第10話 合理的に
"敗走"…その言葉が嫌でも頭に現れる
いや違う。まだ負けてない…終わらせてはならない…
絶対に…
律「綾愛さん、リアさんを起こしてください。
時間がありませんのでいち早く状況の整理をしましょう」
冷静に淡々と…スマホでどこかに連絡しながらそう言う律
打ち方を工夫した為リアはすぐに起きた
起きてすぐ周囲を見渡し状況を察するリア
律「それでは状況を整理しましょう。
突然の襲撃者に僕達は反応出来ず攻撃を受けた。
周囲の状況からおそらく街…もしくは都市単位で消し飛んだ可能性があります。
"ルシファー"…まあ"サタン"というのが本当なのであればあの強さも納得です。
三尾まで解放した朱音でも足止めが限界と考えていた事から相手のレベルは"王級"…もしくはそれ以上と考えてよいでしょう…」
表情を変えず必要な事だけを…
必要な言葉だけを連ねていく
律「そして奴の発言からしてほぼ確実に宗教団体関連で…僕達をピンポイントで狙っているのは確定でいいと思います。
ちなみにこの場所は僕と朱音の家で、
僕が着けているこのリングでいつでも転移出来るようになっています。
ですが残念な事にここは先程までいた社員寮とあまり離れていないので、
あのレベルの相手なら直ぐに探知してしまうでしょう。
朱音が足止めに徹してはいると思いますけど甘く見積もって一分稼げれば良いほうでしょうし…
探知と移動含めて10分あるかどうかというとこでしょうか…」
言葉を…状況と情報をただ合理的に並べていく
…聞いてられない…
リア「律さんちょっとまっ…」
律「一応僕が持っている連絡先で最も信頼している人…天野さんにはすでに救援要請を送ってはいますが、
あの人は多忙で神出鬼没の為正直あまり期待はしないほうが良いですし、
そもそもあのレベル相手になんとか出来る人は組織内でもいるかどうか…時間もありませんし…
今考えるべきは奴に気づかれないよう隠れて時間を稼ぐこと…」
リア「律さんっ!!」
リアが律の言葉を止める
リア「律さん…あか…」
綾愛「リア!!」
それは駄目だ
今はその話をするべきではない
分かっているのだ。私もリアも。
…そしてそれ以上に律さんも
自分を…
心を…
本能を律して合理的に動く彼の覚悟と強さを壊してはいけない。それだけは絶対に駄目だ
リア「大丈夫ですよ綾愛。
心配させてごめんなさい。
…でも私もそこまで弱くはないです」
リアは私の目を見て優しく、強くそう語る
リアの目には私を心配させまいとする心と、
私を侮るなという怒りの心が内包されていた
…私はリアを過小評価していたらしい…
自分は分かっていると…周りが見えているとそう考えていた自分に腹が立つ
リアも分かっているんだ
朱音が残してくれたその意味を、その決意を
それを一番に受け取った律さんの覚悟を
そしてまだ終わっていない事を…"次がある事"を
リア「律さん。貴方はどうしたいですか?」
ただ単純に、本当に何の裏もなく聞く
律「今言ったとおりです。
合理的に考えて僕達だけで奴に勝つことは不可能に近い。ですので隠れるのが得策…」
律が言い切る前にリアが割り込む
リア「そういうのは良いです。私は律さんに聞いてるんです。…はっきり答えてください」
予想外の返答だったのか律さんが表情を変えた。
その表情は今まで見てきた律さんとは思えない程に弱く…今にも崩れてしまいそうなほどに脆く見えた。
律「…朱音は…死にました。
死ぬのを分かっていてあのような行動を取りました。
…本当に馬鹿です。僕は何度もその悪癖を直せと言ったのに…最後まで直そうとしなかった」
先ほどまでとは違う声音で…
私達ではない何かを見ている。
律「朱音はいつも本能と直感で動く人でした。
自己を顧みず人の為なら簡単に身を投げ出す…
それでいつも余計なものを背負うくせに彼女はいつも決まってこういうんです
「あたしが背負った分笑顔になる人がいる」って…
笑顔でそう言うんです」
大事なものを手探りで探している様に…
引き出しの上から無作為に取り出すように心を…
思い出を吐き出す
律「僕は彼女を尊敬していました。
僕が持っていないものをたくさん持っていた彼女を…
そして彼女が持っていない物を持つ僕を…
彼女をささえることのできる僕が僕は好きでした。
