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果て無き少女等に大いなる洗礼を  作者: 名仮
第一章 人界編
8/13

閑話 上妹の話

閑話、上妹の話です。

物語に直接関係はしませんが、

キャラクターの心情が分かりやすくなると思います


この家はおかしい。


私の最初の記憶はそう感じた所から始まっていた。


確かにこの家はおかしい方ではあるだろう


典型的なクズな父親

夜はいつも帰ってこず何をしているのか分からない母親


この家では何をしても、

何もしなくても暴力と暴言と灰皿とお酒の缶が飛んでくる。


両親からの愛など、私は感じたことがなかった。

幼いながらに思った。


なんでこの人たちは私を…姉をつくったんだろう。


育児も責任も、ましてやまともな社会性も持ち合わせていないのになぜなのだろう。


だがおかしいのはそこではない


いやこれだけでも十分おかしいのだが、

世界は広い。

探せばこれくらいの家庭はゴロゴロ出てくるだろうし、これより酷い家庭も多いだろう。



おかしいのはあの人達の姉への対応だ


私には対しては怒りや腹いせや他責など、

まだ理解できるような感情が飛んでくる。


だから私はそういう人達なのかと納得した。


…だが姉に対しての"それ"は違った



恐怖や畏怖



何か恐ろしいものを見るような…

得体のしれない何かを見るような…


そんな感情を向けていた










──────────────────


私はいつもなんでもうまくいった。


勉強に運動に人間関係


どれも私の思い通りにうまくいった。



そして姉はそれ以上に優秀だった。

勉強では県内…ましてや全国で見てもトップクラスと騒がれ、

運動においてもいまだ私は姉以上に動ける人を見たことがなかった。


何をやらせても姉は必ず成果を出し一番であり続けた。


おまけに面だけはいい母親の遺伝子なのか容姿も端麗


頭脳明晰

才色兼備


神童。小学生時代の姉はまさにその言葉を体現したような人だった。


当然私はそんな姉を誇りに思い敬愛していた

もはや崇拝にすら近い感情だったかもしれない。


姉の周りには自然と人が集まった

クラス、学年、学校にとどまらず県外からも姉の才能に惹かれて色んな人が集まってきた。


だが、そんな人だかりも徐々に減り、

最後には私以外誰も姉の周りにはいなかった。


そしてその人達は決まって同じ表情をしていた。

あの人達と同じあの表情だった


私は悔しかった。なぜなのだ

姉は天才だ、神童だ

常に周りを従え、人の上に立つ器を持つ人物だ



しかし姉はその変化に少しも意を介さなかった


周りなど関係ないと、

自分ただ一人になろうと常に一番であり続けるというその覚悟


孤高


私は姉をさらに好きになった


やはり姉は違う。

私のような平民のように周りを気にしたりすることなどないのだ


かっこいいな


姉は私の憧れだった。

だからこそ、

私は姉の妹にふさわしい存在になろうと努力した。


私は常に姉に次ぐ二番を取り続けた

前を行く姉といつまでも一緒にいたかったから


ただその一点だけで私はどんな事も耐えられた。








───────────────

姉は地元の中学に行った


姉ならどんな学校でさえも特待生として入れただろうに


それを聞くと姉は困った顔で

「私には向いてないよ」と言っていた


姉がそういうならそれが最善なのだろう


きっと…

いや、確実に姉はこれからも一番であり続けるんだ


どこにいってもその結果は変わらないのだからあまり気にしていないのかもしれない。



…だが

姉は中学に上がって以降一番を取ることはなかった


地元はかなり田舎で噂はすぐに流れてくる


姉が一番でなくなったらしい…と


最初それを聞いたのは私の同級生で、

姉と同じ年齢の兄を持つ子からだった



勉強ではよくて中の下

運動にいたっては最底辺



そんな訳がない

違う

姉はそんな存在じゃない



その後私が何をしたのかは覚えていないが…

学校から家に電話が掛かっていた事から大体想像できる。



…そしてその噂が事実であると知るのはそれからそう遠くない未来だった。



「お姉ちゃん。

学校で最近聞いたんだけど、

一番じゃないってうそだよね?

