7-4
雨が降り続くその夜、あたしは夢を見た。
夢の中に出てきた男の人は、会ったこともない人だ。
だけどあたしはその人のことをよく知っている。
『お前最近忘れてない?』
その人はあたしの目の前に立って言う。
『自分の置かれてる立場、忘れてない?』
「忘れてなんか……いないです」
『そうかな? 俺にはそうは見えない』
あたしは胸についているガラスのペンダントをぎゅっと握る。
『人殺しの家族が、普通の生活していいと思ってるのかよ?』
「あたしは……」
振り絞るように声を出す。
ここは広くて静かで何にもない、砂漠のような場所。
遠くで鳴いているカラスの声だけが耳に響く。
「家族の罪は一生背負っていくつもりです。でも……死んだように生きたくはない」
自分の声がカサカサに乾いている。喉がひどく痛い。
「もう自分の命を粗末にしたくない。自分を大切にしながら、ちゃんと生きたい」
『はぁ? 誰の前で言ってんだ。ふざけんなよ、お前!』
男の人の手が伸びて、あたしの首に触れる。
とても、とても冷たい手。
『それ、あいつの前でも言えるのか?』
男の人の手に、力がこもった。
『お前の好きな、あいつの前でも言えるのか?』
目の前の人の顔が、いつの間にかヒビキの顔に変わっていた。
『俺は家族を殺した犯人もその家族も、殺してやりたいと思ってる』
「ヒビキ……」
ヒビキの手が、あたしの首を絞めつける。
『俺の前で、生きたいなんて言うな。俺の家族は生きたくても生きられなかったんだ。その気持ちがお前にわかるか?』
ヒビキに首を絞められながら、あたしは唇を噛みしめ天を仰ぐ。
あたしの頭の上は、透明なガラスで覆われていた。
きっとここは外から遮断されたガラスドームの中。
あたしだけの居心地のよい場所のはずだったのに。
「ごめんなさい……」
ヒビキの前で声を振り絞る。
「ごめんなさい……ごめんなさい」
呼吸が苦しくなって、意識が遠のく。
薄いガラスの向こうに青い空が見えた。
その空に一羽の鳥が羽ばたく。
カラス? いや違う。あれは渡り鳥。
高く空を旋回し、美しい声で鳴く。
『つぐみ』
名前を呼ばれて目を開く。
いつの間にかヒビキは、あたしのペンダントを手に持っている。
「あ……それは……」
ヒビキは腕を高く上げ、手のひらを開いた。
スローモーションのように落ちていく透明なガラスが、ゆっくりとあたしたちの足元に落ちる。
音もなく砕けたガラスの破片は、ヒビキの胸に突き刺さり、あたしの視界は真っ赤に染まった。
「ヒビキっ……」
ベッドの上で飛び起きた。
窓の外でカラスの鳴き声が聞こえる。雨は上がっているようだ。
枕元を見ると糸ちゃんにもらったペンダントが、割れずにそこにあった。
あたしはため息をつき、一緒に置いてあるスマホに手を伸ばす。
そして切っていた電源を入れると、画面にヒビキからのメッセージが現れた。
【どうして返事くれないんだよ?】
会いたいと言ってくれたヒビキの声が、苛立っているように感じた。
あたしはベッドから降りて服を着替える。
ヒビキに連絡ができないまま、新しい一週間が始まる。




