第15想 まさかの小説家
シルフィ・シルバードール、シルバードール家の次女にして、無類の小説愛好家だったと記憶していました。
ソフィアが来られなくて代わりをよこすなんて、何か動いているのですわね……
「あの! マーガレット様、『俺様白書』は読まれましたか?」
「ちょうど今、読んでいるところですわ」
「あの王子、何となくアレックス殿下と似ていませんか?」
鋭い感性をされてますわね。アレックスが懸命に外面だけは綺麗に装っているというのに、それを見抜きまして……侮れませんわね。
「相手の公爵令嬢は、マーガレット様そっくりですよね」
「え? そんなことありませんわ」
「あの、本当は好きなのに強がる感じとか、本当にマーガレット様を見ているようです」
うっとりとした表情で、私をシルフィが見つめました。
「そんな、私は別に強がってなどおりませんわ」
「え! そうなんですか? いつも殿下の前だと顔が緩んでらっしゃいますけど?」
「何をふざけたことをおっしゃいまして? 私がいつ、アレックスに好意を寄せたというのでして!」
少し語気が強くなってしまいました。すると、シルフィは驚いた様子ですぐに謝罪しました。
「ああ、ごめんなさい! そんなつもりじゃなかったんです」
「い、いえ、私の方こそ、少しムキになってしまいました。ごめんなさい」
何だか調子を乱される方ですわね。ソフィアの人選ですから、間違いないと、思いますけれど……
カップが当たる音と呼吸だけが聞こえました。
「マーガレット様は、わたくしたち令嬢たちの憧れなんです」
「何故、私など……皆様、野獣姫と呼ばれたいのでして?」
「いえ、そこではなく……誰に対しても自分を貫いているところが、羨ましくもあり、怖くもあります」
「貫いてなど……」
あら? 言いかけて気付きました。確かに貫いてますわね。
「憧れの方とこうして仲良くなる機会をいただいたので、緊張してしまって、早く仲良くなろうと焦り、余計なことまで申してしまいました」
「そうでして。気になさらないでくださいまし」
悪い方ではないようですわね。誰でも失敗はありましてよ。
「はい。ありがとうございます……それで、殿下のことは好きなんですか?」
私は、テーブルから肘を落としそうになりました。先程、謝ったばかりではなくて?
「……き、嫌いではありませんわ。幼馴染ですから当然のことでしょう?」
「え? 幼馴染でも嫌いな人は嫌いですよ?」
「え? そうなのでして?」
「はい!」
「こ、ここだけの話ですわよ?」
何故でして? 関係が浅いことから、逆に言いやすいと思えました。
「もちろんです! わたくし、口は固いんです」
そこには、実は誰かに打ち明けたかった想いがありました。
「時々……時々でしてよ? アレックスに男らしさを感じる時がありますわ」
「殿下は、それはそれは魅力的な殿方ですから当然かと?」
「……私はつい最近まで、その魅力を知りませんでした」
「幼馴染補正ですね!」
「幼馴染補正? 何でして、それは?」
「小説だとよく見かける設定なんです。幼馴染だからこそ、魅力を感じないという補正です」
「そのようなものが……」
「でも……マーガレット様はゲオルグ公爵がお好きなんですよね?」
ボン。顔が赤くなるのが分かりました。というか、何故、この方はそのことを知っていまして?
「ゲオルグ公爵も魅力的ですもんね」
「な、何故、そう思いまして?」
私は必死に、動揺を取り繕いました。そんな私を見て、シルフィは身震いしながら満面の笑みを浮かべました。
「な、生で……間近で、やっと見られました。照れて強がるマーガレット様、可愛すぎます。このシーンを小説に書きたいくらいです」
「か、からかわないでください……待ってください、小説に書きたいと言いまして?」
「はい」
「もしかして、シルフィは小説を書いてらっしゃるのでして?」
「はい、『俺様白書』はわたくしが書きました」
「えぇぇぇっ!」
驚きのあまり、カップを落としてしまいました。零れた紅茶と割れたカップをメイドが片付けていました。
唖然として、しばらくその光景を眺めながら言葉を失っていました。だって、お気に入りの小説を書いた方が目の前にいるのですから。
「ちなみにですけど、モデルはアレックス殿下とマーガレット様だったんです、えへへ」
「……」
正直、似てるとは思っていました。ですが、作者からモデルと言われては否定はできませんわ。
「次回作は、ゲオルグ公爵とマーガレット様の恋愛物を作ろうと思ってまして、ゲオルグ公爵のどこが好きなのかを詳しく教えてください」
「な、何を根拠にそのようなことを――」
「周知の事実ですよ? たぶん、気付いてないのは殿下だけじゃないですか?」
「な、何故、皆様気付いていらっしゃるのでして?」
「マーガレット様……ご自身が思ってるほど、隠せてませんよ? 全部、顔に出てます」
「……そんな」
わ、私は1人、とんだ茶番をしていたようですわね……落ち込んでいると、シルフィは席を立ち、しゃがみ込んで私を見上げました。
「それで、ゲオルグ公爵のどこが、お好きなんですか?」
「……や、優しいところでして?」
恥ずかしいの一言でした。
「それから?」
「男らしくて、私が困ると一番に駆け付けてくれますわね……」
「それから? やはり、殿下にはない、男らしい筋肉、とかですか?」
ボン。心を読まれたようで、ますます恥ずかしくなりました。
「筋肉ですね?」
「……ち、違いますわよ」
「筋肉いいですよね――」
恥ずかしくて我慢できませんでした。
「痛たたたっ! こ、これが、噂の寝技っ! ギブギブギブゥゥゥッ!」
「あら、ごめんなさい! つい……」
すぐさま、シルフィを解放しました。初めてキメたはずなのに、彼女は笑っていました。ソフィアよりも図太い方なのではなくて?
「これで正式に、わたくしもマーガレット様のお仲間でよろしいでしょうか」
「正式って何がでして?」
「寝技をキメられることが、仲間になる条件だと思っていました」
「はぁ……違いますわよ。ですけれど」
この芯のある感じは、嫌いじゃありませんわね。
「貴女が良ければ、私の仲間として歓迎しますわ」
「よろしくお願いします!」
それから、シルフィの書いた作品についていろいろ尋ね、とても感心させられました。
作り手の話など、聞くことはないと思っていただけに、非常に興味深い時間になりました。楽しい時間はあっという間に過ぎるもので――
「それでは、マーガレット様、また明日も来ます! 御機嫌よう」




