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9-3

 その夜あたしは絵里ちゃんと電話でたくさん話した。

 今まで言えなかったこと。言いたかったこと。

 ありがとうもごめんねも、たくさん。

 そして絵里ちゃんと会う約束もした。

 来週末に絵里ちゃんがあたしの街まで来てくれるという。


「ほんとに来てくれるの?」

『うん。つぐみちゃんの住んでる街、見てみたいし。朝早く出れば夕方までに帰れるよ』

「嬉しい。ありがとう、絵里ちゃん」

『わたしも嬉しい。つぐみちゃんに会えるの、楽しみにしてる』


 来週の土曜日の約束を確認して電話を切った。

 アプリを閉じようと思って見た画面に、「ヒビキ」の名前があった。

 あたしはその名前に指をのせる。

 だけどやっぱり消すことはできなくて……今日も電源を切って、布団の中にもぐりこんだ。



 絵里ちゃんと会うことを糸ちゃんに話したら、「服を買いに行こう」と誘われた。


「だって、久しぶりにお友だちに会うんでしょう? たまにはオシャレしていきなよ」


 あたしはいつだって地味な色のパーカーにジーンズだったから、糸ちゃんは気になっていたそうだ。

 あたしは何とも思っていなかったけれど。



 平日の午前中、糸ちゃんと一緒に買い物に行く。

 ここに来たばかりの頃も、こんなふうに学校を休んで、美容院やハンバーガーを食べに行ったことを思い出す。

 あの日初めてあたしは、糸ちゃんにレイジのことを話したのだ。


 レイジは、今ごろどうしているだろう。

 病気は大丈夫なのだろうか。

 響はレイジを病院に行かせることができたのだろうか。

 気づけばそんなことばかり考えているくせに、あたしは何も変わらない。


 糸ちゃんは「これかわいい!」「こっちもいいね」「試着してみなよ」と、あたしの服を選ぶのを自分のことのように楽しんでいる。

 でも糸ちゃんが喜んでくれると、あたしも何だか嬉しくなる。


 結局、ふわふわした白いセーターとチェックのスカートとキャメルのダッフルコートを糸ちゃんが買ってくれた。

 それから靴屋さんで茶色いブーツと、おまけに赤いニットの帽子も。


「いいの? こんなにたくさん……」


 両手に紙袋をぶらさげて、糸ちゃんを見上げる。


「いいの、いいの。だってすっごく似合ってたし、かわいかったよ、つぐみちゃん。ヒビキくんに会う時も、それ着ていきなよ」


 あたしが黙ったら、糸ちゃんは優しく微笑んで言った。


「ほんとは会いたいんでしょう? ヒビキくんとレイジに」


 あたしは何も言えなかった。

 何も言えないあたしの背中を押すように、糸ちゃんがぽんぽんっと二回叩いた。



 学校を休んでいる間、あたしは糸ちゃんに相談して、毎回食事を作る担当にしてもらった。

 糸ちゃんは仕事をしているのに、あたしは学校をサボっているだけじゃ悪いと思ったからだ。

 それから部屋の掃除や洗濯もした。

 お母さんとふたりで暮らしていた時は、いつもやっていたから一通りはできる。


 あとは本を読み、ワークを使って勉強もした。

 学校で大勢の友だちと話したり遊んだりするのは苦手だったけど、勉強をするのは別に嫌いではなかった。


 そして時々、糸ちゃんと一緒にガラスのアクセサリーを作る。

 青い空の色の他に、透き通った赤やピンクのガラスも作った。

 それをつるつるに磨いてチェーンや紐をつけてペンダントにする。


「誰かにプレゼントしたら?」


 糸ちゃんに言われて考えた。

 そうだ、絵里ちゃんにあげよう。

 どんな色が似あうかな。喜んでもらえるといいな。

 あたしは来週の土曜日がさらに楽しみになった。

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