第27想 暗部一の実力
暗部とは――王家が保持する裏の力のことを指しました。私は、ソフィアが暗部であることは知り合った頃に聞いていました。ですけれど……
「そうですね~例えば……潜入調査、が多いですかね~?」
ソフィアはシルフィに尋ねました。シルフィは頷きました。
「あとは、暗殺もよくあります」
「え?」
私は驚きました。2人の顔を交互に見つめました。
「お2人とも、人を殺したことがありまして?」
「もちろんですよ~」「はい、割と日常的に」
これは、衝撃でした。私は今まで、たくさんの人を倒してきましたが、殺したことはありません。
「だから、オリジン家は特別だって言ってるじゃないですか~」
「そうです。正統派はオリジン家と決まっています」
「前から気になってましたわ。どういうことでして、それは?」
「強く気高い力の象徴としての筆頭公爵家、それがわたくしたち暗部から見たオリジン家の存在です」
「そうなんですよ~ところで夕食どうしますか――」
「きゃぁぁぁっ! 助けてっ!」
悲鳴が聞こえました。私は無意識にその悲鳴の元へ走っていました。
「騒ぐんじゃねぇよ、クソアマ。静かにしてれば殺しゃしねぇよ」
殿方が3人、女性を囲んでいました。
「さっさと金目のもの取ってこい!」
「「へい」」
殿方が1人だけになったところで、女性は髪を引き上げられ、腕を締め上げられていました。慣れた手つきでした。
「野盗ですね~」
追い付いて腰を落としているソフィアが告げました。
「そこの殿方、今すぐそのお方を解放してくださいまし」
私は、一歩前に出ました。
その様子に、私の脇ではやれやれという具合でソフィアがすっと立ち上がりました。もちろん、シルフィも一緒でした。
「おいおい、どんな正義の味方かと思えば、とんだ正義の味方様だな。しかし、よく見りゃ……てめぇら上玉じゃねぇか。おぉぉぉっい! 良い女がいるぞぉぉぉっ!」
その叫びに釣られて現れた殿方は総勢15人でした。この数では、寝技でお相手は難しいですわね――
「やめてください、マーガレットさん」
気持ちを切り替え、殴り倒そうと考えました。
拳を構えた私を制止するソフィアは、シルフィを見て頷きました。それに答えるように、シルフィも頷きました。
「この数なら、シルフィ1人で大丈夫ですよ~拳なんて使ったら、マーガレットさんの綺麗な手に傷が付いてしまいますし」
「そうです、マーガレット様。わたくしにお任せください」
「シルフィ!」
私はシルフィを呼び止めました。首を傾げる彼女に一言だけ伝えました。
「誰も殺さないでください」
「……分かりました」
「ああ? お前1人で俺たちを楽しませてくれるのか? お仲間を守るための献身か~泣けるね~。なぁ、お前ら?」
次の瞬間、シルフィはスカートの中に両手を入れて取り出しました。握られた両拳には、3本ずつ鉄の針が見えていました。
「ぐっ!」「痛ぇっ!」「うぎゃぁぁぁっ!」「痛たたた……」「うげ!」「……ぐあ」
そして、動く間も与えない速さで投げられたその針は、殿方たちに刺さりました。
「まだまだです!」
再びスカートの中から6本の針を取り出したシルフィが投げました――が、すぐにシルフィが叫びました。
「いけません!」
1人の殿方の目に針が刺さりました。その殿方は倒れるとぴくりともしなくなりました。シルフィはがっかりした様子で肩を落としていました。
「それじゃ、残りの3人はあたしがやりますよ~」
ブッ――
弦を弾き、風を切る音がしました。ソフィアの手元には小さな弓のようなものがありました。彼女は再び小さな矢を載せ、放ちました。
「それは何でして?」
「ボウガンって言います」
うめき声と苦痛に叫ぶ声だけが響く中、最後の1人を無力化した頃、女性が駆け寄って来ました。
「た、助けていただき、ありがとうございました!」
「縄はありまして?」
私たちは、彼女から縄を受け取り、殿方たちを縛って回りました。縛り終えてから、再び女性の元に戻りました。
「あとは、この村の方々で裁いてくださいまして?」
「はい! ですが、せめてお礼をさせてください。大したことはできませんが……」
「それなら、夕食いただけたりしませんかね~?」
まあ、ソフィアは本当に図々しい方ですわね。野盗に襲われたただの被害者でしてよ?
「そんなことで良ければ、ぜひうちに」
私たちは、先ほどまで襲われていた彼女の家に案内されました。物色されたようで、散らかっていました。ですけれど、さすがにキッチンは無事なようですわね。
「……1人、つい殺してしまいました」
「先程、目に刺さった殿方ですわね?」
「はい……わたくしは、この程度の人数でも1人殺してしまったのに、マーガレット様は、わたくしの目の前で、100人を殺さずに無力化されました……分かってはいましたが、規格外です」
「私は先程の戦い方を見て、シルフィの方が強いのではないかと思いましてよ?」
「はは、ご謙遜を……完全に女子供と油断している不意打ちでしたから。鎧や盾があったら無力ですし――」
「出来ました。召し上がってください」
運ばれてきた見慣れない料理の数々に、私は一瞬、躊躇しました。真っ赤なスープでした。横でソフィアが迷いなくかぶりついていました。
「辛ぁぁぁっ!」
ソフィアは、叫ぶと共に水を飲み干しました。その後もひいひい言っておりました。
「ごめんなさい。これで辛いと感じてしまわれるのですね。あたしは慣れてしまっていて……他のものもすぐ用意しますね!」
女性は立ち上がると、違うものを運んでくださいました。今度はたぶん、チーズなのではありませんでして? シルフィが嗅いでいました。
「……チーズ、ですわよね?」
「はい、チーズだと思います」
安心した私は、それを口に運びました。そして、そのことをとても後悔しました。あまりの酷い味に、吐き気をもよおしてしまいました。
「……これは酷い味です。まだ、暗部の支給品の方が食べられます」
そんな私をよそに、シルフィは困り顔で普通に食べていました。
「マーガレットさん……無理せずここにどうぞ?」
ソフィアが小さな革袋を私にくださいました。我慢も限界だった私は、慌てて席を立ち、外に出ると盛大に戻しました。
「はぁ……はぁ……これが異国ですのね」
食べ物が肌に合わなそうだと落胆し、家に戻ると家主の女性は頭を下げていました。
「申し訳ありません。お口に合わなかったみたいで……」
「いえ、貴女の気にすることではありませんわ」
そして、私たちは早々に彼女に別れを告げ、馬屋の寝床に戻るのでした。