…だからこそ、あの時の彼女の判断が、表情が、
なによりその判断をさせてしまった僕が僕は許せないんです」
目をつむり、深呼吸をする
律「僕は常に合理を大事にしていました。
それは彼女が持ち合わせていない一番の要素だったからです。
僕はそれに執着し、感情を挟まなくて良いその気楽さに僕は依存してしまっていた。
…その結果彼女の死に目に会うことすらできなかった」
一つ…決心がついたように…律さんが視線をこちらへと向ける
私は…私達はその視線から目を逸らさず合わせる
律「これは絶対に間違ってる…それを承知の上でお願いします。
…僕と一緒に死んでください。
奴を…朱音の仇を取りたいんです」
力強くそう言い切る律
…だがその声音には震えが乗っている
彼がこのような判断を、行動を取るのはいつ以来だろう…もしくは初めてかもしれない。
合理的な行動や発言は楽なのだ。
間違いではない上に自分の感情が乗っていない。
律は常に間違っていなかった。
だが正しくもなかった。
彼自身もそれを自覚してはいた。
自覚していた上で合理に逃げていた。
…最愛の人物が死ぬその瞬間ですら……
そんな彼が今、
自分の感情のみで動こうとしている
仇討ちという最も合理からかけ離れているその愚行を彼は行おうとしている
二人を見る視界が、身体が、精神の震えが止まらない
これを否定された時僕はどうなってしまうのか
そう考えずにはいられなかった
だが彼女等はその思考を…彼の事を全部分かっているように…
律が弱々しく…助けを求め出したその手を…
少しの迷いもなくその手を握った。
綾愛&リア「まかせて」
───────────────
綾愛「…じゃあまずは手札の確認からいこう」
珍しく綾愛が先行し、
それぞれの出来ることをまとめていく
1.律
・解析鑑定の能力をもつが直接的な戦闘には使えない上、能力の条件上弱点を探ることも困難
・そもそも正面からの戦闘が苦手で単純な戦闘力だけではリアと綾愛に劣る
2.綾愛
・類まれな近接戦闘センスと実戦でこそポテンシャルを発揮するタイプだが、身体能力が一般人程度しかないのと近接戦闘以外ができない。
・生力の使用、制御が困難。
・切り札として生力をオーバーヒートさせることで中級クラスを一撃で倒せる威力を出すことが出来るが、その後動けなくなる諸刃の剣。
3.リア
・全ステータスが高水準に高いがそれを活かせるだけの能力と技を持っていない
・近接にしても身体能力は朱音以下、センスは綾愛以下のため中途半端。中距離も火力不足。
…はっきり言って状況は絶望的だろう
だが3人の目は、気持ちは何も変わらない
そんな事は百も承知だ
律さんが手を挙げる
律「一つ、僕に策があります。
僕の能力は"解析鑑定"主に対象の情報を得る…
優秀ではあるのですがそれだけで何とかできるほど強い能力ではないです。
ですが修行期間の時にも教えたと思いますが、
能力は自身の解釈と発想力、想像力によって使用用途を増やす…つまり技を作ることができます」
確かに言っていた
能力の効果をそのまま受け取ってしまい、
それだけしかできないと思い込んでしまうのは才能を捨てるような物。
下級であろうと中級であろうと、
階級問わず能力には無限の可能性が秘められているらしく、使用者の技量と解釈によって様々な効果を生み出せるらしい
当然律さんも持っているのだろう
律「僕は対象を生物や物体だけでなく、
相手の能力や空間にまで広げる事で直接触れることなく解析する事ができ、
その進行度に応じて耐性や特効の取得と妨害…
つまりはバフ、デバフなどを扱うことが出来ます」
リア「つまり時間を稼ぐことが出来れば解析を進め、対抗策を得ることができると…」
綾愛「やつ相手にどこまで効果を発揮するかは分かりませんが…確かにかなり有用ですね」
思案する私達に律さんが訂正する
律「いえ、その心配は無用です。
僕の能力は一度発動すれば近くにいなくとも解析を進めることができるんですが、
あの時僕は咄嗟に解析を開始したのでいまもゆっくりではありますが解析を進めています。
…今の進行度から考えて特効、耐性を作るのは難しいと思いますが、妨害くらいならできると思います」
リア「じゃあ時間稼ぎにリソースを割く必要はないってことですね…かなりありがたいです」
綾愛「…流石」
