番外編21 無愛想な少年
死を覚悟したロゼに一人の少年が妨害する。後ろに飛ばされていた“エンジェルレイジ”を勝手に使いながら、少年は魔物に立ち向かった。硬直時間によって動けない少年援護する為、ロゼは魔法スキルを詠唱し、見事敵を殺した。
(終わった……)
死体となった魔物の身体や死骸から発する臭い全てがデジタルの粒子となって消え行く様を見ながら、私は静かに立ち上がった。
視界左下に、いつも戦闘終了後に表示される戦果ウィンドウが現れ、獲得した経験値とゴールドが記されていた。
(他の魔物よりも少ない)
今のダンゴムシは、他の魔物よりも遥かに強い力を持っていた。なのに、表示されている数値は他の魔物よりも少ない。
理由はこのゲーム世界のルールにある。
(分配式だからね)
戦闘などで得られるものは、分配方式でキャラクター達に分けられる。貢献すればする程与えられる量が多くなる仕組みだ。
少年もこの戦闘に参加したから、経験値とゴールドは私と少年に分けられるのだ。
因みに、ドロップアイテムは倒した人に与えられる。
「ほら、アンタの剣だろ? 返すよ」
私が興味ないウィンドウを閉じると、少年がぶっきらぼうな口調で言いながら振り向いた。
「あ、ありがとう」
とりあえずお礼を言いながら、私は乱入して来た少年の顔を見た。
中々整った顔、闇のような紫色をした眼。一言感想を表すとしたら、なんか不気味だった。
そしてよく見ると、少年は私と同じ日本人だった。
つまり、彼はこのゲーム世界にログインさせられた――PCという訳だ。
その不気味なPCが、私の顔を見て固まっていた。
「……どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」
気になって訊いてみると、少年は、
「何でもねえ。……アンタ日本人か?」
眼を逸らして、そう私に訊いて来た。
「うん? うん、日本人だよ」
何でそんな事を訊いて来るんだろ、と思いながら私は正直に答えた。
「日本人なら、どうしてその髪の色をしてるんだ? 染めてんのか?」
少年が私の髪を見ながらそう返した。
「ううん、この世界に来た時にはもうこの色になってた」
私が理由を言うと、少年はぽかんとした。
「は……? 待て、じゃあ俺の髪は今どんな色してる?」
「灰色……かな。自分で見た方が分かりやすいよね。……はい、貸してあげる」
私は懐から取り出したオレンジ色の携帯を操作して、左手に愛用している手鏡を出現させて少年に差し出した。
「……サンキュ」
少し迷いを見せてから、少年は私の左手から手鏡を取って自分の顔を映し見た。
「……マジかよ」
呆然と少年は呟いた。
その様子を見て、私は一つの結論を出した。
(この人……初心者だ)
あの戦闘中で“エンジェルレイジ”を借りると言った時から違和感を感じていた。別に、自分の剣を使われた事を不快に思っている訳では無い。旅人なら、わざわざ私の剣を借りなくても、自分の剣を使えば良い筈だ。使い慣れてない武器よりも、使い慣れた武器の方が戦いやすいからね。
また、戦闘中の少年の戦い方も不自然だった。HPも半分以上ある敵に、考えなしに強力なスキルを発動した事。このゲーム世界では、一瞬の隙も命取りになる。出来るだけ隙を見せないように、スキルを発動するなら考えて使わなければならない。私の助けがなければ、少年は大ダメージを受けていただろう。
最後に、自分の髪と眼の色に驚いているところだ。これは言うまでもない。
これだけの理由が揃っているけど、私は腑に落ちない疑問があった。
(なんであんな強力なスキルを修得しているんだろう?)
普通ログインしたばかりのPCのLvは、NPCの冒険家の平均的である30〜40に設定される。
しかし、あの時少年が使った<ソードソニック>はそのLvで修得出来るスキルではない。大体50台ぐらいで修得出来るもののはず。
(……うーん)
それとは別に、私にはもう一つ気になる事がある。
(私……この人とどこかで会ったような……)
初めて会ったという気がしない。私はどこかでこの少年と会い、会話までした気がする。
(この少年は……一体……)
「色々と助かった。じゃあな」
考え事をしている私に、少年は私の両手に“エンジェルレイジ”と手鏡を渡して、背中を向けてそのまま歩き出した。
(えっ……えっ、何?)