お姉ちゃんを妬んでるしょうもないやつが流したうそだよね?」


直球

余裕がなかった


そして姉はいつものように困ったような表情を浮かべる


やめて


「うそじゃないよ。

お姉ちゃんもう一番じゃないんだ」


その後私は何を言ったのだろう

何をしたのだろう


気づいた時には私は近所の公園にいた。


息が苦しい

気持ち悪い

頭が痛い

吐きそうだ


何もかもがぐちゃぐちゃでめちゃくちゃ


理解出来なかった

でも理解できてしまった


姉はもう"姉"ではなくなってしまった


私の好きな姉はもういない


そう理解し、認めてしまった時…


心がひどく冷たくなっていったのを感じた


これまで持っていた姉への強い感情。

それがその強さのまま失望と共に嫌悪へと変わった









──────────────

私は中学生となり、姉は三年生となった。


どうやら姉は中学に上がると同時にいじめられていたらしい


それは優秀すぎたが故なのだろう


よく思っていなかったものが腹いせで行っているのだろう


まぁどうでもいいが。



そしてあの日から姉はほぼ毎日夜中に帰ってくるようになった


何をしているのかは分からない

母も妹も知らないらしい


だがもうどうでもいい

あの人に関わる必要なんてない。


私は姉を無視するようになった


姉は何か言いたげな表情を浮かべた後、

いつものように困った表情を浮かべていた。



家にいる時間が億劫だったため、

中学では運動部に入ろうと思い母にダメ元でお願いをしてみた


きっと無理だろうと思っていたのだが、

予想に反して二つ返事で了承が得られた。


母は何か言いたそうだったが私はそれを見て見ぬふりをした


どうせ大したことではない

こんな人間の事など考えるだけ時間の無駄だ。



その時の私は本気でそう思っていた



私の人生は順風満帆だった。


部活で結果を残し、勉強でも学年トップ

あの人とは違って私の周りには多くの人がいた


私は一番になった




そんなある日私は部活終わり、

空き教室に来るよう顧問に呼ばれた。


理由は進路関係らしい。


私は既に色々な高校、

さらには海外からも声が掛かっているらしく、

その辺の話をしたいらしい。



私は私が誇らしかった


私はあの人を超えたのだ

私はあの人とは違う。



落ちぶれることなく上手くやることができる


その時の私は本気でそう思っていた



…結果として全ては完全な罠だったらしい。


空き教室には顧問とガラの悪そうな生徒…

もしくは外部の人間が複数人いた。



嫌な予感がした

逃げようとしたが後ろから突き飛ばされ、

扉の鍵が閉められる


「これが例のガキの妹か?全然そうは見えねぇな」


「いやこいつであってますよ。…あと報酬はわかってますよね?」


「勿論覚えてるって。

教職者のくせにいい趣味してんなおっさん」



まずい

非現実的…だが目の前で起こっていることは現実だ


背後の扉付近には大柄の男二人…逃げるのは困難


私は助けを呼ぶべく叫ぼうとする

…が、声が出ない。

いや、声が響かない。


物理的に声が音にならない


「ちゃんと声が出ないみたいですね…

あぁこの日をずっと待っていた。

あなたを一目見たときからずっと、

あなたが結果を残すたびにずっとあなたを壊したくて仕方なかった…壊して壊して壊して壊して、

あぁぁぁきもちいぃでしょうねぇ…」



明らかに正気ではなかった


顧問が近づいてくる


その下卑た笑みが、

恍惚とした表情が…

これからやろうとしていることを嫌でも伝えてくる。


身体が反射的に距離をとろうとする。

…が、身体が動かない。


やめて、怖い怖い怖い



身体が勝手に私の意思と関係なく動き始めた

横になり、上着を脱ぎ始める。



助けて助けて助けて



顧問が馬乗りになってくる



私はそこで気づいた

姉はこれに屈したのだ



人の悪意



理解してしまった。

結局私も姉も、

どれだけ結果を残しても簡単に壊されてしまうような薄氷の上の存在だったのだ。


どれだけ強くなろうとも、

人は人に勝てないのだ。人間とはそういう生き物だ。



顧問が私に手を伸ばしてくる


数多の感情が噴き出た後…

心が閉じていくのを感じる



ごめんねお姉ちゃん…







ドガンッ!!


