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11-1

「で、レイジは元気だったの?」


 翌日、糸ちゃんと一緒にガラスのペンダントを作っていたら、思い出したように糸ちゃんが言った。

 昨日バス停まで迎えにきてくれた糸ちゃんは、絵里ちゃんと会ったことしか聞いてこなかった。

 あたしも「レイジの家に寄ってから帰る」とは伝えていたけれど、そのことについては何となく話せずにいた。


「昨日、会ったんでしょ? レイジとヒビキくんに」

「あ、うん。元気……だったよ?」

「そう」


 糸ちゃんはあっさりとうなずいた。

 レイジのこと、心配しているのだろうか。

 それともどうでもいいと思っているのだろうか。よくわからない。


 でも糸ちゃんは仕事中、いつもレイジの歌を聴いている。

 時々それに合わせて口ずさんだりもしている。

 あたしは昨日、レイジと一緒に歌ったことを思い出した。


「あのね……糸ちゃん」

「うん?」


 糸ちゃんは優しい顔であたしを見る。

 あたしはちょっと心臓をドキドキさせながら、糸ちゃんに打ち明ける。


「あたし昨日……レイジと一緒に歌を歌ったんだ」


 糸ちゃんは目を見開いてあたしを見て、それから嬉しそうな笑顔を見せた。


「すごいじゃない。つぐみちゃん、歌上手だもんね」

「そんなことないけど……それでね……レイジがね……」


 こんなことを言ったら、糸ちゃんはどんな反応をするだろう。


「今度、ライブに出てみない……って」

「え?」

「レイジとあたしの……ツインボーカルだって……」


 糸ちゃんはさらに目を見開いたあと、悲鳴のような声を上げた。


「すごい! カッコいい! ステキじゃない!」

「でもあたしできないよ。そんなの……やったことないし」

「大丈夫だよ! つぐみちゃんならできるよ!」

「だってあたしは……」


 そこまで言って言葉を詰まらせた。


『それで罪を償ってるとでも思ってんの?』


 昨日の響の声が頭によみがえる。

 あたしだって、これでいいとは思っていない。

 だけどどうしたらいいのか、わからないから……。


「やってみたら?」


 糸ちゃんがあたしに言った。


「やってみたら、何かが変わるかもしれないよ?」


 何かが変わる……。

 あたしもレイジが言ったみたいに、前に進むことができるのかな。

 進んでいいのかな。


 あたしは手に持っていた透き通ったガラスを見つめる。

 それを明るい窓にかざしたら、ガラスの向こうの青い空が輝いて見えた。



 次の週が始まっても、あたしは学校へ行かず、家事をして勉強をして、糸ちゃんと一緒にガラス細工を作って過ごしていた。

 糸ちゃんはやっぱりあたしに「学校に行け」とは言わなかった。

 そしてその夜、あたしのスマホに響からのメッセージが届いた。


【明日の夜、出てこれる?】


 その文字を見るだけで、心臓が高鳴るのがわかった。

 これって……この前言っていた「リハ」とかいうやつのことだろうか。

 いや、どう考えても、無理だ。絶対無理。そう思うのに……。

 あたしは響とレイジに会いたいって思ってしまう。


 この前レイジと歌を歌った時の、心が晴れ渡るような感情が、あたしにずっとつきまとっている。

 あんな気持ちになったのは初めてだ。

 それは「無理」と思う気持ちより、どんどんどんどん大きくなって、あたしの背中を押してくる。


 変わりたい。あたしは変わりたい。

 少しでもいい。ここから前に進みたい。


「糸ちゃん!」


 あたしは叫びながら部屋を飛び出した。


「明日の夜、出かけてもいい?」


 仕事部屋にいた糸ちゃんは、あたしを見て不思議そうな顔をする。


「響に……誘われてるの。たぶん……歌の練習するんだと思う」


 それを聞いた糸ちゃんはニッと笑ってあたしに言う。


「いいよ。ただし叔母さんも一緒に。遅くなったら危ないでしょ?」

「……ほんとにいいの?」

「つぐみちゃんがやりたいと思ったことなら応援するよ」


 胸がじんわりとあたたかくなった。


「ありがとう。糸ちゃん」


 糸ちゃんがあたしの前で澄んだガラスみたいに綺麗に笑う。

 あたしはすぐに響に返信した。


【行けます。叔母さんと一緒に行きます】


 そわそわしながら画面を見ていると、響の返事が現れた。


【じゃあ明日の夜六時、駅前広場で】


 胸が一段と高鳴った。

 呼吸が上手くできなくて、深く息を吸って、それをゆっくりと吐き出した。

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