第3話 触れられないお姫様
「お嬢様、いい加減に慣れてくださいませんか?」
セバスチャンが、ぐっ、と握る手の力を強めた。
「……私に、『好きになって』と言っているのは、嘘なのでしょうか?」
なぜか、耳元で囁かれる。
この、策士めっ!絶対にわざとやってるっ!!
「な……っ。はっ、離しなさいよっ、セバスチャン!」
私は、弱々しい声しか出せなかった。
「あれだけ、私を煽っておいて、肌に触れられるのは駄目だなんて、おかしくないですか?」
渋々というふうに、手を離すセバスチャン。
「あ、煽ってなんかいませんっっ!」
――そう。
実は、私は、人の肌に触れられないんだ。
理由は、わからない。
でも、人の肌に触れたとたん、恥ずかしさで、頭が真っ白になってしまい、動けなくなってしまうんだ。
「私は姫ですもの。誰かと手をつなぐ機会なんて、ほとんどありませんでしたわ。」
あ。でも、幼いころ、お父様とお母様と、手をつないでいたような……?
昔は、平気だったのかしら?
でも――
これではダンスが踊れないことに、セバスチャンが気づいてしまった。
「お嬢様、ダンスは、一人で踊るものではありません。お相手の方といっしょに踊るのですよ。」
お、お相手の方!?
「ほら、セバスチャン。やっぱり、デビュタント前には、私と逃げましょう?」
セバスチャン以外の方とダンスをするだなんて!!
手を触れる以前に、お断りしたいですわ。
「私、一人でのダンスなら、完璧ですの。ほら、見て!」
私は、セバスチャンの前で、優雅に踊ってみせた。
どう?ダンスの先生も、絶賛したこの舞は!?
「まあ、いいんじゃないですかね――」
また、セバスチャンの、薄い反応が返ってきた。
「もうっ、素直に絶賛していいのよ?」
「『ああ、僕の天使よ。君の舞で、僕まで舞い上がりそうだ!』とかね?」
「お嬢様は、語彙が豊富でいらっしゃいますね。」
そこじゃない。
いつまでも、つれないセバスチャン。
日に日に、私に興味がないふりが上手くなっている気がいたしますわ。
「あっ、手袋を嵌めて踊るのはどうかしら?」
「布越しなら、大丈夫かもしれないですわ!」
「ああ、なるほど。それは試してみる価値がありそうですね。」
セバスチャンが、ようやく私の意見に同意した。
これで、私が聡明なことが、改めてわかったわよね??
早速、セバスチャンが、赤い手袋を用意した。




