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「で、レイジは元気だったの?」
翌日、糸ちゃんと一緒にガラスのペンダントを作っていたら、思い出したように糸ちゃんが言った。
昨日バス停まで迎えにきてくれた糸ちゃんは、絵里ちゃんと会ったことしか聞いてこなかった。
あたしも「レイジの家に寄ってから帰る」とは伝えていたけれど、そのことについては何となく話せずにいた。
「昨日、会ったんでしょ? レイジとヒビキくんに」
「あ、うん。元気……だったよ?」
「そう」
糸ちゃんはあっさりとうなずいた。
レイジのこと、心配しているのだろうか。
それともどうでもいいと思っているのだろうか。よくわからない。
でも糸ちゃんは仕事中、いつもレイジの歌を聴いている。
時々それに合わせて口ずさんだりもしている。
あたしは昨日、レイジと一緒に歌ったことを思い出した。
「あのね……糸ちゃん」
「うん?」
糸ちゃんは優しい顔であたしを見る。
あたしはちょっと心臓をドキドキさせながら、糸ちゃんに打ち明ける。
「あたし昨日……レイジと一緒に歌を歌ったんだ」
糸ちゃんは目を見開いてあたしを見て、それから嬉しそうな笑顔を見せた。
「すごいじゃない。つぐみちゃん、歌上手だもんね」
「そんなことないけど……それでね……レイジがね……」
こんなことを言ったら、糸ちゃんはどんな反応をするだろう。
「今度、ライブに出てみない……って」
「え?」
「レイジとあたしの……ツインボーカルだって……」
糸ちゃんはさらに目を見開いたあと、悲鳴のような声を上げた。
「すごい! カッコいい! ステキじゃない!」
「でもあたしできないよ。そんなの……やったことないし」
「大丈夫だよ! つぐみちゃんならできるよ!」
「だってあたしは……」
そこまで言って言葉を詰まらせた。
『それで罪を償ってるとでも思ってんの?』
昨日の響の声が頭によみがえる。
あたしだって、これでいいとは思っていない。
だけどどうしたらいいのか、わからないから……。
「やってみたら?」
糸ちゃんがあたしに言った。
「やってみたら、何かが変わるかもしれないよ?」
何かが変わる……。
あたしもレイジが言ったみたいに、前に進むことができるのかな。
進んでいいのかな。
あたしは手に持っていた透き通ったガラスを見つめる。
それを明るい窓にかざしたら、ガラスの向こうの青い空が輝いて見えた。
次の週が始まっても、あたしは学校へ行かず、家事をして勉強をして、糸ちゃんと一緒にガラス細工を作って過ごしていた。
糸ちゃんはやっぱりあたしに「学校に行け」とは言わなかった。
そしてその夜、あたしのスマホに響からのメッセージが届いた。
【明日の夜、出てこれる?】
その文字を見るだけで、心臓が高鳴るのがわかった。
これって……この前言っていた「リハ」とかいうやつのことだろうか。
いや、どう考えても、無理だ。絶対無理。そう思うのに……。
あたしは響とレイジに会いたいって思ってしまう。
この前レイジと歌を歌った時の、心が晴れ渡るような感情が、あたしにずっとつきまとっている。
あんな気持ちになったのは初めてだ。
それは「無理」と思う気持ちより、どんどんどんどん大きくなって、あたしの背中を押してくる。
変わりたい。あたしは変わりたい。
少しでもいい。ここから前に進みたい。
「糸ちゃん!」
あたしは叫びながら部屋を飛び出した。
「明日の夜、出かけてもいい?」
仕事部屋にいた糸ちゃんは、あたしを見て不思議そうな顔をする。
「響に……誘われてるの。たぶん……歌の練習するんだと思う」
それを聞いた糸ちゃんはニッと笑ってあたしに言う。
「いいよ。ただし叔母さんも一緒に。遅くなったら危ないでしょ?」
「……ほんとにいいの?」
「つぐみちゃんがやりたいと思ったことなら応援するよ」
胸がじんわりとあたたかくなった。
「ありがとう。糸ちゃん」
糸ちゃんがあたしの前で澄んだガラスみたいに綺麗に笑う。
あたしはすぐに響に返信した。
【行けます。叔母さんと一緒に行きます】
そわそわしながら画面を見ていると、響の返事が現れた。
【じゃあ明日の夜六時、駅前広場で】
胸が一段と高鳴った。
呼吸が上手くできなくて、深く息を吸って、それをゆっくりと吐き出した。