どこまで考えて合理的に動いているのだろうか
私もリアもただ状況を飲み込むことに精一杯だったというのに、2人は次の為に動いていたのだ
場数の差を思い知らされる
律「ですが…
正直それだけで何とかなるほどの代物では無いです。
そもそも手札が足りないのは勿論、
それよりも深刻なのは単純な実力差です。
レベルが足りない…つまり推奨レベルに全く届いていないような状況…どうにかする為にはその差を覆せるだけの切り札が必要…」
律さんが考える様な仕草を取るが…
きっと一つ策…というよりも言うべき事を分かってはいるが言い渋っているのだろう
私とリアも分かっている
出し惜しみしている暇はない
ここまでやってくれた2人にどうして隠し事が出来るのか
律「お二人…」
リア「律さん」
言葉が被る
リアがこちらに視線を向けてくる、目が合う。
私は頷く
3人が今考えていることはきっと同じだ
リア「私も綾愛も、
律さんを同情してこの話に乗ったわけでは決してないです。自分の意志で、自分の判断で、自分がやりたいから乗ったんです。
だから遠慮せず言ってください。私達も応えます」
リアが私の手を握る
その手は強く、熱かった
律「…わかりました。
…お二人の"能力"を教えてください」
リア「もちろんです。
ですが私の…私達の能力はピーキーな上にうまく使いこなせていません。ですので期待に応えられるかは分かりませんがそれでも良いですか?」
律「もちろんです。
僕の…いや、目的の為に動いてくれて感謝します」
初めてちゃんと心を通わせることができた
そんな気がした
リアと私の能力
「例外」その効果は、
「あらゆるものを対象とし例外化させる」というものらしい
"例外化"というのを一言で表すのであれば、
"本来適用されるはずのルールや法則から対象を外す"
ということだ
そしてその対象は生物や物などに限らず、
物理法則や事象、概念、現実、過去未来に至るまで世界の全てを対象とすることができる
これだけ聞けば問答無用のチートレベルなのだが、
リアがピーキーというだけの理由も勿論ある
主に3つ
1.能力使用時の生力消費量が異常。
通常的な能力であれば数字にして10〜100程度の所、
対象とその規模の大きさによるが例外は最低でも10万は消費してしまう
2.能力発動後どのような形になるのか発動するまで分からない。
あくまで"例外化"させるというものであり、
どのように変わるかを選ぶ事も出来ないうえその曖昧さからどのように変わるか予想して使わなければならない。
3.能力の使用難度が極めて高い。
触れているものや、
変えても世界に対しての影響度が低いものであるならばリアも扱えるが、
規模が大きくなればなるほど必要な生力量と能力精度、演算能力が桁違いに上がる為そもそも発動することもできない。
確かに発動さえ出来てしまえば今回の戦闘を勝利に導く重要な鍵のひとつなのだが、
発動までに時間がかかる
どう変わるかが分からない
使用回数が限られている
これらの点から運用方法はかなり限られ、難しい。
リアですらこのレベルなら私はまず使えないだろう。
…一応私も一回使ってはいるけどあれこそ例外的なものだろう。例外だけに…
…そしてこれらの情報は必ずしも正解ではない。
というか間違っている可能性のほうが高いだろう。
その理由はこれらの情報は詳細が分からない状態でリアが色々試した末の結論でしかないからだ
それでもリアは毎日能力の使用限度まで使い、
調べていた事から大きく間違っているということはないだろう。
リアが言う通りかなりピーキー
あまり充てにするのは良くないかもしれないな…
説明を受けた律も長考に入ってしまった
リアは落ち着かないらしく周囲をキョロキョロしている
…そんな中私は自分でも分かるほどに非常に冷たく、冷静だった。
この感覚には覚えがある
あの夜、私が初めて能力を使用した日…
もっと遡れば中学時代の"あの任務"…はまぁいいや…
…綾愛は自身を過小評価し、
逆に他者を過大評価する悪癖がある。
それは環境よる精神性の湾曲も原因の一つだが、
最も大きいのは生まれ持ったものであるという点。
…そう、綾愛は超がつくほどのネガティブなのだ。
だが、そんな綾愛ですら一つだけ信じている自分の才能がある。
それは"本番での強さ"