唐突にそんな音が静かな教室に響いた


その音は扉が吹っ飛んだことが原因らしい

全員の視線が扉があった向こう側へと向けられている


私の位置からではよく見えない



「だれだ?おま…」


だれかがそう言った…言おうとした時二人の男が同時に吹っ飛び、

積み上げられた机の山に叩きつけられる


音は響かず、彼らは動かなくなった



唐突に起きたその事象を理解する前に、

他の男達も同様に吹き飛ばされる。


「なにがおこっ…」


顧問が黒板の方へと吹き飛ばされた


何が起きてるんだ?


ここまでの事象は10秒とかからなかった


教室には吹き飛ばされた男達6人と顧問と私

そして………


「お姉…ちゃん?」



そこには私と顧問の間に立つ見慣れた背中

いつもまとめている長い髪は今は自由に流れている


窓から差し込まれる夕陽に照らされ美しく…

力強く…そして儚さを感じさせるほどに…



「ごめんね。遅くなっちゃって」



綺麗だった










──────────────

その後腰が抜けた私は姉におぶられ帰路をたどる


その間色々な話をした。


私が昔思っていたこと

これまで思っていたこと

今思っていること


姉は何を思っていたのか

姉は何をしていたのか

何があったのか



色々話した。


これまでの空白を埋めるようにがむしゃらに、

ただひたすら言葉と心を綴った


姉はそれに答えてくれた


家が目前まで近づく


最後に一番気になっていることを聞いた



「お姉ちゃんは…私のこと…すき?」


図々しい。あんな事を思ってあんな事をして…

こんな事を言っている自分が私は嫌いだ


だが姉はそんなものを全部壊していった


「私は今も昔もずっと大好きだよ"乃愛"」


あぁ…姉は変わってなどいなかった。

いや、寧ろ昔よりずっとずっと、強く成長していた



そうだ。思い出した



私はただの一度も父から殴られたことはなかった

それは姉が私をいつも庇ってくれていたからだ


傷ついた姉を心配そうに見る私に対して、

誰よりも辛く、苦しく、痛いはずなのに…

姉はいつも私にこう言っていた


「乃愛が元気でいてくれたら私は大丈夫」


そんな姉が私は大好きで、

いつか私が姉を支えられるようになりたいとそう思っていたんだ



私は優秀な姉だから好きだったんじゃない


この真っ直ぐな心


誰よりも優しくて、強くて…

私を愛して、愛させてくれるそんな姉が私はたまらなく大好きだったのだ



姉は変わってなどいなかった。


人の悪意を

恐怖を

痛みを

理不尽を誰よりも知り、

その身に刻まれてなお姉が屈することはなかったのだ



いつまでも私が大好きな姉はあの日からなにも変わってなどいなかった



変わってしまったのは私だったんだ



私は久し振りに大泣きした


その日は姉と一緒に寝た。


これまでの人生で最も幸せな時間だった


この時間を永遠のものに出来るのであれば、

私はどんな代償でも払える…


そう本気で思った








─────────────────

あれから1年が経った


あの日のことは矢面になることはなかったが、

例の顧問は後日退職し、

その後私の身に何か危険が起こるようなこともない。


姉がなんとかしたらしい


現在私は充実した学生生活を送ることができている



そして姉は特待生として地元一の高校に通うこととなった。


成績は良くないと聞いていたのだが姉の事だ、

きっとどうにかしたのだろう



あれから私は家族とよく話すようになった。

妹とは元々よく喋っていた為、

母との会話を増やした。


最初は驚いていたが、

徐々にお互い落としどころを見つけ始めている


その際私は1つ引っかかっていた疑問を母に問いた


"どうして簡単に部活に入るのを許可してくれたのか"


