第2期 第4話 「たった三時間の再会」
四月中旬。
名古屋での生活が始まって、一か月。
ユウキは慌ただしく朝の準備をしていた。
「課長、お先に失礼します。」
「今日は大阪の取引先との商談だったな。」
「はい。」
「しっかり頼むぞ。」
「任せてください。」
営業バッグを持ち、新幹線に乗り込む。
目的地は大阪。
商談は午後一時から。
終われば、その日のうちに名古屋へ戻る予定だった。
(せっかく大阪に行くんだから……。)
ユウキはスマートフォンを取り出す。
ユウキ
『今日、大阪に出張になった。商談が終わるのは三時くらいなんだけど、もし時間が合えば少しだけ会えない?』
送信ボタンを押す。
すぐに既読がついた。
数秒後。
マミ
『本当!?』
『午後は社内会議だけだから、有休を二時間だけ使う!』
『絶対会いたい♪』
その返信を見た瞬間、ユウキの表情がほころんだ。
午後三時十分。
大阪駅前。
ユウキが改札を出ると、遠くから手を振るマミの姿が見えた。
「ユウキ!」
「マミ!」
二人は駆け寄る。
恋人になってから、一か月ぶりの再会。
「会いたかった。」
マミが小さく呟く。
「俺も。」
自然と笑顔になる。
ほんの数秒見つめ合うだけで、離れていた時間が少し埋まる気がした。
「時間ないよね?」
「新幹線が六時だから。」
「あと三時間くらい。」
「じゃあ。」
マミが笑う。
「三時間を思いっきり楽しもう。」
「賛成。」
二人は駅近くのカフェへ向かった。
窓際の席。
コーヒーを飲みながら、話は止まらない。
「ホテル生活どう?」
「もう飽きた。」
「洗濯が一番大変。」
「ちゃんとご飯食べてる?」
「最近は自炊じゃないけど、定食屋を見つけた。」
「それなら安心。」
「マミは?」
「リーダーになって毎日バタバタ。」
「でもね。」
「チームのみんなが協力してくれる。」
「よかった。」
画面越しでは伝わらなかった表情が、今日はちゃんと見える。
笑った顔。
少し疲れた顔。
安心した顔。
やっぱり、会って話す時間は特別だった。
「そうだ。」
マミがバッグから小さな包みを取り出す。
「はい。」
「これ。」
「え?」
「お弁当。」
「昨日の夜作って、今朝仕上げたの。」
ユウキは驚く。
「わざわざ?」
「ホテル生活だと栄養偏りそうだから。」
「ありがとう……。」
その言葉しか出てこなかった。
「冷めちゃったけど。」
「全然。」
「今食べてもいい?」
「もちろん。」
ふたを開ける。
卵焼き。
唐揚げ。
ブロッコリー。
ウインナー。
そして、小さなおにぎり。
「……。」
ユウキは思わず笑った。
「どうしたの?」
「高校の頃。」
「俺の弁当の卵焼き、覚えてるって言ってたよね。」
「うん。」
「だから。」
「私も入れてみた。」
その一言が嬉しかった。
「おいしい。」
「本当に。」
マミは安心したように笑った。
夕方。
駅へ向かう道。
三時間は、あっという間だった。
「もう帰る時間か。」
「早いね。」
少しだけ沈黙が流れる。
改札の前で立ち止まる。
「またしばらく会えないね。」
「うん。」
「でも。」
ユウキは笑う。
「今日は会えてよかった。」
「私も。」
マミは少しだけ目を潤ませながら言う。
「前より寂しくない。」
「え?」
「ちゃんと会えるって分かったから。」
「離れてても。」
「また会える。」
「そう思えるようになった。」
ユウキは優しく頷く。
「俺も。」
新幹線の発車ベルが鳴る。
「行かなきゃ。」
「うん。」
ユウキは改札へ向かう。
数歩進んだところで。
「ユウキ!」
振り返る。
マミが少し照れながら駆け寄ってきた。
「これ。」
そう言って、ユウキのスーツのポケットに小さな紙を入れた。
「名古屋で開けて。」
「分かった。」
「じゃあ。」
「またね。」
「またね。」
二人は笑顔で手を振り合った。
名古屋へ向かう新幹線の中。
ユウキはポケットから折りたたまれた紙を取り出す。
ゆっくり開く。
そこには、マミらしい丸い字で書かれていた。
『毎日お仕事お疲れさま。』
『私はユウキが頑張ってることを知ってるよ。』
『だから無理しすぎないでね。』
『半年後、「おかえり」って笑顔で言えるように、私も頑張る。』
『大好き。 マミ』
ユウキはその手紙を胸に当て、小さく息を吐いた。
「……よし。」
もう少し頑張れる。
そう思えた。
しかしその頃、大阪ではマミの会社に思わぬ辞令が届こうとしていた。
二人の未来を左右する、新たな選択が静かに近づいていた。
――第5話「突然の転勤話」へ続く。
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