そしてそれは追い込まれている状況であるほど効果を発揮する…
…私がやるしかない。
今この状況を打破する可能性を持っているのは私だ
…ならばやろう。私にできることを
綾愛「すいません。一つお願いがあります。
ルシファー攻略の作戦を私に任せてもらえませんか?失敗した際の責任は…天国かもしくは地獄で取ります」
普段の綾愛では絶対にしない先導するセリフと行動。
律とリアはその発言と語気の強さに一瞬驚く…が、
瞬時に理解し、納得する。
律「綾愛さんがそこまで言うなら信用できます。
…でも僕は天国だと思うので綾愛さんとは会えませんね。残念です。」
リア「そもそも責任なんて取らせませんよ綾愛。
…もっとも、その時が来てしまった時は地獄であろうと一緒に着いていきますよ」
冗談混じりに了承の意を伝える2人。
口調は軽いものだがその意思は固い。
綾愛「なんで私が地獄前提なのかはもういいや…
とりあえず信用してくれてありがとう」
転移してからおそよ5分弱。
この上においてそれだけの時間消費は大きな影響を与える…
が、この時間は3人にとって与えられた影響以上に大きな…かけがえのないものを生み出した。
綾愛「それじゃあ…作戦を伝えます」
─────────────
周囲は何もない更地。
私の目には地平線の彼方までなにも見えない程に広い距離が更地と化していた。
眼上には白い片翼の翼を生やしたものがいる。
その気配は間違いなく奴だ。
だが、見た目が…
綾愛「その姿は…なんだ、お前…」
声が震えた。それはどの感情なのだろう
ルシファー「わざわざそちらから来てくださるとは…ありがとうございます。…ところでこの見た目がどうかしたのですか?」
その声は、容姿は…朱音のものと全く同じだった
綾愛「なぜお前が朱音さんと同じ姿、声なのかと聞いているんだ」
声の震えがより強くなる。
ここに来るまでの道中ずっと燻っていた気持ちが強くなっていくのを感じる。
ルシファー「なぜって…この身体は既に私のものになったからですよ?
…あぁ、そう言えば言っていませんでしたね。
私は現在色々あり、自身の肉体を持っていない。
その為力が戻るまで一時的に憑く…
つまり受肉先を探していまして、
先の男の身体よりもこの獣の身体のほうが良いと判断したため貰いました」
言葉は耳に入っている。
だが頭に入ってこない。
入れたくもない。
理解したくない。
ルシファー「少し獣臭いですが…まぁ人間よりはマシですね…
あとご安心ください。この身体の元持ち主の命は入っていませんので同期に苦しんではおりませんし、
力が戻る…もしくは新しい受肉先を見つけた場合ちゃんと身体は返しますので大丈夫ですよ」
全身が震え、身体中の細胞が騒ぎ立てているような感覚を覚える。
あまりにも強過ぎて分からなかったけどやっと分かった。
綾愛「お前をぶっ殺す!」
…私怒ってるんだ
ルシファー「…人間はやはり野蛮ですね。いらない生き物です。
…ですが、貴方一人で何ができるというのですか?
他の2人はどこに?」
ルシファーの眼下には綾愛ただ一人
周囲の気配や生力を探知してはいるが誰もいない
綾愛「お前ごとき直ぐに引きずり降ろして逆に見下ろしてやるよ。お前が神にやられたのと同じようにな」
分かりやすく表情を変えるルシファー
ルシファー「人間ごときが主の名を語るな」
こちらに掌を向け、光を溜め始める。
その動きは読めていた
綾愛が瞬時に背中の中剣を奴に向け投擲する
ビュッ
鋭い風切り音とともに脳天へと飛んでいく
そしてそれを意図も容易く…
まばたき一つ労さずルシファーは剣を光と共に消滅させた。
ルシファー「その程度の浅知恵しか持たぬ種族がここまで生きながらえているのは主の御心でしかない…それを理解していない…傲慢にもほどが…」
ヒュッ
言い切る前にルシファーが地面へと落下…というよりも"飛行能力を失った"
音もなく着地したルシファーだが、その表情には疑問が浮かぶ。
そしてその直後、
綾愛のはるか後方にて彼のものとは違う青い光が現れ、消えた。
綾愛(取りあえずは第一段階成功…ナイスです律さん)
ルシファーが再度飛ぼうとするが翼は動かない。
ルシファー(青髪の男の能力か…
恐らく私に何かしらの状態異常を与えた…
生力が探知できなかったのも引っかかる…
そしてさっきの光…)
