わずにはいられない程のかわいさだった。
(……って、眺めている場合じゃない)
夜も遅い。明日に備えて私も早く寝よう。
(私、寝れるかな……)
少年の寝顔を見ながらベットに入り、私はふとそんな事を思った。
隣には異性の人がいるのだ。寝ているように見えて実は機会を狙っているのでは……。
(考えても仕方ないね)
もし、少年が夜這いをしに来たら、魔法を撃ち込んでやろう。
そう決めて、私もベットの中で眼を瞑った。
寝れるかどうか心配だったけど、疲れていたのかすぐに眠くなり、私の意識は落ちた。
<ボルファング>
魔剣スキルの一つ。剣に雷を纏い、対象を斬り裂く。一割の確率で対象に“麻痺(全身を動かし難くする)”の状態異常を与える。属性は雷。硬直時間は約1秒。