バツの悪そうな顔をした後、

母は内緒だと言いながら教えてくれた


姉は中学に入ったと同時に知り合いの手伝いを毎夜していたらしく、


その報酬で得たお金を生活費と私達妹2人の要望に応えられるよう寄せていてくれたらしい。


姉からは言わないでと約束されてるらしく、

内緒だと言われた



やっぱり姉は凄い


それと同時に私は自分の愚かさを呪った


早く成長して姉を支えられるようにならなくては


その一心で私はこれまで以上に努力を積み重ねた。




それからまた半年の月日が流れた頃、

姉が高校を自主退学した。


原因は分からない


だが姉はいつものように困った表情をしていた


返金に関しては姉が自分で全額出したらしい


「駄目だなぁ私」


そんなふうに姉はぼやいていたが、

私は寧ろ高校をやめるのに対して肯定的だった


なんせ姉は特別なのだ

わざわざ他の者と同じ道を歩む必要はない


姉なら自分の道で

自分一人で、

自分の力だけで何者かに成るだろう


私は本気でそう思っていた



姉は学校をやめた後フリーターとしてバイトを転々としていた


それからの姉はいつも困ったような表情を浮かべでいた


母と妹はそんな姉を心配していた


だが私は少しも心配などしていなかった

むしろなぜそんなに心配なのかがわからなかった


あの姉の事だ、

きっとこの行動にも何らかの意味と狙いがあるに違いない。

いまは何かを成し遂げるための準備期間なのだろう


私は本気でそう思っていた









────────────────

それから2年が経過した


姉は17歳となり私は15歳となり妹は12歳


姉は今もフリーターを続け、

私は高校生となり

妹は中学生になった


私は姉が行っていた高校に同じく特待生として入り、

妹も姉と私と同じ地元の中学に入った


2年という月日は長い


ましてや10代の2年だ


一生取り返すことのできない大事な時間であり、

激動の時間だ


私も妹も大きく成長した


私は一時期伸び悩みもしたものの、

着実に能力を伸ばしていった。


これは少し違うかもしれないが身長が伸びた


姉も低いわけではないのだが、

私は体格に恵まれたらしく、いつの間にか姉の身長を越していた。


だから何だということでしかないのだが、

私はとても嬉しかった。


姉が持ち得ないものを一つでも持てたんだ



妹は普通の子だった

姉はもちろん私を超えるような才覚を何一つとして持っていなかった


別にだからといって貶しているわけではないのだ


姉は特別で、私はその背中を全力で追いかけた

どちらかといえば普通じゃないのは私達の方だろう


妹は人並みに努力し

楽しみ

友だちを作り

人並みの学校生活を送っている


昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと私達について回っていたのが今ではすっかり思春期だ

人間の成長は速いと実感した



その間姉は二年前から変わらなかった


母は変に心配するのではなくそっとしておくのが一番と考えていた。 


べつにフリーターだろうがなんだろうが悪いわけではないのだから好きに生きてくれればそれでいいという方針だ。


妹は1年ほど前から姉に対して反抗期に入ったようだが、

母にはそのような態度を取ることはなく、

姉にだけ反抗的だ


だがそれでも姉に対して思うところはあり、

心配しているようだった。



それとは逆に、私はワクワクしていた


あの姉が二年間も何かを準備しているのだ。

きっと私のような常人では思いも寄らないことを成し遂げるのだろう

私はいつもその日が来るのを待ちわびていた。



そしてときは来た


ある日姉が帰ってこなくなった


バイトの上がりの時間はとっくに過ぎているし、

姉は中学時代も22時には帰っていた


だがその日は朝になっても姉が帰ってくることはなかった


母は一件の着信を入れた後、「そういう時期もある」と言い仕事に向かった


妹は気にしていない素振りを見せてはいたが落ち着かない様子で、なにやらスマホにしがみついていた。



私は心配どころかワクワクしていたのだが、一応連絡を入れておいた



姉がいなくなって三日目


学校の昼休憩中、母から連絡が入った


「綾愛が女の子を連れて帰ってきた」

「夜ご飯作っておくね」と


学校が終わった瞬間、

私は人生で初めて部活を休み、まっすぐ家に帰った。


気になる

気になって仕方がなかった


姉は何を成すのだろう

今回は何が目的なのだろう


姉の行動にはいつも意味があり、

大義があり正しい


そんな姉が連れてきた人物と私は早く会ってみたかった



家に着き、扉を開けると、その少女は目の前に現れた



目が合ったと同時に、

その女の子は優雅な挨拶をしてくれた



名前や顔立ち、その品格から外国の何処かの貴族なのかな?



私は姉のように一人で強くはなれないと悟った時から人と積極的に関わるようにしていた



そのおかげで培った観察眼にはかなり自信があり、

一目見ただけどその人物のあらゆる細かな情報からその人物の本質を見極める事が出来る



善人…とはまた違うだろうが悪人ではないのだろう


抜けているように見えてかなり周りを気にするし色々見抜けるタイプ


でも何かを隠している…

いや、

これは本人も気づいていないのかもしれないし私の気のせいなのかもしれない


だが彼女には何かある。

…そんなふうに感じた


色々感じるものはあったがそれら全てをどうでもよくさせるほどにその少女は尊く、美しく…



「かわいいね!」











──────────────────

姉が帰ってくるまで私達は軽い自己紹介をした後、

お互い聞きたいことを聞き、答えあった



「出会ったのはほんの数日前ですけど大切な人です。

良い人なんですけど、不器用なのが可愛いですね」


「乃愛ちゃんは綾愛に似てますね」


色々話した中でそれらが一番印象にのこった。


似てると言われたのは嬉しかったが、

不器用?姉が?

