第34想 教皇との対峙
お風呂から上がって、すっきりした私たちは聖域教団の本部のある地区へ向かっていました。
「待ち伏せされてる、ということはないでしょうか?」
シルフィが少し不安げに口を開きました。
「意外とされてないんじゃないですか~?」
「何故です?」
「ジョージ王子を拉致してから、短時間過ぎると思いますよ~? 信徒を集めるにしても、彼らも生活がありますからね~」
「それもそうですね」
「待ち伏せされていたとしても、蹴散らすだけでしてよ? それより、ケビンが気がかりですわね」
戦女神オリジンを纏い、無敵の自信がある私も、彼がどう出てくるのか、それが不気味でした。
あの計算高さと演技力ですから、何をしてくるのか、想像もできません。
「あそこに見える大きな建物が、聖域教団の教会であり、本部です」
想像していた物より、華やかさはなく、ごつごつとした岩が重なる歴史の古そうな佇まいが印象に残りました。
入口に2人の殿方が槍を持って立っていました。木陰に隠れ、私たちは身を潜めました。
「マーガレットさん、どうします~?」
私は迷わず即答しました。
「奥の殿方は私がやりますわ」
「でしたら、わたくしが手前の殿方を……寝技で!」
「え? シルフィ、寝技を使えまして?」
驚いた私の言葉に、シルフィ照れながら答えました。
「たぶん、使えると思います。マーガレット様にたくさんキメていただきましたので」
「本当に貴女という方は……では、行きますわよ――」
私たちは言葉すら、発する暇を与えず、殿方たちを気絶させました。
「さすがは暗部が誇る天才ですね~マーガレットさんかと思いましたよ~」
「いえ、上手くできて良かったです」
「では、お2人とも、中に進みますわよ」
私たちは、入口をくぐり、大きな通路を歩いていました。
「かなり古い建物ですね~」
「古代遺跡か何かでしょうか」
そんな会話をしながらも、罠の有無を確認したり、敵の存在を探ったりと、手際よくやる2人を見て、やはり暗部なのだと実感しました。
あっさりと祭壇の間に出てしまった私たちを、迎えてくださったのは――
「ようこそ、おいでくださいました。禁忌の子、マーガレット・オリジン……いえ――」
頭に髪のない、でっぷりと肥え太った獰猛な獣のような目をした教団の服を纏う者――
「マーガレット・グランヴェール様」
どうやら、侵入は気付かれていたようですわね……
「御機嫌よう、貴方が教皇でして?」
「はい。わたくしが教皇バルド・ザイムハットでございます。さあ、皆のもの、マーガレット様を歓迎して差し上げましょう」
辺りで布の擦れる音、金属音が多数聞こえました。皆様、刃を構え、聖域教団の服に身を包んでいました。
「……ざっと200はいますね~」
「散らばっているのが厄介ですわね」
「どう戦いましょう? マーガレット様、ご指示を」
私は考えました。教皇に逃げられては話になりません。ですけれど、飛び込むにしては周りを固める人数が多いので厄介でした。
「ソフィアはボウガンで教皇が逃げないように牽制してくださいまし」
「分かりました~」
「シルフィはソフィアの警護を」
「はい」
「あとは私が片付けます。では、参りますわよ!」
まず、一番近くにいた槍の殿方の懐に素早く飛び込みました。
「なっ!?」
懐から見上げる私に、とても驚いた顔をされた殿方は、腕を動かし――
「武器は捨ててくださいまし」
「ぐぁぁぁっ!」
私の細剣の方が早く動き、右肩に刺さりました。からんと音を立て、槍が落ちました。そのまま、視界に映った別の殿方の元に走りました。
次から次へと、私はダンスのステップでも踏むかのごとく、武装した信徒たちを無力化していきました。
「これは……素人の寄せ集めですわね。ギュネイの時の方がよほど大変でしたわ」
本当に、ただの信徒が武器を持っただけという状況にとても違和感を覚えました。
ですけれど、ソフィアの言うように準備が間に合わなかっただけなのかもしれません。
数も半分程度、減らしたかというところで、ソフィアが叫びました。
「マーガレットさん! 教皇が逃げますよ~!」
「分かりましたわ」
私は残った素人たちは放置して、教皇を急いで追いました。どんどん奥へと逃げていきました。
逃げるなら、外ですわよね? 何故、奥へ?
私はその違和感から、追いかける速度を少し落として、ソフィアやシルフィのように、罠を確認しながら進みました。
がちゃ――びゅっ! 床が下がり、矢が飛び出しました。咄嗟に左手の盾で防ぎました。やはり、2人のように上手く発見できませんわね。
ですけれど、このおかげで確信しました。
「逃げてるのではありませんわね……」
私は考えました。ですけれど、何も浮かびませんでした。そうですわ。こんなのは私らしくありませんもの。
「私は武闘派オリジン公爵家令嬢、マーガレットでしてよ!」
迷いを捨て、前に進みました。襲いくる罠を力技で退け、行き止まりの扉の前に出ました。この奥に教皇はいるはずですけれど……
「……待ち伏せするにも、持ってこいの場所ですわね」
私は呼吸を整え、覚悟を決めました。そして、部屋の扉を蹴破って中に入りました。
「死ぬがいいっ! 禁忌の子よっ!」
教皇の周りには、5人の黒衣の者たちがいました。その両手には、短刀が握られており、私に襲いかかりました。
盾でいなして、細剣で防ぐと力に押されて壁際に追いやられました。背中を強く打ち、痛みで一瞬、息が止まりました。
何とか彼らを弾きましたが、次の者たちの刃が迫りました。咄嗟に腰を落として、前転し、空間に出ましたが、すぐに次の手が迫りました。
細剣を振るには狭すぎる部屋に、私はたじろいでいました。何とか、部屋から出られれば――
そう思い、攻撃を避けながら部屋を出ようとしましたが、黒い服の者たちの動きは統率されており、それを許してくれませんでした。
「——ご、ご自分では戦わない、のでして、教皇様?」
私の必死の挑発を、バルド教皇は鼻で笑っていました。
「ふはは、滅相もございません。戦女神と称えられる貴女様に立ち向かうほど、愚かではありません」
どうしたものでしょうか。このままではジリ貧ですわね……
「ぐぁぁぁっ!」「うおっ!」「ぎゃぁぁぁっ!」
突然、叫び声と共に、私の視界に銀髪の女性が飛び込んできました。
「良かったです、間に合いました! 援護します!」
あっという間に5人を殺さずに行動不能にさせたシルフィが、私の元にやってきました。
「大丈夫ですか、マーガレット様?」
「ええ、助かりましたわ。このクソ野郎は私が仕留めますわ」
私は教皇と向き合いました。すると彼は唾を吐き捨てました。
「ち……マーガレットだけなら片付けられたものをケビンめ、しくじりおっ――ガハッ!」
私の『極上の寝技』がバルド教皇にキマりました。おかしな方向に曲がった体が悲鳴を上げ、彼は意識を手放しました。
「……もう二度とお会いしないことを願いますわ」




