第23話 お嬢様とパン屋さん
焼き立てのパンの香りが漂う店内。
私はドレスではなく、ワンピースという服を着て、その上からエプロンをつけています。
頭には三角巾をかぶり、髪はアップにしてまとめました。
――私は、考えた末、『働いて、皆さんの暮らしを知りたい』
という結論を出しました。
お城の外で活動することで、今までにない視点が得られると思ったからです。
お母様は、
「それはよい考えですね」
と言ってくれました。
ただし、身分を隠して、期間は一ヶ月。
もしも、身の危険を感じることがあったらすぐに辞める、という条件つきです。
念のため、パン屋の周りを、護衛官が、私服で巡回してくれます。
リタも、一緒に働いてくれることになりました。
これは、とても心強いです。
勤め先は、お母様の知り合いの紹介で、パン屋に決まりました。
――ワンピースは、動きやすくていいですわね。
初めて着る服ですが、ドレスより重くなくて、気に入りました。
「お嬢様、その姿も新鮮でステキです!!」
着替えた私を見て、リタが褒めてくれました。
自分で言うのも何ですが、なかなか似合っていると思いますわ。
早速、仕事にとりかかりました。
店長が、焼き上がったパンを窯からだします。
私たちは、それを店頭に並べることになりました。
パンを落さないように、私は慎重に歩きます。
それにしても、リタは、とても動きが速いです。
私が、パンを一列並べる間に、リタはクロワッサンを並べ終わって、バケットを並べ始めています。
立ちっぱなしの作業も、私には大変でした。
「リタ、そんなに早く動けてすごいわ。私はもう疲れてきたわ。」
音を上げる私に、リタは、
「普段の仕事に比べたら、ぜんぜん大したことないですよ」
と、笑顔で言いました。
そうなの?
普段、メイドたちは、どんな重労働をしているのでしょうか。
私は心配になりました。
帰ったら、メイドの仕事も知りたいですわ。
パンを丁寧に並べていると、お客様がご来店されました。
「いらっしゃいませ」
店長に、教えてもらった通りに、笑顔で挨拶しました。
ご来店されたのは、ご夫婦でした。
「今日はクロワッサン、残ってる?」
さっそく、奥様に尋ねられました。
クロワッサンは、先ほど焼き上がったばかりです。
「はい、焼きたてがございますよ」
ニッコリ笑って対応すると、隣の旦那さまと目が合いました。
すると……。
旦那さまの顔が、見る見る赤く染まっていきます。
「ちょっと、あんた!何してるのよ!」
奥様に引っ張られて、すぐにお店をでてしまいました。
私の接客が良くなかったのでしょうか?
反省して、もっといい笑顔で対応するように心がけます。
働くというのは、なかなか大変なことです。
こんな私で、お店の役に立っているのでしょうか?
ところが――
次の日、大変なことになっていたのです。




