第25想 急接近!?
私もさすがにあの空気には疲れましたわ。ベッドで寝転んでいると扉をノックする音が聞こえました。
「はい、どなた――」
いけませんわ。ここは敵国内でした。私はさっと立ち上がり、扉の脇に身を隠しました。
「マーガレットさーん? 寝ちゃいましたか~?」
聞き慣れた呑気な声に、私は胸を撫で下ろしました。
「驚かせないでくださって? 敵襲かと思いましたわよ」
扉を開けた先には、この国の服装をしたソフィアとシルフィがいました。
「何でして、その格好は?」
なだれ込むように部屋に入って来た2人は、にやにやと私を見つめています。
「さあ、マーガレットさんも着ちゃいましょうね~シルフィ、例のものを」
「はい」
シルフィの背中から出てきたのは、2人が着る服とよく似たものでした。そっとベッドに投げられました。
「これは?」
「はい、お着替えの時間ですよ~お手伝いしますね~」
「え? ちょっと、ソフィアっ!?」
ソフィアは私のドレスを勝手に脱がせ始めました。
「では、紐を解きます」
「待ってください、シルフィっ!?」
バサリと音を立て、ドレスが床に落ちました。
「これも邪魔になるので取っておきますね~」
「えっ!? 何故でしてっ!?」
下着まで強引に取られてしまいました。突然、全裸にされてしまいました。
その後、この国の服を着ましたが、やたらと風が抜けるので違和感がありました。髪も解かれ、久しぶりに下ろしました。
「それじゃ、行きますよ~」
「行く? どこへでして?」
「良いところです」
2人に連れられて私がやってきたのは――
「な、何でして……この大きなお風呂は」
私は湯気が立ち込めるその光景に唖然としてしまいました。
「温泉と言うらしいです。健康にも良いとされているみたいですね」
布1枚で体の前を隠しているシルフィが語りました。それにしても、この方、ずいぶん綺麗な肢体をされていますわね。
「時間も遅いので、現地の人はほとんどいないと聞きましたけど、本当に貸し切りでしたね~」
湯をちゃぷちゃぷと浴びるソフィアの胸は、相変わらずの存在感でした。あの半分でも私にあれば……
「マーガレットさん? いつも見すぎですよ~?」
「だって、見てください、私の胸……ギュネイ討伐の際、久しぶりに馬鹿にされて思い出したんです。よく言われていましたことを」
「な、何ですか、その話! わたくし、すごく聞きたいです」
やってしまいましたわ。シルフィも一緒でした。ああ、また小説にされてしまうのですわね……
「……」
私は黙って湯に浸かることにしました。
「もう3年も前の話ですけどね~――」
ソフィアは、当時の社交界で、私に寝技をキメられた同世代の殿方たちが仕返ししようと、様々な画策をしていた話をしました。
「その1つが、皆で声を合わせて『この乳なしが』だったんですよ~本当に殿方って幼稚ですよね~」
「酷い! あんまりです! 寝技で返そうとした殿方はいなかったんですか?」
「1人だけ、いましたよ~?」
「誰ですか?」
興味津々で目を爛々と輝かせるシルフィに、ソフィアは勿体ぶっていました。そうでしたね。
当時からあの方だけは、私に寝技で勝とうとしていましたね。
「アレックス王子ですよ~」
「え? 待ってください? 『この乳なしが』には殿下は参加してませんよね?」
「……はい、率先して」
「殿下ぁぁぁっ! 何という程度の低い真似をなさっているのですかっ!」
「シルフィか? 俺ならここにいるぞ」
「「「え?」」」
待ってくださいっ!? 今、裸でしてっ!? いえ、そんなことではなく、何故アレックスがっ!?
「殿下、こちらの方で声が聞こえました」
こ、この声はゲオルグッ!? どどど、どうしてでして?
湯気が深くてまだ視認はできません。ですけれど、黒い影が2つ、徐々に近付いて来ていました。
ちょっと、待ってくださいまし! 慌てて湯に顔半分まで潜りました。
「……」
アレックスとゲオルグの体躯が見えました。裸でした。全裸でした。殿方の象徴だけは布で隠していますけれど、裸でした。筋肉でした。
「殿下たちもここのこと、聞かれたんですか~?」
「ああ、疲れが取れると聞いてな。マーガレットは?」
私を探すアレックスでしたが、気付いていないようでした。ほっ……
「さあ? どこでしょう?」
意地悪そうにシルフィが告げました。
「殿方も入る混浴だと聞いていましたけど、まさか殿下たちと一緒になるとは思いませんでしたよ~」
「殿下、僕は……いえ、私は先に上がらせてもらいます」
ゲオルグは、気まずそうな声でそそくさと退散しようとしました。ところが、慌てて振り返った拍子に私の足に引っかかって――
「ああ、部屋に戻ってていいぞ、ゲオルグ」
ばしゃん――
え?
私は息が止まりました。
膝を折って座っていた私の両脇へ手を突くように、ごつごつとした体躯が倒れ込んで来て――
水しぶきを避けて閉じた瞼を開くと、目の前の緑色の瞳に見つめられていて――
鼓動が跳ねているのが分かりました。ああ、もう我慢できませんわ。
吸い込まれるようにその唇に、唇を近づけ――
ばしゃん!
じゃばじゃばと水を掻いて早足に歩く音だけが残りました。
「ゲオルグの奴、転んだな、大丈夫か? んじゃ、お前らはゆっくり楽しめよ」
「はーい」「はい」
「マーガレットさん、もう大丈夫ですよ~」
私は慌てて立ち上がりました。胸の高鳴りが止まりません。何だか、意識までふわふわして来ましたわ――
「……あ、暑い、ですわ――」
「マーガレットさん!」「マーガレット様!」
◇◇◇
目を開けると、宿の部屋におりました。心配そうに覗き込んでいるソフィアが、私に気付きました。
「良かった~心配したんですよ~」
「私は一体……」
「のぼせたんだと思いますよ~顔まで入るんですから」
「部屋にはお2人が?」
私の問いに少し面白くなさそうにシルフィが答えました。
「殿下がたまたまいらっしゃいました」
「そうなのですわね、後でお礼を言わなければなりませんね」
アレックスが背負ってくれたのは、いつぶりでして……そういえば――
「ところで、お2人は殿方も入るお風呂だと知っていたのでして?」
「さ、さぁ? あたしはシルフィに誘われただけで~?」
「そんな、ソフィア様! 面白そうだから黙っておこうと言ったのはソフィア様ではありませんか!」
ソフィアはまだ怪我が完治していませんから、シルフィだけなのは申し訳ありませんが――
「ギ、ギブです、マーガレット様!」
「やっと見られましたよ~マーガレットさんの寝技。最近、ご無沙汰でしたからね~」
シルフィを解放して立ち上がった私は、嬉しそうに微笑む2人を見て呆れました。
「次は事前に教えてくださって? 分かりまして?」
「わたくし、マーガレット様に誓います。もう十分楽しませていただきましたので、次は報告します!」
「本当に貴女という方は、食えませんわね」
「お褒めいただき光栄です」
「シルフィばかりズルいですよ~あたしには何かないんですか~?」
「早く怪我を治してくださいまし」