周りが見えているというのは私の思い違いだな


ある程度聞いてみたものの、

姉の考えも少女の秘密に関しても分からなかった。


まぁ私ごときが理解できるはずが無いのだが


その後妹が帰ってきて、事情を説明し3人で雑談。

小一時間ほどたったころ姉が帰ってきた


妹は一瞬安心したような表情を浮かべていたが、

すぐにいつもの調子に戻り、部屋に帰ってしまった


一通り会話し、4人でご飯を食べた。



母のご飯や家族での食事

久し振りな事が多くとても楽しかった



だがそんな事より私が一番気になったのは…

姉が家族以外とまともに会話していることだ



珍しいどころかそんなことは初めてだった


姉は孤高で他者を必要としなかった


そんな姉が今、

私の眼前で楽しそうに会話していた


その姿は…普通の人間…普通の女の子のように見えた



…食事を終え、必要な事を終わらせ部屋に戻り布団に入る


私はいつも早寝早起きを心掛けている為家族のなかでいつも一番早く寝て、一番早く起きる



今日もそのまま寝ようとしたのだが、

頭には姉が連れてきたリアという少女と、

その少女と楽しそうに会話する姉の姿が映し出され、考えてしまう


なかなか寝付けない


そんな時カーテン越しに声が聞こえてきた


…どうやら2人は同じ部屋で寝るらしい

特に場所もないので当然だろう



……その後、私は二人の会話をすべて聞いてしまった



聞こえてしまったという方が正しいのかもしれない。



初めて聞く姉の弱々しい声

心情

考え

そして少女の優しさ



姉は天才だ

それは疑いようのない事実だ


…だが


姉は私と同じ"人間"だったのだ

人並みに悩むのだ


姉は孤高ではなく"独り"だったのだ

"不器用"だったのだ


姉は完璧ではなく人間らしく"不完全"だったのだ

後悔や失敗もするのだ



私はまた間違えてしまったらしい


あの日…

私は本当の姉を見た、知ったように思い込んでいただけだった


幼い頃と変わらず、

結局私は理想と偶像の姉を見ていたに過ぎなかった



姉の弱さを、現実を知った。

私は失望した


過去と同じく"姉"にたいしてでは決してない


私は"私"に失望していたのだ



15年

それは私が姉と一緒に生き、姉の背中を追い続けた年月だ


それだけの年月一緒にいたのに、

私は姉のことを何も知らなかったのだ。

知っているつもりだったのだ。



私は姉の後ろにいたが…

姉は"独りぼっち"だったのだ



姉がいつもしていた困ったような表情…

私は他者への哀れみの表情だと思っていた



だが違った

あれは自信のなさの表れだったのだ



…そしてあの少女


私が15年間気づけなかった姉の心を…

立てなかった姉の隣を…

彼女はものの数日で理解し、歩んでいた



その日私は寝ることができなかった




…朝になった。

姉と少女は少し前にリビングへと向かった


食器の音といい匂いがする

朝食を作っているのだろう


二人の楽しそうな会話が聞こえてくる


心がモヤモヤする

だがそんな資格もない自分に苛立つ


私は姉の隣を歩くどころか、

背中を支えることも出来なかった



それがすべてなのだ




…妹が起きたようだ


一緒に起きた体を装い、

私は妹と二人でリビングに向かった



4人で朝食を食べた。

少女…リア姉が作ったらしい。とても美味しかった


「えー!すご! 絶対いいお嫁さんになるじゃん!

