番外編13 終わりの始まり
グルトとの戦闘後、クリフはギルドの部屋で一人後悔していた。自分の昔からの仲間を殺してしまったクリフに、ラナは気が済むまで付き添っていた……。
後ろの窓から太陽の光が差し、部屋と私を暖めてくれている中、私はベットの上に座って携帯と向き合っていた。
アイテム欄から今、私が愛用している剣を出現させる為、私は携帯画面に表示されている選択ウィンドウの『はい』を選択した。
左手にデジタルの光がどこからとも無く出現し、急速に剣の形へと集まり、それが愛用の剣へと実体化する。
剣は一般に販売されているのよりも性能がいい武器で、魔物のドロップで手に入れた物だ。
耐久値が低下しているので、所々刃こぼれをしていて光沢もやや鈍い。
私は右手で携帯を操作。再びアイテム欄を探り、目当ての物を実体化する。
それは私の胸の前辺りで実体化し、支えが無くそのまま重力に従って落下し、私の太ももに着地した。
携帯を横に置き、私は空いた右手でそれを摘み上げた。
縦長のひし形のような形をしたビンの中には、透明な青色をした液体が入っている。
これは“修復液”で、耐久値が低下した武器防具を一回で全回復させるアイテム。比較的安価で買えて、いつもストックしておく事が大切。
私はコルクを抜き、青い液体を剣に垂らした。
当たっている所は一箇所なのに、液体全てが剣に染み込んだように青くなった直後、剣全体が白い仄かな光を出した。
光が完全に消えると、そこには新品のような輝きを取り戻した剣があった。
刃こぼれ一つ無い剣を人差し指でタッチして、説明ウィンドウを出す。
(……うん、耐久値がマックスまで回復している)
耐久ゲージの中が右端まで行き届いているのを確認するのと、私はそのウィンドウを消し、直った剣をじっと眺めていた。
(……度々思うんだけど、これってどういう原理で直してるんだろ? 普通なら液体をかけただけで金属が完全に、しかも一瞬で直る事なんて無いよね? まあ、ここはゲーム世界だからそんなに深く考えても仕方が無い事だけど……)
空になった“修復液”のビンが自動で光の粒子となって霧散した後、私は携帯で時刻を確認した。
携帯は三時二十七分を示していた。
普段なら「天弧の遊楽団」に来たクエストを片付けている所だけど、今日はお休み。
(……昨日あんな事があったからね……)
今日はグルトさんと戦った日の翌日。団員達が帰宅する前、クリフさんは全員に明日は休暇を取っていいと言った。
なので、団員達は各自自由に行動している……筈だ。
私は疲労のせいか、午後一時まで寝てしまった。起きた直後メールを確認してみると、団員達からのメールがあった。その殆どは『一緒に遊ぼう』といった内容で、私は今更彼らと合流する気が起きなかったので断りのメールを送ってくれた全員に送信した。
その後、洗顔し、寝癖を直して部屋着に着替え、遅すぎる朝食(あれ、これはもう昼食かな?)を食べ、食後の休憩として途中まで読んだ小説(言うまでもなく、このゲーム世界の人が書いたものだ)を読み、武器や防具の修復をしてないのを思い出し、今に至る。
(…………)
剣に映る自分の眼は、泥水の如く濁っていた。
(……だめだなぁ……私)
皆は各々集まって街の中を歩いたり、楽しくお喋りしたり、外に出て魔物と戦ったりしているだろう。
それは明日に支障を起こさないようにする為。死んだ者はそこで時間が止まるけど、生きている者は止まらない。死んだ者はそこで眠ったままでいいけど、生きている者は眠ったままではいけない。いつかは夢から覚めて、起き上がらなければならない。仲間達の迷惑にならないように、皆あの出来事から立ち直ろうと努力している。
私もこのままじゃいけないと、読書をしたり、武器防具を修復したりして紛らわそうとした。
でも、全然効果は現れなかった。何をしても集中出来ず、あの時の光景をいつも思い浮かべてしまう。
(このままじゃ、いけないのに……)
私と同い年のソールだって、私にメールを送っていた。なのに、私は……。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……。
いきなり鳴り出した携帯のメロディーに、私の身体は硬直した。
このゲーム世界に来て初めて聴くメロディー。だけど、私はその意味を知っている。
(これは……ミッションの合図……!)
ミッション。
それは神様から私達プレイヤーに与えられた試練。拒否する事は出来ず、失敗したら問答無用で命を止める絶対的なもの。
……携帯の中にあったこのゲーム世界についてのマニュアルを読んだ時から、覚悟していたつもりだ。
何時来ても恐れず、ただその内容をこなせばいいと考えていた。
しかし……。
(よりにもよってこんな時に……)
こんな不安定な状態で、私はミッションを無事クリアーする事が出来るのだろうか……。
(でも、ここで考えていても仕方が無い)
自分の身に訪れるかもしれない最悪の現実に不安を抱きながらも、私は服装を部屋着から剣や軽い防具などを装備して武装した。
最後に携帯をポケットに入れようとして、皆に協力を頼んだ方がいいかな……、という案が脳裏に過ぎったけど、私はすぐさまそれを消した。
今は皆、心を休めている。私の都合で皆の休憩を邪魔する訳にはいかない。
私は二十歳を超えてないけど、もう子供じゃないのだ。自分の問題は自分で解決しなければならない。
そう考え、私は皆にミッションの事を言わずに目的の場所に向かった。
もしかしたら、この不可解なミッションに気づく事が出来たかもしれないのに……。
<フレイムランサー>
炎魔法スキルの一つ。炎で作られた一本の槍を放ち、敵を貫く。属性は炎。待機時間は約1,2秒。




