第18想 次から次と
シルフィとシルフィのお父様の話で会話を広げ、笑っているゲオルグがそこにいました。私とは、川の話なんて興味の沸かない話をしていたくせに……
「心配をかけたみたいだな、マーガレット」
「え、ええ。本当に回復してくださって良かったですわ」
何となく、私たちの間に気まずい空気が流れてしまいました。それを察してか知らずか、シルフィがゲオルグに尋ねました。
「ところで、ゲオルグ公爵。仮にマーガレット様にキスされていたとしたら、どう思いますか?」
「き、キスだと!?」「な、何を言っていましてシルフィ!?」
「あくまで取材ですので。次の作品にはゲオルグ公爵をモデルの人物を出す予定でして」
「作品、ですと?」
首を傾げたゲオルグに、私は告げました。
「あの、シルフィは大人気の小説家なのですわ」
「小説とは、マーガレットがソフィア嬢と楽しんでいるあの細かい文字が並ぶあれか?」
「それでしてよ」
「すまんな、シルフィ嬢。僕は、体を使うことは得意なんだが、そういうのは疎くてな」
シルフィは微笑みながら、手をひらひらと振りました。
「いえいえ、殿方で読まれる方はほとんどおりませんので、気になさらないでください」
それから、シルフィはずいと体を前に出し、ゲオルグに肉迫しました。あまりの近さからかゲオルグ顔を紅くして、シルフィから視線をそらしていました。
何でして、これは……非常に不愉快ですわね……
「それで、ゲオルグ公爵。仮にマーガレット様からキスをされていたら、どうなんですか?」
「どど、どうって。そりゃ、なぁ? うん……」
どうなのでして、ゲオルグ?
私の視線も彼を突き刺しました。視線を私とシルフィに交互に動かしながら、あたふたしているゲオルグを見て、シルフィは大爆笑しました。
「あははは! わたくし、もっと公爵は大人びているのかと思っておりました」
「む……馬鹿にされているのか?」
「いえ、とても可愛らしくて良い感情を見せてもらいました」
そう告げると、シルフィは立ち上がりました。
「それでは、邪魔者はお先に失礼します」
そう言い残して、シルフィは部屋を出て行きました。残された私は、ゲオルグに問い詰めました。
「ずいぶん、シルフィと楽しそうに話していましたわね? 顔まで紅くして……」
「そうか? 普通だが。それに、さっきのは近すぎるだろ。僕じゃなくてもドキドキするさ。ところで、マーガレット……可愛いのか、僕は?」
少し落ち込んだ様子で肩を落とすゲオルグが、余計に可愛く、愛おしく思えました。
「……ふふ、可愛いのでしてよ、ゲオルグは」
「こんなに鍛えているのに……まだ足りないというのか」
「そういうことではありませんわ」
幼い頃から変わらない、鍛えれば解決すると思ってるところは、本当に可愛いと思いました。
「それでは、私もそろそろ行きますわね。お大事にしてくださいまし」
「ああ、ありがとう」
病室を出ると、紙に何かを書いているシルフィの姿がありました。
「何をしていまして?」
「マーガレット様の素顔を、ソフィア様に書き漏らさないように」
「貴女、本当に食えない方ですわね。でも――」
頼りになって、場を和ませてくださり、私と距離を置かない貴重な友人だと思いました。
「嫌いではなくてよ」
病院から出ると、興奮気味にシルフィが語り始めました。
「これは、筆が乗りそうですよ、マーガレット様」
「それは良かったですわね」
「マーガレット様はもちろん、ゲオルグ公爵が掘り下げられたのは収穫でした。しかも、あの方、とても可愛らしいではないですか。マーガレット様が慕われているのも納得です」
「ちょ、声が大きいでしてよ」
「あ、すみません、つい――」
次の瞬間、シルフィの表情が一瞬で鋭く変わりました。そして、彼女に私を突き飛ばされました。
「っ!?」
先ほどまで私の立っていたところに、矢が突き刺さりました。すぐさま、矢を抜いたシルフィは、矢先に塗られている液体を嗅いでいました。
「……これは! 毒です!」
辺りを見渡す私たちでしたが、怪しい人影を見つけることはできませんでした。険しい顔のシルフィが、私を庇うように立ちました。
「明らかにマーガレット様が狙いです! ご注意ください!」
「分かりましたわ」
周囲を警戒しつつ、馬車まで戻ろうと試みました。
それにしても、何度も何度も……本当に隙ばかり狙ってくださいますわね。ここからは、もう当たりませんわよ――
「どいてくださいっ! 道を開けてくださいっ!」
警戒する私たちの後ろを大勢の人が走っていました。それは王宮の臣下たちでした。その表情にハッとした私は、急いで駆け付けます。
「っ!? アレックスッ!?」
その集団の中心には、臣下に担がれて運ばれる真っ青な顔で、弱々しい呼吸のアレックスの姿がありました。
「アレックスッ!」
「マーガレット様、殿下は意識がありません! 急いで治療を受けねばならないのです!」
「どうしたのでしてっ!?」
私はアレックスの元から無理やり引き剥がされました。そして、残った臣下の1人が説明してくださりました。
「――紅茶の中に、毒が仕込まれてまして……クライス家が、念のためと血清を置いてくれていたため、大事は逃れたと思いますが……」
臣下はそう告げると、「では」と短く切り、立ち去りました。
「マーガレット様……」
シルフィが心配そうに見つめていました。
もう我慢がなりませんわ。これ以上、私の周りで誰かが傷付くのは見たくありません。
「シルフィ」
「はい?」
「敵の絞り込みはできてまして?」
「最終段階です。クライス家が総まとめに入っていると聞いております」
まだ、ですのね……
◇◇◇
翌日を迎えました。お父様もお母様も忙しなくしておりました。
ノーマンは、昨日同行しなかったことに責任を感じたようで、これからは必ず同行させるようにと真剣な顔で伝えてきました。
アレックスは無事、一命は取り留めたと昨夜のうちに連絡はありました。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間でした。
「……そ、ソフィア様が」
今日も私の元を訪れたシルフィは、涙目でした。
「……う、そ、ですわ、よね?」
一番想像したくない想像をしていました。
「大怪我をしました」
「っ!? 生きて、いるのでして?」
「生きてます」
私は膝から崩れ落ちました。良かったですわ、本当に良かったですわ……
それから、私はシルフィに抱えられ、立ち上がりましたが、あまりのことに腰が抜けてしまって、すぐに立ち上がることができませんでした。
「紛らわしい言い方してしまいましたね、ごめんなさい、マーガレット様」
シルフィは目を伏せ、謝罪していました。
「いえ……立て続けに大切な人が襲われているので、私も動転しているのでしょう」
立ち上がる私を支えるノーマンが告げました。
「お嬢様、次はご一緒いたしますぞ」




