第33想 仲間外れ返し
「安心してください。カイラルおじ様が裏切ったとは考えにくいですよ~」
「そうなのでして? それなら、一安心ですわ」
無意識に手で押さえていた胸を撫で下ろしました。
あんなに可愛がってくれるお父様が私を裏切るなどということがあれば——
私は殺さずの誓いを捨てて、お父様を殺してしまうところでしたから……
「オリジン公爵は、若者の意見をよく聞いてくださるため、下の者からの支持が厚いと聞きます。ケビンにそこを付け込まれたのかと……」
「それに加えて、マーガレットさんを褒められると滅法弱いとも聞きますしね~」
「……ケビンがお父様を利用した、ということですわね?」
私の中には怒りの炎がふつふつ湧き上がっていました。
「ケビンの居場所は分かりまして?」
私の言葉に、シルフィは首を横に振りました。
「エドガー捕縛前に少し、聖域教団についても調べたのですが、ケビンだけは追えませんでした」
「ところでこの方、どうしましょうね~?」
ソフィアがエドガー王子を指しました。そういえば、この後、ジョージ王子が来る予定でしたわね。
「このまま、ジョージ王子に預けましてよ」
「マーガレット様、あの方を信用するんですか?」
「いえ、邪魔なので引き取っていただこうと思っただけですわ」
「あはは、マーガレットさんらしいですね~」
それからしばらくすると、ロビーへ迎えに出ていたシルフィに連れられて、ジョージ王子が部屋に入ってきました。
「……エドガー、何故ここに」
「御機嫌よう、ジョージ王子。それ、持って帰ってくださいまし」
私がそう告げると、ちょうどよくエドガー王子は目覚めました。
「ジ、ジョージッ! 貴様の手の者か! 卑怯者め!」
この方は、本当に呆れますわね。そう思っていると、さっとシルフィが口に布を噛ませて巻きました。
「どういうことだ?」
首を傾げたジョージ王子にことの経緯を簡単に説明しました。
「――戦争などという話は、聖域教団の作り上げた嘘だった、というわけですわ」
ジョージ王子は、警戒しながらも私の話を真剣に聞いていました。
「どうやら、私をここイルマノへ誘い込むのが目的だったようでして……面倒極まりない政治的な話に、巻き込まれただけでしたわ」
「……それでは、この国を終わらせる話はどうなる?」
「国の問題は貴方がたで解決してください。ただ――」
「ただ?」
「私や家族、友人を巻き込んだ聖域教団の方々には、それ相応の罰を与えるつもりですけれど」
「……十分だ。我にできることはあるか?」
その真剣な眼差しと言葉に、私は1つ、お願いすることにしました。
「今、必死で的外れな交渉をしている我が国の第1王子に、戦争になることはないことを伝えてくださいまし」
「それだけでいいのか?」
「あとは、貴方がこの国をより良くしたいと動いてくだされば、この件は解決ですわ」
私の言葉に、ジョージ王子は力強く頷くと、エドガー王子を担ぎ、部屋から去りました。広くなった床を見て、私は気持ちが良くなりました。
「すっきりしましたわね」
「マーガレットさん、乗り込むんですよね~?」
「ええ、もちろんですわ」
「殿下やゲオルグ公爵はいいんですか~?」
ソフィアのその問いに、私はにやりとして見せました。
「ふふ……やっとあの時の仲間外れの仕返しができますわ」
「え? それってまさか盗賊団の時の仕返しですか~?」
「はぁ~……そんな美しい笑顔をされるのですか、マーガレット様は。うっとりしてしまいました」
「あの2人がいなくても大丈夫ですわよ? 私も戦女神も持って来ていますし、貴女たちもいますもの。仮に、数が1,000でも問題ありませんわ」
1,000はさすがに問題があるとソフィアは呆れていました。ですけれど、ここは聖域教団の本拠地ですわ。それなりの数は覚悟しておきましょう。
「それにしても、お腹が空きましたわね。市場に行きたいですわね」
私たちは市場に向かいました。
「あたしは、あれなんか食べてみたいですね~」
「わたくしは、あちらが気になります」
「貴女たち、勇敢ですわね。私は甘い物にしておきますわ……」
それぞれ好きなものを買い、食べていました。私は2人が、あの村の料理のように苦痛な表情を浮かべるのではないかと、心配で見つめていました。
「……あれ~? おいしいんですけど?」
「こちらも、食べられる味です……」
おいしいと言っているのですけれど、何故か期待外れという顔をしていました。本当に変な方々ですわね。
満腹になった頃、私はシルフィに尋ねました。
「シルフィ、教団の本部の場所は分かりまして?」
「はい。ただ、ちょうど礼拝の時間ですので、信徒が集中しているかと……」
シルフィの視線の動きにつられて周りを見ると、街中の方々が同じ方角に向かって祈りを捧げていました。
「そういえば、グランヴェールでも見かけましたわね。時間まで気にしたことはありませんけれど」
「確か1時間ほど続けるんでしたよね~?」
「はい。ですから、2時間後到着、くらいがいいんじゃないでしょうか?」
「どのくらい離れてまして?」
「30分程度ですので、1時間半は余裕があります」
宿まで10分程度ですから、十分間に合いそうですわね。
「なら、お風呂に入ってから行きますわよ」
「決戦前にお風呂ですか~?」
私が立ち上がると、ソフィアは疎ましげに見上げていました。
「ええ、この国の空気は、何だか湿っぽいのですわ。べとべとして気持ち悪くて仕方ありません」
「……マーガレットさんらしいですね~」
私たちは宿に戻り、3人で一緒にお風呂へ入りました。そこで、私の横で、体を洗っているシルフィに声をかけました。
「シルフィ、1つ尋ねてもよろしくて?」
「はい、何でしょうか?」
「貴女、アレックスのどこが良いのでして?」
「えぇぇぇっ!? なな、何ですか、薮から棒に!?」
「貴女、アレックスのことが好きなのですわよね?」
「え……」
あら? シルフィにしては珍しく、即答しませんわね? これは、普段の仕返しの機会を得たのではなくて?
「好きなのですわね?」
「ご、ご気分を害さないでください。あれほど、振られ続けてもめげずに愛を貫ける殿方を、わたくしは殿下以外に知りません」
「……答えになってませんわよ、シルフィ?」
「……好きです。ただ、ただ誤解をして欲しくないことがあります」
「何でして?」
「仮にマーガレット様が殿下を愛されると決められたのでしたら、わたくしは迷いもなく、この気持ちは忘れられます」
何故か、申し訳なさそうに告げるシルフィが、気の毒に思えました。
「それなら、心配いりませんわ。アレックスはただの良き友人、幼馴染ですもの。私は、シルフィならアレックスを任せられると思いましたわ」
「勿体ないお言葉です」
思ったより、動揺を見せてくれませんでしたわね……
「普通はそんなものですよ~マーガレットさん」




