状況と宗教?
「なるほど...それなら私に任せてください!取材なら得意分野です!」
「...あぁ、そういやお前記者だとか言ってたな」
ちょっと間が空いて、アダムさんは思い出したようにそう言った。
「忘れるの早くないですか!?まぁいいですけど...」
「すまんすまん。さて、とっととここから出ちまおう」
彼はぐいっとのびをすると、私の手を掴んだ。
「さっきの路地に戻るぞ、そこから帰れる」
それから私たちはあの路地まで向かい、そこで空間に開いた穴を発見する。その穴は鏡が割れたかのような形をしており、その穴を跨いで通り抜けると私が歩いていたあの薄暗い路地へ出た。
「明日の朝9時、ここで待っとく。準備ができたらまたここに来い」
彼はそう言い残すと穴の中へ戻っていった。するとその穴は、まるで補填されるかのように縮小し、消滅した。穴があった空間に手を伸ばしてみる。しかし、手は空を切った。
あまりに非現実的な光景に、夢かと疑ってしまいたくなる。
手をバッグに突っ込み、稼働させていた録音機を取り出した。
「起動してる...夢じゃない...!」
しかしこの録音機は、しっかりと私たちの会話を記録していた。録音機をしっかりと握り締め、胸の前で抱え込む。
私は自然と笑顔になっていた。
「にしても何か忘れてるような...」
思い出したように辺りを見渡す。スマホを起動してみると時刻は6時半と表示されており、ホテルのチェックイン時刻が迫っていた。
「やっば...!泊まる場所なくなっちゃう~!」
私はホテルまで走った。何とかチェックイン時刻までにギリギリで間に合い、予約した一室へ転がり込む。今日は忙しい日だった。シャワーも浴びずにベッドに潜り込み目を瞑ると、私は一瞬にして眠りについてしまった。
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私の前でアダムさんが腕を組んで立っている。
「何遅れてんだ...熱中症にでもする気か?」
「すみません…」
まだ蒸し暑い夏の日の朝9時30分、彼は昨晩の通路で塀にもたれていた。彼は汗だくで、それは長く私を待っていたことを物語っている。
「ほい、これ」
彼は脇に挟んでいた何かを私に押し付けた。
「俺が今まで調べたことを資料にしてきた。読んでおいてくれ」
私に押し付けられたのは分厚いファイルだった。
挟まれたプリントは何度も捲られてヨレヨレで、付箋がファイルから大量にはみ出している。軽くぺらぺらと流し見すると、この市のものと思われる地図や、記事をプリントしたような文書が多くみられた。
そのほとんどは謎の宗教について言及されているもののようだ。
「なにせ15年分だ。かなり量があるがゆっ...」
何かを言いかけた時、彼が急にふらっとよろける。とっさに手と肩を持って彼を支え、顔をのぞき込む。彼の顔は赤く火照っていた。
「...涼しい所で話しましょうか」
「ああ...そうだな」
両開きの自動ドアが音を立てて開き、中から涼しい風が吹き抜ける。店内に足を踏み入れると、店員のちょっと気だるげな挨拶が平日のガラガラな店内に響き渡った。カウンターでアイスコーヒーを頼み、近くにあったボックス席に腰かける。
コーヒーが来た後、私はテーブルに大量の資料を広げた。
「軽く見た所何かの宗教団体の資料のようですけど...専門用語ばかりで何も分かんないです!説明してほしいです!」
「そんな元気に言うことじゃねぇだろ」
実際にわからないんだから仕方ない。公式も教えられてない状態で微分の計算を行うようなものだ。向かいに座ったアダムさんが身を乗り出し、資料を指差して話し始める。
「まずは俺の因縁について」
一枚の資料に人差し指が乗る。
「この資料はとある宗教団体について記した資料だ。」
そこには『尊き神の教会について』と記されている。
「こいつらは一見普通に見えるが、実態は人を誘拐する危険な組織だ。長年身を潜め、活動を続けてきた。ただ好き勝手出来てたわけじゃない。20年前から別の団体がこいつらに対処し、被害を抑えるために動き始めた。それがこの『SCP財団』だ」
今度指を指された資料には、中央の円に向かう3本の矢が描かれたシンボルが写った写真が貼られている。
「昨日俺たちを襲ったあいつらはこの組織の一部隊だ...。」
「じゃあ、あの人達もその財団?の人なんですか?」
彼は財団のシンボルから目を離さない。
「ああ、そのはずだ。だがおかしい所がある」
アダムさんは不思議そうに顎に手を当てた。
「財団の目的は世界中に散らばる化け物、財団の呼び方だと『SCP』どもを確保、収容、保護し、人類を存続させること。本来なら民間人を巻き込むような真似はしない」
「……じゃあ、どうして私まで殺そうとしたんです?」
「さぁ...?さっぱりわからん」
苦いコーヒーをちびちび飲みながら、今まで調べたことを思いだす。
「というか、そんな組織の話これっぽっちも聞いたことないですよ?何も活動の痕跡や情報がないのはおかしくないですか?」
「そりゃ当然だ。財団はバカみたいに大きな力を持ってる。自分らの情報の一切を一般人から秘匿できるレベルのな」
それは...どれだけ巨大で資金を持った組織なのだろうか。
「世界を裏で支配する巨大組織...まさに陰謀論ですね…」
「そうかもな。脱線しちまったが、ここからが重要だ」
彼は2枚の紙の上に1つ資料を重ねた。それには崩壊したビルの様な建物が写されている。
彼は真剣な声で話し始めた。
「これは財団の研究施設の一つだ」
彼の指が写真の上で止まる。
「俺は、15年前ここにいた」
「何をしてたんです?」
「それは知らなくていい」
またそれかと思いながらも、そうですかとだけ言って話を促す。
「とにかくあのクソ教会はここを襲撃した.........そして...クソッ!」
「わっ!?」
ドンと机に拳が叩きつけられる。彼の声は震えていた。ちらりと顔を見ると彼は眉を吊り上げ、教会の紋章を睨みつけていた。少しして、握り締められた拳が緩む。
「...すまん、取り乱した。まずはこいつらの拠点を見つける。昨日はノリで聞いちまったが、これでも俺についてくるか?」
彼は真剣な表情で私を見つめていた。少し悩んだものの、ある可能性が私の頭に浮かぶ。
...
…
……いや、まだ決めつけるのは早い。しかし、可能性があるならとことん調べるのが記者の仕事だ。
私はぬるくなったコーヒーをぐびっと飲み干して答える。
「...もちろん!今更言ったことを変える気もありません!」
もしかするとまだ、再会できるかもしれないから...。
彼は
「あ、でも私は私で調べたいことがあるんですよね。そっちも調べていいですか?」
「わかった。あ、そうだ、これ持っとけ」
私に小さなカードが渡される。それは彼が首や腕に差し込んでいたものと同じものの様だ。表面には1290と書かれた緑のビニルテープが張ってある。
「何かあったらそれを電子機器に読み込ませろ。守ってやれる」
「分かりました!じゃあ...」
「「17時にまたこの店の前で(な)(会いましょう!)」」
そうして私たちはカフェを出た。




