一人の時間
綾音と横並びになり歩いていた、綾音のちょっといい香水の匂いが私の鼻孔を刺激してくる。
綾音と手を繋ぎたいし、抱きつきたい。そんな綾音に言えないことを妄想しながら、明日行く古着屋の事や今日学校であった出来事について話していた。
そんな幸せの時間を過ごしていたら、そろそろ終わりが近づいてきていた。
駅が見えるからだ。ほんの一瞬、自分の表情が曇る。
駅、それは私にとって最も嫌いな場所だ、綾音と離れなければならないし、何より電車に乗ってしまえばあそこに、帰らなければならないからだ。
そうして電車に揺られながら、他の生徒や他校の生徒達の声が薄っすらと聞こえる車内で、綾音との楽しい雑談が終わる瞬間が来た。
車内案内表示、は綾音の降りる駅を映し出していた。
「綾音、また明日」
「うん、美咲も明日」
軽い別れの挨拶を交わして、綾音は電車から降りて帰って行った。
そしてまたあの場所へ帰らなければならないのかと、私は憂鬱な気分になっていく。
電車は私が一番嫌いで、一番帰りたくない方角へ進んでいく。
「うん、美咲も明日」
と言い私は美咲と一緒に乗っていた電車から降りて、階段を上がり、改札を抜けて駅の出口へと向かった。
そうしていつもの帰り道。風景を見ながら私は歩いていると、ブレザーのポケットに入れてたスマホが振動した、取り出してスマホを見ると母からのメッセージだった。
[母:綾音、好きな出前を頼んで、お金はあるでしょ?お母さん今日帰ってこれないから]
仕事中の母からの連絡は、帰ってこれない事と夜ご飯をまた出前を頼むことが確定した連絡だった。
[綾音:うん、わかったお金は大丈夫]
私は柄にもなく母の手料理を食べてみたいな、とふと思った。
スマホのサイドボタンを押して画面を消して、ポケットへしまう。
帰り道の途中に私は考えたくもない自分の家族について思考を巡らせる。
私の母と父は、二人とも仕事人間だ、そのおかげでお金には困った事はない、ただ家族で遊ぶといった事が片手で数えるぐらいしかない。
時々思う事がある。家族で旅行に行ったり、テーマパークなんか行きたいなと。
まぁ十中八九、父にそんな事を言ったら『高校生にもなって何を言っているんだ』と言われるのだろう、父はお堅い人間だ。そんな事を考えていると家に着く。
ドアノブを握り家に入っていく。
「ただいま~って誰もいないんだけどね」
ただ虚しくこだまする家で私は一人ごちる。
静まり返った薄暗い家の玄関、まだ二月の中旬、誰もいない家はただただ寒い。私は冷たい手で靴ベラを取ってローファーを脱ぎ、リビングへ向かう。
リビングの電気を点けソファに座り、スマホで今日の夜ご飯の出前をどうしようか悩む。
悩んだ末に私はカレーを注文した、お風呂の準備をして自室に行き部屋着に着替えて、リビングへ戻った。
家の呼び鈴が鳴る、デリバリーの人からビニール袋をもらった。
リビングに戻り、シーフードが入ったカレーを一人でテレビを見ながら虚しく食べていると、ふと帰り道に自分が感じたあの感情について考えた。
あのドキドキともハラハラとも違うあのよくわからない感情は何だったのだろう、もしかすると本当は美咲の事が嫌いだったりするのだろうかと考える。
いや、それはない。私は美咲といる時は楽しいと思うし嫌な気持ちになったことはあんまりない、偶にスキンシップが激しいとは思うが、まぁその程度である。
よくわからない感情について自分なりに考察をしていたら、気づいたらシーフードが入っていたカレーは無くなっておりお風呂が沸いた音楽が流れた。
私は食べ終わったカレーの容器をゴミ箱に捨てて、洗面所に向かう。服を脱ぎ、私はお風呂へ入っていく。
私はあの感情を、あの気持ちを理解できる日が来るのだろうか。




