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第4話:国「投資をしろ!」→現役世代「OK、バーゲンセールだからNISA口座でオルカンとS&P500爆買いして日本円圧殺するわ」という最悪の国民共闘が始まった

日銀が放った数兆円の巨弾。

1ドル=169円台後半から、一瞬にして164円へと叩き落とされた為替チャートには、まるでナイフで抉り取られたような巨大な「ギャップ」が開いていた。


「日銀が勝った……のか?」

ネットの掲示板やSNSには、一瞬、安堵の空気が流れた。政府の力はやはり絶対だ。投機筋など敵ではない、と。


だが、その歪みを見つめる佐藤の目は冷ややかだった。

「いや、これは勝負の終わりじゃない。最悪のパニックへの、最初の引き金だ」


まず動いたのは、チャートの歪みを嗅ぎつけるFXの短期トレーダーたちだった。

ファンダメンタルズを無視して、日銀が無理やり作った164円という不自然な円高。彼らにとって、この開いた窓は「いずれ元の169円に戻る、100%勝てるボーナスステージ」に過ぎない。


「日銀砲あざす! ドル円リバ狙いでロング(ドル買い)全ツッパ!」

「窓埋め確定演出キタこれ!」


お祭り騒ぎのなかで、無数の短期資金がドル買い(円売り)へと反転し、日銀の盾を削り始める。


だが、真の絶望は、海の向こうから届いた声明だった。


『シオン・キャピタルは、日本政府の100年安心という欺瞞を破棄する。ネメシス試算が証明した通り、打率90%の災害リスクを隠蔽したシステムに未来はない。我々は持続不可能な通貨を売り続ける』


エラン・ハザンが放った声明は、世界中の投資家を凍りつかせた。


さらに追い打ちをかけるように、隣国である『東亜連邦』の国営ファンドが、待ってましたとばかりに数兆円規模の波状的な「円売り」をマーケットに浴びせ始めた。明確な意志を持った、経済的な質量攻撃。

超限戦理論の完全なる実践。

地政学的リスクが、日本の喉元に冷たい刃を突きつける。


世界中が、日本を終わったコンテンツとして売り崩しにかかっている。


その光景を、ネメシスの数式──『将来もらえる年金はわずか20%』という残酷な算数を見せつけられた日本の現役世代が、スマホ越しに凝視していた。


「国は、また俺たちに嘘をついていたんだ」

「100万円払って20万円しか返ってこない通貨を、なんで後生大事に持ってなきゃいけないんだ?」


彼らの中で、何かが完全に壊れた。国への信頼、世代間の支え合いという名の洗脳。そんな綺麗事は、世界から浴びせられる激しい売り圧力の前に一瞬で消し飛んだ。

信じるべきは財務省の会見ではない。自分の手元にある資産を守るための、冷徹な算数だけだ。


現役世代の心境は、パニックを超えて、冷酷な生存本能へと変貌していく。


「今、日銀がドルを売って、無理やり円を高くしてくれている。……ってことは、今が一番安くドル(外貨)を買える、最後のバーゲンセールじゃないか」


誰かがSNSで呟いたその一言が、導火線に火をつけた。

国が「円の価値」を守るために作った臨時の窓。それを、自国の若者たちが「自分の資産を外貨へ逃がすための脱出路」としてハックしたのだ。


彼らが握りしめたのは、皮肉にも国が投資を推奨した制度──『NISA』だった。


スマホの画面が一斉に光る。

パスワードの入力。ログイン。そして、全額を「オルカン(全世界株)」や「S&P500(米国株)」といったドル建て資産へと注ぎ込む『買いボタン』の連打。


数千万人の現役世代が、同時にNISA口座から「円売り・ドル買い」の引き金を引いた。


それは、外資系ハゲタカファンドや、敵対する東亜連邦、そして自国の国民が、期せずして一つの目的に向かって殺到する「最悪の共闘」の始まりだった。目的はただ一つ、日本円の完全な圧殺。


モニターに映るドル円チャートが、日銀の介入ラインを嘲笑うように、再び狂った角度で上昇(円安)を始める。165、167、169──。


自らの生存のために、自らの手で祖国の通貨を絞め殺す。

佐藤は、青白い光を放つ画面の前で、その崩壊の始まりを静かに見届けていた。

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