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9-2

 翌日あたしは学校へ行かず、糸ちゃんと一緒にガラスのアクセサリーを作った。

 糸ちゃんの仕事部屋に入ると、たくさんのガラスの欠片が机の上に並んでいた。


「わぁ……綺麗」


 青や緑、赤にピンク、さまざまな形や色のガラスが集まっている。


「好きな色を組み合わせて、熱で溶かしてくっつけるの。そうすると新しい色のガラスができるんだよ」

「新しい色……」

「やってみようか」


 あたしは糸ちゃんの前でうなずいた。

 糸ちゃんの部屋には、できあがった作品がいくつも並んでいた。

 よく見ると青いガラスを使った作品が多い。


「青って、広い空や海を思い出して素敵じゃない?」


 糸ちゃんはそう言って笑う。

 あたしも糸ちゃんにもらったものと同じ、青いガラスと透明なガラスを選んだ。


 あたしの選んだガラスを組み合わせて電気炉に入れて焼く。

 熱くなったガラスは溶けて、それぞれの色が混ざり合う。


「つぐみちゃん。ヒビキくんとはどうなの?」


 ガラスを焼いている間、突然糸ちゃんがあたしに聞いた。


「え……」

「連絡取り合ってるんでしょ?」


 あたしは糸ちゃんから視線をそらし、首を横に振る。

 糸ちゃんは不思議そうにまた聞いた。


「連絡してないの?」


 あたしはうつむいてつぶやく。


「響とは……もう会わないことにした」

「どうして?」


 胸の奥がもやもやする。それを吐き出すようにあたしは口を開く。


「あたしが……逃げたの」


 そう、あたしは響から逃げた。

 あたしの過去を知った響に拒絶されるのが怖くて……だから自分の過去は話さないまま、響から逃げ回っている。


 糸ちゃんはあたしを見つめたまま、何も言おうとしなかった。

 やがて高温になったガラスが冷めると、青と透明のグラデーションの、綺麗なガラスの塊ができあがった。


「これはつぐみちゃんの色だよ」

「あたしの色……?」

「窓の外に向けて透かしてごらん」


 あたしは窓を開けて空を見る。

 そして出来上がったガラスを指先で挟み高く上げる。

 青く透明なガラスの向こうに、本物の空が重なって見える。


「綺麗……」

「ただのガラスの破片だったのにね」


 糸ちゃんがあたしの隣で微笑んで言った。


「破片のままだったら誰かを傷つけるだけだけど、それがくっつきあったらこんなに綺麗な色になるんだね」


 糸ちゃんの声があたしの心に沁み込む。

 あたしも綺麗なガラスになれるのかな。

 今は何もできない形の悪い欠片だけど……いつか誰かの心を動かせるような、綺麗な色のガラスになりたい。



 その夜、糸ちゃんと食事をして部屋に戻ると、スマホにメッセージが届く音がした。

 一瞬、響かもと思ってしまい、そんな自分が嫌になる。

 けれどあたしはそのメッセージの相手を見て驚いた。

 それは前の学校の唯一の友たち、絵里ちゃんからだった。


「絵里ちゃん……」


 お兄ちゃんの事件が噂になって、あたしとお母さんはあの町から逃げ出すように引っ越した。

「ごめんね」と言われた絵里ちゃんとは、もう話すことも会うこともないと思っていた。

 それでも連絡先を消去できなかったのは……あたしがまだ絵里ちゃんのことを「友だち」だと思っていたからかもしれない。


【つぐみちゃん、まだわたしのこと覚えてくれてる?】


 絵里ちゃんからの遠慮がちな一言を読むだけで、胸がいっぱいになる。


【もちろんだよ】


 震える指先で返事をした。

 すぐに既読の文字が現れて、また絵里ちゃんからの返事がくる。


【よかった】


 よかったって思ったのはこっちのほうだ。

 まさか絵里ちゃんからあたしに連絡が来るとは、思ってもみなかったから。


【ごめんね、つぐみちゃん】


 あたしは次々と現れる、絵里ちゃんからの文字を見つめる。


【あの時、また連絡するねって言えなくて】


 唇を噛みしめ、スマホの向こうの、姿が見えない絵里ちゃんに首を振る。


【あれからいっぱい考えたの。つぐみちゃんの悪口を言ってる人もいた。わたしのお母さんもつぐみちゃんとはもう会わないでって……でもわたしはやっぱり違うって思った】


 その文字を見ていると、一生懸命自分の気持ちを伝えようとしている絵里ちゃんの姿が思い浮かぶ。


【つぐみちゃんが悪いことをしたわけじゃないもの。つぐみちゃんはつぐみちゃんだもの】


 ぐっと胸の奥が痛くなって、堪えていた涙がぽたりと画面の上に落ちた。


【わたしね、嬉しかったの。つぐみちゃんに仲良くしてもらえて。わたしクラスでいじめられてて、友だちいなかったでしょ? でもつぐみちゃんとおしゃべりしてる時だけは普通の中学生でいられるような気がして、すごく嬉しかったんだ】


 あたしもだ。あたしも絵里ちゃんに仲良くしてもらえて、幸せだった。


【つぐみちゃん、ありがとう。ごめんね】


 あたしはスマホに指をすべらせて、メッセージから電話に切り替えた。

 あふれるこの想いを、いますぐ声に出して伝えたかった。

 ありがとう。ごめんね。それは全部、あたしが言いたかったこと。

 しばらく電子音が響いたあと、電話の向こうから絵里ちゃんのかすかな声がした。


『はい……』

「絵里ちゃん……」


 あたしの声は涙声だったと思う。


『つぐみちゃん……』


 そしてあたしの耳に聞こえる絵里ちゃんの声も、震えながら泣いていた。

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