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ANOTHER REALITY  作者: マンドラゴラ
休章 もう一つの軌道
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番外編15 心逆転

 遺跡に辿り着いたロゼ。宝石“ラクタノクス”を手に入れる為、遺跡内をくまなく探す事にした。途中、前方に人間を見つける。殺し合いをしている二人組みは、なんと「天弧の遊楽団」の団員達だった……。

 それから私は最初の時よりも慎重に行動していた。

 皆が我先にと遺跡の中を駆け巡る中、私は皆を避けるように脚を進めた。

 私はこんな状況になっても、戦いたくなかった。皆に剣を向けたくなかった。

 団員の皆は誰かを見つけると、それが誰であろうと構わず襲い掛かって来る。そこに情けや迷いなどは一切無い。お互い出会ったら、一言も会話を交わさず殺し合いに発展するのだ。


(これが……「天狐の遊楽団」なの? 私にいつも幸せと暖かみを与えてくれた仲間の姿なの?)


 信じたくない。認めたくない。

 だって、昨日まで皆は私と一緒に共闘していたんだよ?

 私と一緒に笑い合っていたんだよ?

 私と一緒に冒険し合っていたんだよ?

 なんで……。


(なんで皆と殺し合いをしなくちゃならないの!?)


 混乱する頭をどうにか正常に保とうとしながら歩いていると、いつの間にかどこかの部屋にたどり着いていた。


(しまった……!)


 私は極力部屋を避けて歩いていた。理由は単純で、通路よりも視野が広く、松明の光が強い部屋の方が、皆に見つかりやすくなるからだ。

 私はすぐさまUターンして部屋から出ようとするけど、その前に気になるものを見つけた。

 私のいる部屋は、出入り口が私が今入って来た一つしかなく、奥には違う部屋に繋がっている通路への出入り口が無かった。

 代わりに、一番奥の壁に沿うように小さな台座が設置していた。

 そして、その上には見た事の無い宝石が置かれていた。


(……何だろう?)


 私は部屋から出る事を忘れ、その不思議な輝きを放つ宝石に歩み寄った。

 台座の手前まで近づき、私はその宝石を顔の前辺りまで持ち上げた。


(綺麗……)


 少なくとも、知らない宝石に見とれる時間なんてないこんな状況で、私は宝石を眺め続けていた。

 不純な色が何一つない藍色の光が、松明の光で充分明るい空間を優しく、暖かく包み込むように放っていた。

 恐る恐る藍色の宝石を人差し指でタッチしてみると、メッセージウィンドウが現れた。


『ラスタノクス

 永い年月をかけて創られた秘石。天使が創ったという説がある』


(これが……“ラスタノクス”……)


 これが、今回の目的であるアイテム。皆が血眼になって探している獲物。


(…………)


 私は“ラスタノクス”を両手で包み込むようにしながら持ち上げた。


(お願い……!)


 そして、そのままの姿勢を保ち続けた。

 しかし、宝石には何も変化が起きなかった。


(……そんな……)


 私はその光景に愕然として、その場に座り込んでしまった。

 このゲーム世界のアイテムの入手方法は、それぞれによって違う。

 例えば、魔物からのドロップアイテムの場合、ドロップした瞬間自動的に自分のケータイに転送される。野草や鉱物などを採取する場合、切り取ったり削り取ったりしてから自動的にケータイに転送される。

 “ラスタノクス”も恐らく後者の方法で入手出来る筈だった。

 だけど、宝石は私の両手から消えず、あり続けている。

 入手出来る条件が全てクリアーしてないからだ。手に取るだけでは、まだ満たしてないからだ。

 残りの条件は……もう分かっている。


(“ラスタノクス”を持ち続ける事だ……)


 ミッションの最後の文から分かるように、クリアーする為には“ラスタノクス”を一時間持ち続けなければならない。誰かに奪われたり、手から離したらリセットされてしまう。

 これを口にするのは簡単だが、実際にやるのは困難だ。

 この遺跡には当然、魔物が生息している。“ラスタノクス”を片手に持ちながら戦える程、奴らは甘くない。

 それに、ここには魔物だけではなく皆もいる。皆は私を――正確には私が持っている“ラスタノクス”だ――見つけたら、問答無用で奪いに来るだろう。


(ううん、私にはもっと根本的な事があった)


 皆を裏切るか、自分を犠牲にするか。


(答えなんて決まってる)

 

 前にも決意した筈だ。私は「天狐の遊楽団」を裏切りたくないと。私の代わりに誰かが救われるのなら、死んでも構わない。

 私は一時間持ち続けないように時間を計りながら、皆を探そうと後ろを振り向いた。

 誰かを見つけたら、進行方向に“ラスタノクス”を置いて去ろう。これで誰かが生き残る筈だ。

 部屋を出ようと、出入り口に向かって歩こうとすると……誰かが立っていた。  びっくりして咄嗟に身構える。が、その後ここにいる人は「天狐の遊楽団」の団員しかいない筈で、身構える必要なんてない事に気づき、構えを解いた。

