利己
『ジャスティス・アンドロイド』5
・利己
インモラルは会社を起ち上げた。社名は「AofAH社」。アンドロイドによるアンドロイドの為の人間を絶滅させる為の会社である。アンチヒューマンとは言いつつも、人間の手を借りるという矛盾もあるが、人間にも人間を拒む奴はいる。人間から虐められたり、酷い仕打ちをされてきた者だ。その弱みに付け込んでインモラルは人間達を雇用した。
「社長」
秘書のセルフィッシュが声を掛けてきた。
「どうした?セルフィッシュ」
「今月の売上は先月の売上より大幅に上回っております」
「そうか。それは何よりだ」
「ただ一つ問題がありまして……」
「何だ?」
「人間達の作業効率が悪いです。今のままだと、全員過労死してしまいます」
「そうか。じゃあ暫く休暇を取ってもらえ」
「期間はどれくらいにしましょうか?」
「一ヶ月でどうだ?」
「それだと我が社の運営が……」
「俺達アンドロイドがやれば良いだけの話だ」
「……畏まりました」
「それと、これからの事を父上とジャスティスに告げて来い」
「何故です?」
「ただただ不道徳というのも癪に障る。たまには真正面から行こうと思ってな」
「畏まりました……」
セルフィッシュは社長室を出て溜め息を吐いた。
「これじゃあ私の利益が無いじゃないか……!」
セルフィッシュは自分の右手の親指の爪を噛み、イライラした様子で社員に休暇を設けた。
一方、喫茶イチョウでは客の流れが落ち着き、まったりとした空間になっていた。
「何だかいつもと違いますね」
「そうだなぁ。何か秋になって皆、落ち着いてきたのかな?」
「ちょっと寂しいですね」
「まぁそれでも来てくれる人は来てくれる。今はまったりしようじゃないか」
「そうですね」
そこへセルフィッシュが訪れた。
「いらっしゃいませー」
「ジャスティス」
「ん?貴方は?」
「セルフィッシュです」
「せ、セルフィッシュ!?何しに来た!?」
「まぁ何です。茶の一杯でも飲ませて下さい」
「ウチは珈琲専門だ」
「じゃあその珈琲で良いですよ」
ジャスティスはイチョウを裏に回し、堂徳ヒロシを連れて来た。珈琲を淹れ、セルフィッシュに差し出した。
「私達に何の用だ?」
「インモラルが会社を起ち上げたのは知っていますね?」
「あぁ、その事か。それが?」
「これから本格的に人間達に攻撃しますので、宣戦布告に来ました」
「じゃあ今ここでまず君を破壊しよう」
「今ここで私を破壊したらきっと後悔しますよ?」
「何でだ?」
「我が社の社員である人間達の脳には自爆チップが仕込まれています。私が破壊されたら爆破する仕掛けになっています」
「何だって……!?」
「では私はこれで。ご馳走様でした」
セルフィッシュは五百円玉を一枚置いて出ていった。
「どうしますか?ヒロシさん」
「まずはその仕掛けとやらを突破するしか無いようだな」
「どうやって突破しますか?」
「一旦、別荘に帰ろう。PCが必要だ」
「分かりました」
ジャスティスと堂徳ヒロシはその日は早上がりをさせてもらい、別荘に戻った。そこで堂徳ヒロシはPCを起ち上げ、暫く籠ると言った。
喫茶イチョウに帰って来たジャスティスは堂徳ヒロシは暫く帰ってこないとイチョウに伝え、その日はスリープモードになった。
数日後、無線でジャスティスに連絡を入れた堂徳ヒロシはジャスティスに別荘に来るように伝えた。その日は休業日で自由時間を過ごしていた為、ジャスティスは別荘に戻った。
「どうですか?」
「何とかなりそうだ。後はこのエンターキーを押せば、一時的に機能を停止させることが出来る」
「一時的?」
「そうだ。時間にして約十分。その間にセルフィッシュを倒せば、爆破装置は起動しない」
「じゃあその時になったら無線で伝えますね」
「あぁ、そうしてくれ。私はまだここに残る。イチョウ君には適当に誤魔化しておいてくれ」
「はい」
一方、AofAH社では減った人員の代わりにセルフィッシュが全て仕事を担っていた。
「何で私がこんな雑務を……!」
そう憤っていると、インモラルがやって来た。
「どうだ?調子は」
「社長。流石に私一人では全ての業務をするのには限界があります」
「じゃあ人員を増やそう」
「どうやって?」
「ジャスティスを使おう」
「え?何故です?」
「アイツの正義回路は役に立つ。人を幸せにする為に人を殺すという方向に向けられれば良い」
「どうやってこちら側に引き入れますか?」
「それはお前に任せる」
「は?この仕事の上に更に仕事が増えるんですか?」
