第25話 不思議なお願い
昔、家族で演劇を見にいった時でした。
演目は、オペラ座の怪人。
私は、優雅な踊り、華麗な衣装、そして圧巻の歌声に、すっかり魅了されておりました。
休憩時間になり、私は席を立ちました。
少し風に当たりたくなり、劇場の外へ出ました。
すると、
「そちらの美しいお嬢様。私にお顔をよく見せてくださいませんか?」
隣に来た男性に声をかけられました。
「はい?」
なんだか、不思議なお願いですが、聞いてあげたほうがいいのかしら?
私は、声をかけてくれた方に、ニッコリ微笑みました。
「おぉ……」
男性が、私の顔に手を伸ばします。
もう少しで触れそうになった、その時です。
「お嬢様。探しましたよ。」
セバスチャンが、息をきらしてやってきました。
そして、手を伸ばす男性を、ギロリと睨みつけました。
サッと手を引っ込めると、男性はブツブツ言いながら、立ち去っていきました。
「お嬢様。一人で歩いてはいけないことは、わかっていますよね?」
セバスチャンが、ため息をつきました。
「ええ。でも、すぐに戻るつもりだったから、いいと思ったの」
まさか、人に声をかけられるなんて、思いもしませんでした。
「これからは、十分に気をつけてくださいね。」
「それから……」
セバスチャンが、言葉を切ります。
「お嬢様は、ご家族と、私以外には、あまり微笑まないほうがよいと思います。」
「特に、外出された時は。」
まあ。それは、どうしてでしょう?
「なぜ、微笑んではいけないのかしら?」
その質問に、セバスチャンは答えることはありませんでした。
「さあ、幕が上がります。急いで席に戻りましょう。」