ね!お姉ちゃん!」


「なんでそこで私に振るんだよ!?」


「毎日味噌汁は飽きちゃいますか?綾愛?」


「なんでお前も乗ってくるんだよ!?」



自分で振っておいて満更でもなさそうな二人を前に私は心が苦しかった。


私はもうそこに立つことは絶対にできないのだ




リア姉は人に寄り添うことができる人だ

とても強く…優しい人だ



私もこんなふうにうまくやりたかった


他のことなら何でもうまくいくのに、

一番大事な、

一番欲しい者の時だけ私はうまく出来なかった…

"不器用"だった



…時刻は10時30分

姉がまた家を開けると言う


その表情は何処か吹っ切れたようなものだった


「お姉ちゃん、 不器用だけど嘘はつかないもんね」


言ってみた


「一言余計」


否定の言葉ではあったが肯定の意が込められていた


そしてもう一つ聞いてみる


「……お母さんに、 一言入れなくていいの?」


姉は高校をやめてから露骨に母との関わりを絶っていた


当時は何も思わなかったが、

今となってみれば自ずと理由は見えてきた


だから聞いた。姉の本心を確かめるべく 


「……あの人は、 私がいなくても多分気にしないから」


「……一応、 伝えといて」


冷たく、影のある声だった



リア姉が心配そうに姉を見やる、

姉はそれに、困ったような笑みで返す


その表情の意味が、

今ならわかるような気がした


でもそれはもう遅い

私では姉を支えられなかった。



あんなに一緒にいたのに


あんなにあなたを見ていたのに



私ではだめなのだ


…その時妹が、

これまで無言だった妹が叫び、飛び出した



…私が思っていた以上に妹は強く成長していた



いや、

私が知らなかっただけでもとからこうだったのかもしれない


姉はともかく私にも及ばない普通の娘だと思っていた私は妹を無意識に格下として見ていた



違ったのだ

そうじゃなかったのだ



姉は強い

独りでも結果を出し続けた。

たとえ挫け、失意の底に堕ちようともまたこうして前を向き始めた



妹は強かった

確かに能力だけで見たら良くて中の上


目立つほどのものはないのかもしれない


だが大切な人の為に一歩進むことができる


それは優しさであり勇気であり覚悟であり強さだ。

私にはなかったものだ



私は違った

能力は妹よりはあるが姉には敵わない


姉よりも交友は多かったが、

妹のように親友と呼べるようなものは作らず…

作れなかった。


私は確かに優秀な部類だろう。

だが一番大事なものを私は取りこぼしてしまった



姉が見つけ、掴み取ったものを


妹が零さず、掴み直したものを


私はそれが流れ落ちるのをただ見ているだけだった


それが私なのだ


もう姉の背中を追うのはやめよう

私には無理だ、烏滸がましかったのだ

身の丈にあった人生を送れば良いのだ


…それでいいのだ


二人が別れを惜しむように抱き合う

妹はこれ以上痴態を晒すまいと涙を堪えている


それは姉も似たようなものらしい


そんなときに私は自分の事しか考えていない

自分が嫌いになる


…そのとき…一人の少女と目が合った


姉が連れてきたその謎多き少女