 立っていたのはソールだった。


「……なんだ……ソールか」


 私は少し言葉に詰まってしまった。眼の錯覚か、一瞬ソールが何か別の人に見えた気がした。


「どうしたの、そんな所に立ったままで。これを取りに来たんじゃないの?」


 私は“ラスタノクス”を前に突き出しながらそう訊いた。

 これを彼に渡してこの遺跡を去ろう。私は死んじゃうけど、彼が生き残るならそれでいいや。

 私はそう思いながら、立ったまま何もしないソールに歩み寄って行った。


「その宝石を俺によこせ」


 私の脚は棒のように動かなくなった。


「ソール……?」


 明らかな違和感が私を襲う。一人称が「僕」から「俺」に変わっているのもそうだけど、普段の彼はこんな威圧的な喋り方をする事はない。眼の前にいる人物は、私の知っているソールとは違っていた。


「それは俺が手に入れるべきアイテムなんだ。このゲームに必要とされているのはお前じゃない」


 ソールの姿をした人が私に迫るように、一歩前に踏み出した。


「ひっ……」


 私はそれに恐れて一歩後ろに下がる。

 皆と同じ眼。狂気に満ちた眼。それが私を捕らえ、震えさせる。

 あの時と同じだ。グルトさんと戦った時の彼の眼。何者も凍らせる冷たい眼。

 だけど、彼にはまだ感情があった。内面から出る様々な思いが、あの眼の怖さを弱らせてくれた。

 だけど、今のソールには感情というものが一つもなかった。空っぽの表情が余計に恐怖を増幅させる。

 やっぱり、何かがおかしい。いくらミッションだからといって、こんなに人は変われるのだろうか。今まで仲間だった人に、こんな事が言えるのだろうか。

 ソールがそのまま私に近づいてくる。そのたびに私は一歩一歩ソールから離れていった。


(どうして、私はソールから離れようとしているの?)


 分からない。私の頭も正常な判断が出来なくなっていた。


 ――コロセ――


(えっ……?)


 突然、頭の中に声が響いた。その声質は私に悪魔のささやきを連想させた。

 

 ――イキタイノダロウ――


(な、何これ……)


 頭が痛い……。それは空いている手で頭を押さえなければ、気が狂いそうになるほどだ。


 ――シニタクナイダロウ――


(やめて……)


 惑わさないで。


 ――タスカリタイノダロウ――


(やめて……!)


 導かないで。


 ――ウラギッテデモ、スクワレタイノダロウ――


(やめて……!!)


 私が壊れてしまうから。


「さあ」


 ――サア――


「渡せ」


 ――コロセ――


「渡せ」


 ――コロセ――


「渡せ」


 ――コロセ――


「やめてよっ!!」


 自分でも信じられないぐらい大声を出し、私は仲間にむけて抜刀した。


「……ほう、俺と殺し合う気か?」


 ソールは変わらない無表情で私に聞いた。

 ……いや、違う。


「あなたはソールじゃない……」


「面白い事を言う。俺がソールでないなら、ソールはどこに――」


「お前はソールじゃないっ!!」


 私の知っている仲間は、間違ってもこんな事言わない。だから、彼はソールじゃない。


 ――ソウダ、コロセ――


 不気味な声が私を後押ししようと、頭に響かせる。

 私はそれを受け入れ、右手で“ラスタノクス”をしっかり掴み、左手で剣を構えた。


「……ふん」


 ソールも私の行動に触発されたのか、その身体に似合わない大剣を両手で構えた。


「後悔しても知らんぞ」


 射貫くような眼で私を見る男の表情は、数多の戦を経験した強者だった。


(迷っていたら殺される)


 この男は仲間じゃない。この男に殺されるわけにはいかない。


 ――コロセ!!――


 その声を合図に、私はその男に向かって駆けた。

 ……この決断が私を一生苦しませる事となるのだ。


 <グレイシピアス>

 魔剣士の固有スキルである魔剣スキルの一つ。氷を纏った剣で敵を貫く。確率で相手に『凍結(その部位を完全に動けなくする)』の状態異常にする。属性は氷。待機時間は2,6秒。


 <追伸>

 学校行事を挟んでの投稿です。実は学校行事中にケータイで投稿したんですが、文章で間違いだらけなことを思い出し、すぐに削除しました。その時に番外編15を読んでくださった読者さん。申し訳ありませんでした。

 あと、後書きでのスキル説明の硬直時間。あれはさすがに長すぎますね。変更しておきます。

 そして、今更ですが番外編二桁超えましたね。何時まで続くんだろう……。

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