第28想 別行動
翌朝を迎えました。藁だらけの服を払い、立ち上がると朝日がとても綺麗でした。見惚れていたところ、ソフィアに後ろから抱きつかれました。
「御機嫌よう、マーガレットさん」
「御機嫌よう、ソフィア。あら、シルフィがいませんわね?」
私が周りを見回していると、抱きつくのを終え、座り込んだソフィアが答えました。
「殿下たちの様子を見てくるそうですよ~」
「何も心配いりませんのに、ゲオルグはもちろん、アレックスも剣を持てば結構戦えましてよ」
「信頼してるんですね……それは愛ですね――ってギブギブ、怪我してるんですよ、あたし?」
「分かってますわよ、加減はしてますわ」
ソフィアの体の上から、退きました。上体を起こしたソフィアは笑いました。
「あはは、やっぱこのくだりは大切ですよね~」
「本当に貴女という方は――」
「御機嫌よう、マーガレット様、ソフィア様」
少し離れたところから、手を振りながら戻って来るシルフィの声がしました。
「殿下たち、どうでした~?」
ソフィアの問いに、シルフィは目を輝かせて答えました。
「……村の英雄になっていました」
「は? 何故でして?」「ぷっ……」
「何でもお2人は、村中の野盗を倒して回ったそうです」
「あたしたちのところで15人いましたよね? そうなると、結構大規模な野盗だったんですね」
「そうみたいです」
「あの2人ならやりそうですわね……」
私は思い出しました。私だけ除け者にして、2人で盗賊団の討伐に行ったことを……
明後日と約束したのに、翌日に2人で行ってしまうなんて未だに許せないでいました。
「マーガレットさん、機嫌悪くなりましたね~」
「……分かってても放って置いてくださいまし」
「何でですか~? 野盗野盗……盗賊? 盗賊団? あっ!」
ソフィアは何かを思い出したようでした。この方は本当に聡いですわね。
「思い出しましたよ~12歳の時の盗賊団撃退事件ですね~」
「なな、何ですか、その面白そうな事件は!」
シルフィはもちろん食い付きました。そこから、ソフィアはこの話を詳しく語りました――
というか、何故この方はそこまで詳しくご存じなのでして?
「凄いお話です。まるで小説の英雄じゃないですか」
「……確かに英雄かもしれませんが、お2人は私との約束は破りました」
「マーガレットさんを危険な目に遭わせたくなかったんだと、あたしは推測してますけどね~」
「そうだとしても……」
反論をしようと思いましたが止めました。仮にそう告げられても、素直に従わないのが私でしたね。
だから、彼らは嘘をつくしかなかったのかもしれませんわね。
「わたくしにとっては意外でした。アレックス殿下は、ご自身で進んで剣を取る方だったのですね」
「ゲオルグが1番強いと思いますけれど、アレックスも本当に強いのでしてよ」
「殿下はそのように何でも持ってるのに、マーガレット様への嫌がらせに参加してたんですか? 呆れて言葉が出ません」
「あはは、確かに~」
「さてと、そろそろ馬車に行きまして?」
「そうですね」「行きましょ~」
馬車に向かう道中で、シルフィがアレックスから告げられた言葉に、私は笑ってしまいました。
「ケビンと価値観が、ふふ、合わない、とか、ふふ」
「何が面白いのですか、マーガレット様?」
「いえ……私、そもそも同行を頼んでいませんのに、言い訳までして、別行動なさるのが、少し滑稽だと思いまして」
まあ、アレックスらしいのですけれど。しばらくすると馬車の前で待つケビンが見えて来ました。
「おお! 我が女神! お待ちしておりました」
馬車に乗り込んだ私でしたが、すぐにお腹が鳴ってしまいました。昨夜、吐いてしまったこともあってとても空腹でした。
「まともに何も食べてませんもんね~」
「……ええ、何か食べたいですわ」
私はお腹を擦っていました。するとケビンがバッグの中に手を入れていました。そして、取り出されたのは、小さな乾パン3つでした。
「こちらを献上いたします、我が女神」
「あら、良いのでして?」
「どうぞ」
私はそれを受け取り、食べようとしました。ですけれど、その手をシルフィに止められ、彼女は乾パンを嗅いでいました。
「――毒はなさそうです。ごめんなさい、お食べください」
「3つありますから、お2人にも差し上げますわ」
そして、3人で乾パンを食べ終えた後、シルフィが私に熱視線を浴びせていました。
「な、何でして?」
「マーガレット様、聞きそびれていたのですが……」
嫌な予感しかしませんでした。この方は、本当に鋭いですから……
「温泉でのゲオルグ公爵の裸体はどうでしたか?」
「……」
「こっそり密着してましたよね? わたくし、一番近かったので見えてしまっていたのですが」
ボン……恥ずかし過ぎて、両手で顔を覆いました。暑いです、本当に暑いですわ。
「何ですか、それ!? シルフィ、詳しく教えてください!」
私の両脇で語られている私とゲオルグの温泉での密着話を聞いていると、生々しくあの感覚が思い出されました。暑いですわね、本当に……
「ゲオルグ公爵が躓いたのは、マーガレットさんの足だったんですね~」
「……え、ええ」
でも、見られてしまった以上、隠すのは愚かですわね……私は正直に話すことにしました——
「――はぁ……聞いているこちらまで、赤面してしまいそうなお話でした」
「完全に両想いだと思いますよ~? 告白したら良いんじゃないですか~?」
「それが、できないのでして……」
「何でですか~?」
私は、アレックスに突き付けられた条件を2人に伝えました。
「……殿下、汚い手を使いますね。わたくしの中で、殿下の好感度が急降下です」
「そうですか~? あたしには、必死の抵抗にしか見えませんけど? それだけ、マーガレットさんが好きなんだと思うと、可愛らしいですよ~」
「確かに……実際、そんなの無視してマーガレット様が、告白してしまったらおしまいな立場でしたね」
「……私が告白することが、簡単なことのようにお2人はおっしゃいますけれど――」
警備隊詰所でビスケットを渡した時の話をしました。思い出しただけでも、あの筋肉にドキドキしてしまいました。
「何て可愛らしいっ!」「相変わらず可愛いですね~」
延々と続く女子会に、ケビンはどんな顔をしているのかと思い、ちらりと視線を送りました。
下を向き、足をガタガタと素早く揺すって、とても苛立っているようでした。
こんな会話聞かされても、面白くはありませんわよね。心中はお察しいたしますわ。
そして、日が暮れた頃、ザイムハット共和国の首都イルマノに到着しました。




