カメラとカード?
インフルになったりクトゥルフのシナリオ作ったりで遅れました。
手を取り、立ち上がる。彼の左手には消防用の真っ赤な斧が握られていた。
「今すぐ向こうに走れ、逃げろ」
「でも...!」
周りの化け物たちはおばさんを見つめ動かない。
「でもじゃない!お前の命のためだ!分からないのか!?」
レコード店の店長の怒鳴り声が十字路に響く。
「それでも置いていくなんてできません!」
「そんなこと言ったってお前じゃ何もできんだろ!」
強くそう言われ、うッと口ごもる。
確かに私だけなら何もできない。でも、私にはアダムさんがついている。渡されたカードをカメラに差し込めば...。
右手で腰のあたりをサッと掴む。
しかしその手は宙へ空ぶった。身に着けていたはずのバッグは、そこには無かったのだ。
「お前ぇ...!」
おばさんが立ち上がる。
「もう許さないわ!やっておしまい!!」
彼女が腕をブンと前に突き出すと、化け物たちがこちらに飛び掛かる。私たちは左右に分かれ、それを躱した。
「ぅっ...!」
ズザザと革靴がアスファルトを擦る。
私の前に化け物が2匹立ちふさがった。
おばさんの方を睨む。
「っ!」
立ちふさがるおばさんの向こうに、薄茶色の物がちらりと見えた。
「私のバッグ...!」
「あら、大事なものなのね?」
彼女が私のバッグを拾い上げる。
「う~ん、大したもの無いわね。ま、これは預かっておくわ」
それは彼女の肩に収まった。
「さ、貴方たち、ようやくご飯が食べられるわよ」
化け物たちは私に一歩近寄った。私も一歩、後ずさる。化け物たちの向こうでは、残された1匹がレコードのおじさんを襲っていた。おばさんはそれをただ眺めているだけだ。
ー油断している。ならば!
私は後ろを振り返り、地面をダンと蹴った。
生暖かい空気をかき分け、進む。左に抜ける道がトンネルの照明の様に流れては消える。
「なっ!?追いなさい!!」
後ろの方で絶叫が響く。どたどたと慌しい足音が2つ、私を追い始めた。
こわばる体を無理くり動かして逃げつつ、頭の中で突破口を探す。
(どうにかカメラを...でもどうやって?)
私のバッグは彼女に握られている。彼女をどうにかすれば私のバッグは帰ってくるだろう。
しかし、彼女は私を追っているこの赤い化け物を従えている。向こうにはまだ1匹残っているし、彼女自身も凶器を持っている。私は非力な方だ。どうしようも...。
「ウシャァァァ!!」
化け物の鳴き声が轟く。ダンっと地面を蹴る音が反響し、足音の一つが姿をくらます。
「う゛っ…」
私の右肩に鋭い痛みが走った。手を添えると、赤く、温かい液体が手にまとわりつく。
ー出血していた。
走り、腕を振るたびに傷が擦れザシザシと痛む。
右肩越しに後ろを見ると、奴らにかなり接近されていた。
速度を上げ、前のめりに走る。再び建物が途切れ、左に抜ける道が現れた。
多少の時間稼ぎになれば。
そう思い、壁を蹴ってその隙間を抜ける。
道は急に開けた。
壁を蹴った勢いが落ちず、地面をゴロゴロと転がった。やたら幅の広くなった商店街が私を迎える。
生暖かいアスファルトに手をつき、足を踏ん張らせ立ち上がる。
「商店街...!じゃあやっぱりあそこはあの隙間...?」
疑問は一旦置いておき、化け物に追いつかれる前に再び走り出す。今度は今までと逆の方向だ。
(ならやりようはあるかも...!)
彼女が立っていた道も、商店街に続く道だ。つまり私は今彼女の後ろ側を走っている。
あの場所が昼の隙間なら、あそこはレコード店の裏だ。
そこまで走り、背後から奇襲できれば、バッグを取り戻せるかもしれない。
「シャァァァ!!!」
後ろで声が響く。いつの間にか私の後ろを化け物たちが追走していた。
更に速度を上げ、化け物たちと差を広げる。
(カメラを取り返す算段は付いたけど...こいつらはどうしよう)
化け物たちは私の後ろを走っている。奇襲してもすぐ奴らに襲われたら仕方ない。
(ん?あそこだけシャッターが...)
掠れた看板を掲げた薬局は、なぜかシャッターが半分だけ上がっている。
それを見て閃く。
(あそこを使えば...!)
奴らを撒くことができるかもしれない!
うまくいかなければ私は奴らに食べられてしまうだろう。生唾を飲み込み、中途半端に開いたシャッターに向かって走る。
一か、八かだ。私はシャッターの下に転がり込んだ。
溜まった埃がひらひら舞う。化け物の方へ向き直った。
地面を蹴り、奴らがこちらに飛び掛かる。
私はそれを右に躱した。
化け物たちは薬の棚にぶつかり、その棚をドミノの様に倒していく。
それを横目にシャッターを潜って店外へと戻った。そしてシャッターに手をかける。
「出てこないでくださいね?それじゃ」
シャッターは私によって力強く閉められた。




