第12想 女子会への招待状
昨日はアレックスのお陰で気まずくなってしまい、ゲオルグの提案で、真っ直ぐ帰って解散となってしまいました。
それにしても、何なのでして、あの3人でいる居心地の悪さは……
1人でもやもやしているところに、メイドから来客の案内がありました。ソフィアが遊びに来たようでした。
「御機嫌よう、ソフィア」
「御機嫌よう、マーガレットさん。あ、何かありましたね、その顔は?」
「……さすがですわね。ちょうど貴女に聞いて欲しい一件がありましてよ」
先日の出来事を話しました。すると、不機嫌そうにソフィアは私を見ていました。
「惚気にしか聞こえませんよ~? ゲオルグ公爵とはいい感じで良かったじゃないですか~」
「そうなのですけれど、アレックスの前だと罪悪感のようなものを感じてしまい……」
「要するに、欲張りになっちゃったんですね~にしし」
「違いますわ! どちらも傷付けたくないだけですわ」
「それは難しいと思いますよ~それに皆さん、立場がありますから。あたしが考える、一番、丸く収まる方法は――」
「方法は?」
「アレックス王子と結婚して、裏でゲオルグ公爵と愛を育む、でしょう――」
そんな不義な真似が出来るわけがありませんわ!
と、口にする前に――
「……く、くるひぃ。ギブ、ギブ」
盛大に寝技をキメていました。
「まったく、貴女という方は……」
「いやぁ、最近、このくだりやってなかったなぁ、なんて思いまして~」
「どうかしてますわ」
「ところで、マーガレットさん! これをどうぞ!」
彼女はソファーに置いてあった肩掛けカバンから、1通の封筒を取り出しました。
「招待状、でして?」
「はい~何だと思います~?」
いやらしい目で私を見るソフィアがにたついておりました。この顔は何か企んでますわね。
「女子会で~す!」
「ジョ、シカイ……!?」
◇◇◇
「マーガレット様ですわ。何年ぶりでしょう?」「サニア侯爵令嬢を震え上がらせた野獣姫!? 何故、ここに!?」「どうして、アイリス伯爵令嬢の誕生パーティにマーガレット様が?」
周囲のざわめきに、私はすでに苛立っていました。ですけれど、今日は寝技は禁止だと、事前にソフィアに言われているため、手が出せません。
ああ。もう頭が痛くなりました。帰らせてくださいまし。
「マーガレット様、御機嫌よう。相変わらずお美しくて羨ましい限りですわ」
ソフィアの脇にぴたりと張り付いて、様子を見ていた私に、声をかけてくるご令嬢がおりました。
一際目立つ長い銀髪を後ろに高く結い上げ、黒い瞳の美しい方でした。
「……」
ですが、私は言葉を失いました。何故なら、誰だか分からないからでした。私も貴族令嬢ですから、「どなたでして?」などとマナーのない言葉は口にできません。
「シルフィ伯爵令嬢、御機嫌よう」
ソフィアは当然のように立ち回ってくれました。そのおかげで名前は分かりました。
「えっと、その、シルフィさん、御機嫌よう」
「御機嫌よう、ソフィア様。あれから、新作は読まれましたか?」
「ふっふ~ん、もちろんですよ~最高でしたね」
「そうですか! わたくしとしては最期の――」
ソフィアは相手が私でなくても、楽しそうにするのですわね……何故か、胸が締め付けられました。
「ソフィア様ぁぁぁっ!」
「アイリスちゃん!」
ソフィアに飛び付いていたのは、幼い少女でした。この方が主催者ですわね。とても可愛らしい方でした。
彼女に催促されて、ソフィアは私のそばを離れました。
しばらくすると、私に興味があるご令嬢が1人、また1人と周囲を囲みます。
「せっかくお話出来る場なので、聞いちゃっていいですか?」
1人のご令嬢が手を挙げて発言しました。私は、「ど、どうぞ」 と恐る恐る答えました。
「アレックス殿下は、どんな方なんですか?」
「え……殿下ですか……とてもしつこいですね」
「「「きゃぁぁぁっ!」」」
な、何が起きまして!?
「殿下の悪口を堂々と言えるほどの仲、なんですね。羨ましいですわ~」
皆様、うっとりとした表情を浮かべていますけれど、どこにその要素がありまして?
「わ、私は、ゲオルグ公爵はどんな方なのか、聞きたいです」
ぼん。暑いです。顔が真っ赤になってしまったのが分かりました。寝技をかけてしまいたいとさえ、思いました。
「「「きゃぁぁぁっ!」」」
何も発言していませんでしてよ? 何故か色めき立つご令嬢たちは、質問の嵐が収まりません。
「マーガレット様、お顔が真っ赤に……可愛いぃぃぃっ!」
「か、からかうのはやめてくださいまし」
「それで、ゲオルグ公爵はどんな方なんですか?」
ここは地獄でして? こんな辱めを受けるくらいなら、拷問の方がまだ良いですわ。
「……せ、誠意があって真っ直ぐな方、ですわ」
「「「きゃぁぁぁっ!」」」
「も、もう、私の話はおやめになって、貴女! 貴女はどうなのでして? 素敵な殿方の話題などありまして?」
他の方に話を振る形で、何とか逃げ出せましたが、引き受けたご令嬢は、慕う警備隊員がいるそうで、その後、とても盛り上がっていました。
しばらく、他の方の話を聞いていると、ソフィアが戻って来ました。
にたにたとしながら、私を見ました。何をする気でして?
「そういえば、セシリーさん。ロイズ伯爵とは上手く行きましたか?」
ソフィアの問いに、1人のご令嬢が反応しました。
「あ、はい、お陰様で……あの、ソフィア様からいただいた、『男性のツボ』の本が、とても役に立ちました……ポッ」
「え? 何ですの?」「……もしかして夜の方ですか?」「嫌ですわ、恥ずかしい……」
ざわめくご令嬢は気付けば、十数名になっていました。
「あれは、正真正銘、『殿方を虜にする夜の寝技』の本ですからね」
ソフィアは、鼻息荒く私を見つめました。何なのでして?
「そういえば、わたくし、先日……ついに彼からお誘いがありまして、ついに接吻されてしまい、胸を――」
嫌ですわぁぁぁっ!
生々しいご令嬢の体験を耳にして、居ても立っても居られず、私はベランダに逃げました。
……私もいずれはゲオルグの筋肉質な腕に抱かれて――
「どうですか~女子会は?」
妄想して悶えていると、ソフィアがにやにやしながら隣に並びました。
「参考になりましたか~?」
「そそ、そうですわね。皆様があんなに砕けて話しているとは思いませんでしたわ」
確かに、ソフィアの言う通り、もっと幼い頃から混ざっていたら、今頃はもっと上手くできていましたわね。
「それに、最後は、その、刺激が強過ぎて……」
思い出して赤面する私を見て、ソフィアは嬉しそうにしていました。
「ずっとしたかったんですよ~マーガレットさんがいる女子会を」
「そうなのでして? それで今回はここへ招待してくれたのですわね」
ソフィアは首を横に振りました。
「違いますよ~? 面白そうだったからです」
この後、私に寝技をキメられたのは、言うまでもありません。




