第24話 笑ってはいけません
今日は、お店の開店からお仕事を始めます。
開店の時間になり、お店のドアを開けると――
そこには、大行列ができていました!!
その列は、ちょっと先にある、広場まで続いているようでした。
今日は、何かのキャンペーンの日だったのでしょうか?
「す、すごい人です、お嬢様……」
隣で、リタが驚いています。
店長さんは、開いた口がふさがらなくなっていました。
これは、お仕事を頑張らないといけません。
私は、特上の笑顔を作って、言いました。
「いらっしゃいませ!」
すると、お客様が、とても嬉しそうな顔になりました。
中には、
「お名前を教えていただけませんか?」
と仰る方もいました。
私の名前を聞いて、どうするのでしょうか?
不思議に思いながら、名乗ろうとすると、
「駄目ですよ!お嬢様!」
すかさず、リタから制止が入りました。
「むやみに、お名前を教えてはいけません。身分を隠す約束だったではありませんか。」
「後で、厄介なことになるかもしれませんからね」
リタが言うなら、そうなのでしょう。
どう厄介になるのか気になりながらも、私は、名乗ることができないと、謝りました。
お店は、大繁盛で、客足が途切れませんでした。
パンは、飛ぶように売れていき、補充が追いつきません。
とうとう用意したパンがなくなってしまい、やむなく、お店を閉めることになりました。
「すごかったわね、リタ。」
「ええ、お嬢様。さすがに、私も疲れました。」
クタクタになった私たちは、思い体を動かして、ノロノロと帰る支度をします。
帰り際に、店長さんに呼び止められました。
「来てくれて、本当にありがとう。また、明日もよろしくたのむよ」
一日中、パン焼き窯から離れられなかった店長さん。
私たちよりも疲れているはずなのに、その顔は輝いていました。
お礼を言われるのは、気持ちのいいことです。
「働くことは、素晴らしいわね、リタ。」
「みんなが笑顔になって、私、嬉しいわ。」
すると、リタが、ため息交じりにいいました。
「お嬢様。お嬢様は、ご自分の魅力を、よくわかっていらっしゃらないようですね。」
「そうかしら?完璧な姫を目指してはいたけれど、完璧な従業員には、なれてないと思うわ」
ん――
と、リタが困っています。
なぜ、困ってしまったのでしょうか??
「セバスチャンが、お嬢様に、外であまり笑ってはいけません、と言っていたのを覚えていらっしゃいますか?」
そういえば、昔、そんなことを言っていたかもしれません。
「もう、ずいぶん昔のことよ。今は、笑っていいのではないかしら?」
リタは、首を横に振りました。
「お嬢様。きっと、セバスチャンは、今も『笑ってはいけない』、と言うと思いますよ。」