少し思案し、すぐに答えを出す。
ルシファー「これはもう一人の人間の仕業。
解析、鑑定のどちらか、もしくは両方の能力持ちで、
一度目は生力探知の妨害、ニ度目は私の飛行能力を奪う術式を使い、本人は能力の使用後何処かに転移…
そして能力の効果時間は私と彼の実力差などを考慮したうえで恐らく5分…もしくはもっと短い…そうでしょう?」
綾愛「さぁどうかな」
声音、表情、呼吸、あらゆるものに違和感となるものを出さずにポーカーフェイスを張る綾愛
綾愛(こいつ鋭いなんてもんじゃないだろ。
ほぼ正解だ)
一度目は生力探知の妨害にしようと思ったが、
リソースが足りないという事で律さん自身の気配を無くすことで若干のリスクはあるが消費を抑えた。
そして二度目は翼での飛行のみを妨害。
飛行能力そのものを抑えることはリソースが足りないため翼だけにした。
だがこれは賭けだった。
もし翼でどんでいなかったら。
生力での飛行技術を持っていたら。
そもそもが大天使で魔王なのだこら飛行能力くらい素で持っている可能性。
負け筋は多くあっただが、律さんは気づいていた。
奴が受肉体であることを。
それならば飛行能力は持っていないと判断し、
能力の設定を考えてくれたのだ。
そしてここまでリソースを抑えに抑え、
分の悪い賭けに勝った上で得られたのは5分という短い時間。
だがそれでも突破口は見えてくる。
作戦は私だがそれ以外は全て律さんのおかげだ。
本当に優秀な人だ。
綾愛「ところで良いのか?
地面に堕ちちまって、ご自慢の上から目線はもうできないぞルシファー?いや、"サタン"」
かまをかけてみる。
やつはルシファー、サタンと名乗りながらもどこか変だった。
サタンにしては魔族性の力を使わないし、
神のことを主と呼んでいた。
私もあまり詳しくはないが、
サタンなら神を嫌っているはずだ。
もしかしたらそこにほんの少しでも隙間があるのかもしれない。
ルシファー「その名で私を呼ぶな人間!
貴様らのような下等な種族など再度捻じ伏せてしまえばいいだけだ!」
予想は的中。面白いほどに乗ってくれた。
綾愛(戦闘において冷静さを欠くのは死に直結する愚行。それを引き出せるなら煽り得だ)
綾愛「ただ上から見ることしか出来ないお前らに何が出来るよ?ここは地上。私達のテリトリーだ。
そこに堕ちたお前に私を下す事は出来ねぇよ」
深呼吸し、集中する。
怒りはあるが冷静で静かだ。
むしろ怒りが良い具合にストッパーを外す役割を果たしている。
調子がいい。
私があの修行期間で得たものは主に2つ。
一つは能力や生力などに関しての一般的な知識
もう一つは…
【生力解放】──三分咲き──
綾愛「ふぅー…」
生力の一時的な解放
毛先だけがピンクに染まる。
私が生力を扱えないのは単純に慣れていないのもあるが、それ以上に私よ生力の特質性故のものが大きい。
人によって生力の量が違うのは勿論属性や性質、濃度なども異なるらしく、私のものは全てにおいて異例な数値らしい。
これを聞いたときはかなり嬉しかった。
やっぱり私にもそういう特別な力的なのがあるのか〜と中二病心が疼いた。
だが現実問題そんな簡単なものではなく、扱う難易度が桁違いである為意識的に操作するのは今の私では不可能だった。
そこで地道に生力の精度を上げるのではなく、
もっと簡単な方法をとることにした。
私の身体からは常に生力が溢れてしまっているらしく、その一部だけでも自身の力として扱うことに注力する修行を行った。
ちなみにこれは朱音さんからの提案だ。
溢れ出ている生力は全体の5%未満で、
現在私はその生力のうち30%を扱うことができるようになった。
実際全体で考えたら大した量ではない。
身体能力も上がりはしたがまだ朱音さんやリアには届かない。
良くて初級、中級に片足入ってるかどうか程度
だが、私にはそれで十分だ。
ルシファー「少し変わったようだが、
その程度でどうにかなると思っているのならあまりにも怠惰だ」
確かにそうかもな。
少しは強くなったが実力差はいまだ歴然。
蟻と象レベルの差があるだろう。
だが私は人間でやつは天使だ、魔王だ。
そして奴は知らない。
何も持っていない、持ち得ない者の知恵とその強さを。
綾愛「そのまま傲慢にふんぞり返っておけサタン。
その方が御しやすくて助かる」