だが確かに私が15年間できなかったことを成し遂げた少女


その少女がこちらに意識を向けたとき…


『もっと自分を見てあげて』


そう語りかけてきた気がした


表情は柔らかく、優しい笑みをこちらに向けてくれている


その言葉は少女が口に出したわけではない

でも伝わった。確かに伝わったのだ


彼女は言っていた。姉は不器用だと


彼女は言っていた。私と姉は似ていると


そうなのかもしれない


姉は周りを常に気にしていたらしい

私は姉を常に気にしていた


そしてそのどちらもうまくいかなかった。

それ以外はうまくいったのに


ほんの僅かな違いと、

入れ違ってしまったその矢印が同じ方向を向いていたのであれば、


今とは違う結末があったのかもしれない

私が望んだ未来があったのかもしれない



「行ってきます」


姉はそうこちらに言葉を掛ける

その言葉には何処か決意と重みがあった。



"いってらっしゃい"と返すべきだろう


妹はそう返した


でも今はまだ返せない

私はその言葉を返す資格がない

勇気がない


姉の決意に応えられるだけの力が私にはまだない

だから返さない


姉が家を出た

最後にリア姉がこちらに視線を向けたような気がした


あの人は何処まで私を…

私達を見透かしているのだろう


敵わない…そう感じた。


妹は姉が家を出ても泣くことはなかった


「大丈夫?」


そう聞くと妹は何でもないように…


「寂しいけど、私には乃愛姉もいるから大丈夫」


そう言いのけ、そのまま部屋へと戻っていく


いつも通りのように振る舞い、

いつもの日常に戻っていく



その背中が私にはとても大きく見えた



私は姉ほど能力があるわけでもなく、

まだ答えを見つけることができていない。


妹ほど強くなく、前を向くこともできていない。



でもきっと大丈夫だ

あのリア姉から姉と似ていると言われたのだ


妹に乃愛姉がいるから大丈夫と言われたのだ


私の尊敬する…大好きな人たちがそう言っているのだ

から何よりも信用できる



私は不器用だから直接も、強くも、全部も言えない


でもそんな私でも今はこれだけあの人に伝えよう。

あの人への最上の思いを…最低限の言葉で


スマホを取り出しメッセージを打ち、送信する


乃愛の表情は見えない…

だが、何かが晴れたようなそんな気配が彼女にはあった



『私も反抗期、あったんだよ』





名前・天織乃愛

性別・女

年齢・15

身長・167cm

種族・人間

所属・高校生

能力・なし


備考

黒髪のショートに黒色の瞳

昔は姉と同じく長髪だったらしい


今どきのJKらしく美意識が高い


スタイル抜群でスレンダーなモデル体型


顔が姉とかなり似ている


女4人家族の次女


中学では剣道、

高校では柔道部で個人戦が最も好きらしい


性格は明るいが容姿は美人系


非常にモテるが、

男よりも女に告白された回数のほうが多い


姉からは絶対に勝てない優秀な妹と思われているが、

乃愛自身は姉には絶対に勝てないと思っていて、

妹はその2人を微笑ましく思っている。


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