15-1
「つぐみ、落ち着いて聞いて?」
響からその電話を受けたのは、数日後のクリスマスイブの早朝だった。
あたしは布団の中で、寝ぼけたままスマホを手に取る。
まだ窓の外は薄暗く、数羽のカラスが鳴いているのが聞こえた。
「レイジが、死んだ」
その声はぼんやりとあたしの耳に響いて、まだ夢の中にいるのだと思った。
「つぐみ? 聞いてる?」
あたしはのっそりとベッドの上に起き上がり、少し伸びた髪をかき上げながらスマホを持ち直す。
「聞いてる……」
「明日、火葬されちゃうから。もし会いたかったら、火葬場に行ってやって」
響が何を言っているのかわからなかった。頭も心もフリーズしてまったく動かない。
「糸子さんにも伝えて……」
「あの」
響の言葉をさえぎるように声を出す。
「響はどこにいるの? あたしもそこに行っていい?」
少しの沈黙のあと、響が答える。
「今、病院だけど、ここに来てもレイジはいないよ。遠い親戚だとかいう人が来て、連れてっちゃったんだ」
「死んだって……いつ?」
「真夜中。俺がここに来たときにはもう……間に合わなかった」
「そんな……ウソでしょ? だってこの前まであんなに元気で……」
「容態が急変したらしい。でもこうなる前から、相当無理してたんだろうって。あの人、苦しいところとか、絶対他人に見せないから」
淡々と話す響の声を聞いていたら、どうしようもない怒りが湧いてきた。
「どうして響はそんなに落ち着いてるの? レイジ病院にいたんだよね? ちゃんと治療受けるって約束したんだよね? 何で病気治せないの? 何で急変するの? 何で死んじゃうの? おかしいじゃん!」
隣の部屋で物音がした。あたしの声で、糸ちゃんが起きてしまったのかもしれない。
だけどあたしはあふれ出した言葉を、止めることができなかった。
「ねぇ、何とか言ってよ! ウソだって言ってよ! そんなの信じられない! あたしは絶対信じない!」
「つぐみちゃん? どうしたの? 朝から大声上げて」
部屋のドアを糸ちゃんがノックする。
ぎゅっと唇を結んだあたしの耳に、響の声が聞こえる。
「俺だって信じられない。だけどウソじゃない。明日の昼、火葬場に行ってやって。焼かれちゃう前に」
あたしの背中がぞくりと震えた。
焼かれちゃう……レイジの身体が焼かれちゃう。
レイジは本当に死んでしまったのだ。
響の電話がそこで切れた。
それと同時に部屋のドアが開き、糸ちゃんが顔を出す。
「つぐみちゃん? 大丈夫?」
あたしの手からスマホが離れ、ベッドの上にぽすんと落ちた。
「糸ちゃん……どうしよう……」
自分の口から出る声が、自分のものじゃないみたいだった。
どこか遠くの、知らない誰かがしゃべっているみたいに思えた。
「レイジが……死んじゃった」
糸ちゃんは黙ったまま、じっとあたしの顔を見つめていた。




