10-2
ハンバーガーショップを出たあと、絵里ちゃんと雑貨屋さんを見て回ったり、行列ができているワッフル屋さんのワッフルを買って歩きながら食べたりした。
絵里ちゃんといると、やっぱりすごく安心できる。
絵里ちゃんもあたしに、あのかわいらしい笑顔をたくさん見せてくれた。
街中を歩き回っていたらあっという間に時間が過ぎ、絵里ちゃんと別れる時間が近づいていた。
駅前広場は今日も賑わっている。
花壇の前では若い男の人のグループが、ギターやベースを弾きながらマイクを持って歌っていた。
周りには人だかりができていて、スマホで写真を撮っている人もいる。
「なに、あれ。すごいね」
立ち止まった絵里ちゃんが、その人たちを見て言った。
あたしも絵里ちゃんの隣に立ち、彼らの歌声を聴く。
こんなに騒がれているくらいだから、このあたりでは有名な人たちなのだろう。
顔もカッコよさそうだし、女の子たちの甲高い声も聞こえる。
だけどなぜかあたしには、何も響いてこなかった。
歌も演奏も上手いと思ったけど、どうしても心地よく感じられないのだ。
あたしはやっぱりここでギターを弾いていた響の姿と、ライブハウスで聴いたレイジの声を思い出してしまう。
「絵里ちゃん……あたしね」
彼らの歌声を聴きながら、あたしは響と出会った話をした。
一緒に住んでいるレイジのことも。響の過去のことも。
あたしが響に会えなくなったことも。
絵里ちゃんはあたしの話にじっと耳を傾けてくれている。
男の人たちの歌が終わった。大きな拍手が起こり、歓声が沸く。
「つぐみちゃんは……」
あたしの話が終わると、絵里ちゃんが静かに口を開いた。
「響くんのことが、好きなんだね?」
あたしは黙っていた。
あたしはまだ、誰かを好きになったことがない。
だからあたしは響のことを好きなのか、よくわからない。
「ほんとは響くんに会いたいんでしょう? だったらつぐみちゃんも響くんに会って、全部話すべきじゃないかな? 響くんは話してくれたんだから、つぐみちゃんも……」
「でもあたしの過去を知ったら、響は……」
「わたしも最初はショックだった」
あたしの声をさえぎるように絵里ちゃんが言う。
「でも少し考えればわかる。つぐみちゃんはつぐみちゃんだよ」
「絵里ちゃん……」
「つぐみちゃんは響くんの力に、響くんはつぐみちゃんの力に……なれるような気がするな……」
あたしをまっすぐに見つめる絵里ちゃんに、午後の金色の日差しが当たっている。
それは神様から与えられた光のように美しかった。
あたしはそっと空を見上げる。高いビルの合間に、青い空が見える。
「ごめんね。もうそろそろ帰らないと」
絵里ちゃんの声に顔をおろし、あたしはバッグの中から透明な袋に入ったペンダントを取り出した。
「これ……絵里ちゃんに」
「え? くれるの?」
「あたしが作ったの。初めて作ったからあんまり上手じゃないけど」
「すごい! 綺麗!」
絵里ちゃんが袋からペンダントを取り出し、太陽の日差しにかざした。
絵里ちゃんに似合うと思った澄んだピンク色のガラス。
光が当たると中に入っている泡が、宝石のように輝く。
「ありがとう、つぐみちゃん。大切にする」
絵里ちゃんが喜んでくれた。あたしはすごく嬉しくなった。
絵里ちゃんを駅の改札まで送った。
「また会おうね」
「今度はあたしが会いに行くよ」
笑顔で手を振ってくれた絵里ちゃんの姿が見えなくなると、胸の奥にぽかんと穴が開いたような気持ちになった。
楽しかったな……素直にそう思った。
友だちなんか必要ないと思っていたのに。
楽しい気持ちなんて感じたらいけないと思っていたのに。
また会いたいという想いがあふれて、どうしようもなくなる。
空はまだ明るい。
まだ帰る気になれなくて、人波に流されながら歩いていると、美しいガラスの商品が並んだ店に気がついた。
「わぁ……綺麗」
ショーウインドウには鮮やかな色のグラスが並んでいる。
青、赤、紫……透明感のあるガラスに繊細な模様が施されていて、あたしは目を奪われた。
すごい……すごい……すごい。
特に目を引いたのは、青色のグラス。
深い海の底に吸い込まれそうな青。
説明文に『江戸切子』っていうんだって書いてある。
これ、どうやって作るんだろう。
こんなの作れたらすごい。見ているだけで胸がドキドキしてくる。
「いらっしゃいませ」
上品そうな店員さんに声をかけられてしまい、あたしはちょっと頭を下げてその場を立ち去る。
高いんだろうなぁ……あたしのお小遣いじゃきっと買えない。
だけどあたしの気持ちをこんなふうに動かす職人さんって、やっぱりすごいと思った。




