番外編14 残酷なミッション
グルトとの戦闘から翌日、気持ちを整理しようとしていた時にミッションが送られる。仲間に迷惑かけない為、ロゼは誰にも告げず一人でミッションを攻略しに向かった。
送られてきたミッションの内容は、
『“シラナ”の南西に位置するシゼ遺跡の中に置いてある宝石“ラスタノクス”を入手しろ。
制限時間は明日の零時零分。
ただし、PCの誰かが“ラスタノクス”を入手してから一時間が経過した場合、そのPCのクリアーとみなし、ミッションは終了する』
と、表示されていた。
“シラナ”というのは私達が住んでいる町の名前で、ここセフィラス王が治めるセフィラス領の中では比較的大きな町だ。
“シラナ”から南西には大きな縦穴があって、そこの奥深くに目的の場所である“シゼ遺跡”がある。
“シゼ遺跡”には前にクエストで行った事があり、中の構造は全て把握していないけど、行き帰りの道は覚えていたので、私は迷う事無く遺跡へと向かっている。
遺跡へと駆けながら、私はミッションについて考えていた。
気になるのは最後の一文だ。この一文からは、まるで私以外にも参加者がいるような表現だ。
最低でも二人いるミッションは……大抵その人たちと戦闘が起こる。
もし、“ラスタノクス”が一つしかなかったら……手に入れた一人を除いた全員が、強制的に死ぬ。
(……それでも、私は生き残りたい)
たとえ、他の人達が私のせいで死んでしまうとしても、私は生きてあのギルドの所に帰りたい。私が死んだせいで、皆を悲しませたくない。
その為には……他の人達を見捨てるしかない。見知らぬ人とギルドの皆を選べと言われたら、私は仲間を選ぶ。
残酷だと思われても仕方がない。でも、私は皆を裏切りたくない。
私は気を引き締め、脚の回転を速めた。
一度も休まず走り続けて20分くらい。私は遺跡の入り口前に立っていた。
レンガ造りの壁には、所々に苔が生えたり、欠けていたりして、いかにも長い年月が経っているという雰囲気を醸し出している。
冒険者を食べるように待ち構える入り口は、先の見えない暗闇が私を誘い込もうとしている。
前に来た時は宝石ではなく、中で身動きが出来なくなった冒険者を救出する為にここに来たのだ。その冒険者と“シラナ”に戻った時、私達「天狐の遊楽団」に依頼を頼んできた人達の感謝と喜びの表情が今でも思い出せる。
今から私がやる事は、誇れる事じゃない。私は今から……人を見殺しにするのだ。
一度大きく深呼吸して、気持ちを整えさせる。
(よし、行こう)
私は拳を握りながら遺跡の中をへと、脚を踏み入れた。
遺跡の中は薄暗く、空間を照らすのは壁に掛けられた松明のか細い光だけだ。
ゲームの世界では、松明の光が消えないのに違和感は覚えないけど、こう実際に見てみると何とも言い難いものが込み上げて来る。
(まあ、そんな事気にしても仕方が無いんだけどね)
私は以前と同じく、か細い光源を頼りに“ラスタノクス”を探す為歩いた。
携帯で以前にマッピングした地図を見ても、どこに“ラスタノクス”があるのか検討もつかない。一応一階から三階まで探索した事はあるけど、上にも下にもまだあるような気がする。
(どこにあるんだろう)
私はとりあえず左の壁に沿って歩く事にした。こういうものって大抵奥深くにあるけど、私達の意表をついて案外浅い所にあるっていう可能性も捨てられない。
取りこぼしのないようにする為にも、時間をかけてやるしかない。
そう決意して何回か左に曲がりながら脚を進めていると、前方から音が聞こえた。
(これは……金属音?)
その音は金属製の何かと何かがぶつかり合っているように聞こえ、さらに音の方へと近寄ると、人の声が耳に入ってきた。
(誰かが戦っている?)
考えられる事は、私と同じくミッションに参加させられた人が、同じ目的を持つ者を排除しようとしている……という所だろうか。
気になって足音を殺して歩み寄ると、右に曲がる角の先に二人の人影が見えた。
曲がり角に隠れるようにしながら様子を確認してみると、その二人は己の武器を相手にぶつけようとお互い躍起になっている。
(暗くて誰だか分からない……)
松明しか照らす物が無いこの通路では、たとえ数十歩先の光景でも人の顔を判別するのは難しかった。
眼を凝らして何とか見てみようとしていると、声の音量を上げたのか、僅かに聞き取る事が出来た。
「――は俺の――だ――」
「だま――さまの――ゃない――」
内容がさっぱり分からない会話に、私は眼を見開いた。
私は二人の声の知っている。
なぜならそれは……毎日近くで聞いていたから。
語り合ったから。
笑い合ったから。
助け合ったから。
私の……仲間だから。
(どうして……ここにいるの……?)
私の数十歩先で、私の仲間が戦い合っていた。
顔は未だに分からない。でも、あの声は……。
(……いや、まだ彼らと決まったわけじゃない)
私の勘違いだって場合もある。そうだ。きっとそうだ。声が似ているなんてありえない事じゃない。世界には同じ人が三人いるんだから、声が似ているなんて事を不思議がる必要……。
「<――ラ――リ――>」
魔法スキルを詠唱する声が聞こえ、手前にいる方の人が紅い炎に包まれた。
その瞬間……私は見たくないものを見てしまった。
それは、見知った仲間の顔だった。
(……嘘……でしょ?)
私は愕然と立ち尽くしていた。炎属性の魔法によって照らされた顔は、私と同じく「天狐の遊楽団」に所属する“魔剣士”の団員のものだった。
一瞬しか見えなかったその表情は、私を震え上がらせる程の殺意に満ちていた。
(どうして、殺し合いをしているの……?)
いや、私は理由が分かっている筈だ。ただ、信じたくないだけ。現実から眼を逸らしているだけ。
(彼らも……私と同じく、参加者なんだ)
私と殺し合いをするのは……「天狐の遊楽団」の皆だ。
<アイスキャノン>
氷魔法スキルの一つ。巨大な氷の砲丸を放つ。属性は氷。待機時間は約2,2秒。