私は何が起きたのか分からず、少年の背中を呆然と眺めていたけど、はっと我に帰り、
「待って!」
慌てて少年に待ったをかけた。なんで慌てているか分からないけど、とにかく今、彼とは別れたくなかった。
それでも、少年は私に見向きもせず、すたすたと歩き去っていく。
「ちょっと、ねえ、待ってってば!」
声をかけるだけではだめかと思い、私は少年の手を握った。
そのおかげで少年は立ち止まり、振り返った。
「何だよ。急いでんだよこっちは」
……その顔は面倒臭いという思いで占めていた。
(と、とにかく何か言って引き止めないと……)
「君のおかげで助かったから、ちゃんとお礼させてよ。家まで招待するからさ」
尤もらしい口実を述べて、私は何とか会話を続けられた。
「誰がお礼欲しさで助けたんだ? いらねえよそんなの。気持ちで十分だ」
少年が心底嫌そうな顔をして拒否した。
「そんな事言わないでよ。それに急いでいるって言ったけど、君この森を抜けられる自身があるの?」
「…………」
それでも、しつこく食い下がっていると、少年は押し黙った。
(……お、効果あり?)
実際この森は広く、木のせいで遠くを見渡す事が出来ない。更に、ここに生息する魔物はかなり強いので、地図と方位磁石のような道具が無いと無事に外に抜けられる保障は無い。
「……アンタ、地図持ってるか?」
少年もその事に気づいたのか、そう訊いてきた。
「うん、持ってるよ」
「じゃあ、その地図をくれ。お礼はそれで良い」
「それじゃあ私の気が済まないよ」
「……じゃあどうしろって言うんだよ」
私の受け答えにイライラしてきたのか、声に多少の荒さが入った。
(私も何がしたいのか分からないのよね……)
何で私はこんな言動が悪い人を必死に引き止めようとしているんだろう。こんな人さっさと放っておけばいいのに。
「う〜ん……とりあえず家に来て。それから考えようよ」
「…………」
少年は考え込むように俯き、
「分かったよ……。行けば良いんだろう行けば」
投げやりな口調で私に付いていく事を決めた。
「やったー! そうと決まったら速く行こう!」
それを聞いて、私は笑顔になって家へ向かった。
なぜこんなに嬉しい気持ちになるのか、自分でも分からない。死ぬ事以外でここまで喜ぶのはあの時以来だった。
「あ、そうだ。私まだ名前を言ってなかったね」
私はまだ自分の名前を言ってない事に気づき、歩を止めた。
「私の名前はロゼ。スタイルは“魔剣士”だよ。よろしくね」
少年に向かって手を差し出す。短い付き合いになるかもしれないけど、最低限の絆は作っておきたい。
少年も手を出し、お互い軽く握手をした。
「よろしくな」
それだけ言い、少年は手を離し、歩き出した。
「あれ、君の名前は?」
私は名乗らない少年に名前を訊いた。
「教える義理は無いだろ」
振り向きもせず、少年は冷たく私をあしらった。
(…………)
この時苛立たなかったと言えば嘘になる。
それでも、私は心の中で深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
私には、そんな事で怒る資格はないから。
「そんな意地悪しないでよ〜。ね、教えて教えて」
「断る。短い付き合いなんだ。知る必要は無い」
少年の隣を私は歩く。
少年は私に眼もくれず、前を見て歩いていた。
(今日は凄い一日だったなぁ……)
やっと死ねると思った矢先に突如現れ、こうして人と会話(私が一方的に話してるだけだけどね)をしている。
今の光景が、私には信じられなかった。
(この少年は……何者なんだろう……?)
<バブルライガン>
水魔法スキルの一つ。前方に小さい泡の弾丸を放つ。属性は水。待機時間は1,5秒。
<追伸>
20超えてしまいましたね……。30いくまで終わるのだろうか……。




