16-1
翌日の昼、糸ちゃんと一緒に火葬場へ行った。
レイジはお通夜も告別式もせずに、ここでお別れして火葬されるのだという。
レイジは家族と絶縁状態だったそうで、お父さんの姿もお母さんの姿もそこにはなかった。
そしてそんな両親の代わりに来たという親戚の人がふたり、仕方なくと言った感じであたしたちに頭を下げた。
あとはライブハウスのナベさんと、ナベさんのバンド仲間の人たちが来ているだけ。
一時とはいえ、華やかな世界で活躍していた人の最期とは思えなかった。
レイジと喧嘩別れしたというバンドのメンバーたちは、きっとレイジが亡くなったことさえ知らないのだろう。
そしてその場に、響は来ていなかった。
棺の中のレイジとお別れをする。
あたしと糸ちゃんはこの日初めて、レイジの名前が「佐藤礼司」だと知った。
だけどその名前を聞いてもピンとこなくて、レイジはやっぱりレイジなんだと、あたしは心の中で何度も思ってしまった。
火葬炉から出てきたレイジは、もう骨だけになっていた。
あたしは糸ちゃんと一緒に、遺骨を壺の中に入れさせてもらい、それを親戚の人が持って帰った。
あたしの前から、レイジは本当にいなくなってしまった。
人が死ぬってこういうことなんだ。
わかっているつもりで全然わかっていなかったあたしは、その時初めて理解した。
そしてなんとなくお兄ちゃんのことを想う。
お兄ちゃんはどれだけ理解しているのだろうか。
人が亡くなるということを。
自分の犯してしまった大きすぎる罪を。
「つぐみちゃん、帰ろうか」
糸ちゃんに声を掛けられ、うなずいた。
火葬場を出ると、糸ちゃんの車の中から響のスマホに電話をしてみた。
だけど響は出ない。
響はどこにいるのだろう。今ごろ何をしているのだろう。
響に会いたい。とても。
次の日も、その次の日も、響に連絡したけど返事はなかった。
あたしはバスに乗り、レイジのアパートに向かった。
だけど鍵が閉まっていて誰の返事もない。
響はもうここにいないのだろうか。
あたしに黙って、親戚の家に戻ってしまったのだろうか。
響がバイトしていたライブハウスにも行ってみた。
「ああ、ヒビキはバイトを辞めたんだよ」
髭のナベさんがあたしを見て、穏やかな表情で教えてくれた。
「叔母さんのところに戻るっていうから、それがいいよって僕も勧めてね。レイジからもそう言われてたらしいし」
「あの、もう行っちゃったんでしょうか。部屋を訪ねても誰もいなくて……」
「まだ部屋の解約はしてないはずだけど。連絡つかないの?」
「はい……」
うつむいたあたしに、ナベさんが優しく言う。
「わかった。僕からも連絡してみるよ。もしかしたらまたここに顔を出すかもしれないし。もし連絡取れたら、君に電話するように伝えるから」
「ありがとうございます」
ナベさんはすごくいい人だ。
響が言った通り、怖そうに見えるけど全然怖くない。
響はきっと、優しい大人の人たちにたくさん助けられていたのだろう。
そしてあたしも、同じように助けられている。
頭を下げて帰ろうとしたあたしに「レイジはいなくなっちゃったけど、またヒビキと歌いにおいで」と、ナベさんは言ってくれた。