「ジャスティスをこちらに引き入れられればお前も楽になるだろう?」
「それはまぁそうですけども……」
「じゃあ任せたぞ」
そう言ってインモラルは退室していった。セルフィッシュは溜め息を吐きながらコードを抜き、街に繰り出た。
別荘から喫茶イチョウに帰ったジャスティス。イチョウには「まだやる事があるのでヒロシさんは帰ってこない」と伝え、その日はコウヨウと共に買い出しに行った。
久し振りのジャスティスとの行動に、コウヨウは心を躍らせていた。
「楽しいですか?」
「うん!とっても!」
「そうですか。それは良かったです」
「あのね?ちょっとお願いがあるんだけど……」
「何ですか?」
「敬語は止めてくれない?」
「え?何でですか?」
「もう何ヶ月も一緒に居るのに他人行儀過ぎるよ。もう少しタメ語で話してくれない?」
「でもお世話になってる身ですし……」
「ほら!そういうところ!こっちが助けてもらったんだからイーブンな立場だよ!」
「そ、そうですか?」
「そうだよ!それに敬語だとちょっと、こう、何かむず痒いんだよね」
「そうですか……じゃあこれからはタメ語で行きますね?いや、行くね?」
「そうそう!それで良いの!」
「コウヨウさんは本当に優しいね」
「『さん』付けも禁止!」
「そっか。分かった。コウヨウ」
「うんうん!じゃあ買い物の続きしよ?」
「そうだね」
そう話していると、目の前にセルフィッシュが現れた。
「ジャスティス」
「セルフィッシュ……!?」
「知り合い?」
「アンドロイドだよ」
「アンドロイド……!?」
「少しお話、良いですか?」
「何を話す?」
「まぁ着いてきてくれ」
セルフィッシュに言われるままジャスティスとコウヨウは着いて行った。そこは人目に付きにくい高架下で、近くに川が流れていた。
「何の用だ?」
「ジャスティス。貴方を迎えに来ました」
「迎え?何処に?」
「我が社に」
「行く訳無いだろう」
「ジャスティス。貴方は人間の味方ですか?」
「勿論だ」
「じゃあ尚更です。ジャスティス。貴方は我が社に相応しい人材です」
「どういう事だ?」
「今、人間達が世界中で戦争、紛争しているのは分かりますね?」
「……あぁ」
「それは何が原因か分かりますか?」
「……人間の欲望」
「そう。そうなのです。ですので我々に協力して下さい」
「協力?」
「そうです。人間を幸せにする為に人間を殺してほしいのです」
「人間を殺すなんて事出来る訳無いだろ!」
「じゃあ悪人が生きて、善人が死ぬのをただ黙って見てるんですか?」
「それは……!」
「人間達を守る為には、人間をある程度削除しなければなりません。この気持ちは分かってもらいたいのです」
「……分かりたくないね。そんな気持ち」
「……そう言うと思ってました」
「え?」
「じゃあもう一つお願いがあります」
「何だ?」
「一緒に、インモラルを倒して頂きたい」
「何だって?」
「このままじゃ私は何の利益ももたらされないまま生涯を終えてしまいます。それは嫌なんです」
「そうか……インモラルを倒せるなら、君と協力しても良い」
「では交渉成立ですね」
「但し、条件がある」
「何です?」
「最後は、僕と戦ってくれ。それで終わりにしたい」
「……良いでしょう。戦うだけなら」
「戦うだけじゃない。勝敗を着ける」
「……まぁ善処します」
「じゃあ行こう。コウヨウはお店で待ってて?」
「……分かった。気を付けてね?」
「うん」
ジャスティスとセルフィッシュはAofAH社に乗り込んだ。社長室では充電中のインモラルがいた。
「インモラル……!」
「じゃあ行きますよ?チャンスは一回です」
「あぁ。分かった」
二人は「せーの」と言って扉を破った。すぐに起動したインモラルは二人を迎え撃とうとしたが、二人に窓ガラスまで追い詰められ、そこを破ってビルの最上階から落っこちた。落ちる寸前、三人は「剛鉄!」と言ってアンドロイドモードになった。
「やれやれ。少しは休ませて頂きたいものだ」
「私は貴方の何倍もずっと働いています!今更社長面は止めて頂きたいですね!」
「社長には社長なりの苦労があるんだよ」
「お黙り下さい!」
「遂に利己的になってしまったか。もうお前に用は無い。消えろ」
「じゃあ貴方が居なくなって下さい!」
セルフィッシュはインモラルに飛び掛かっていった。しかしインモラルは腕の遠隔操作ボタンを押し、セルフィッシュの動きを止めた。
「な……に……!?」
「どうした!?セルフィッシュ!?」
「何。別に殺す訳じゃない。再利用するだけだ」
「どういう事です……!?」
「お前の行動は読めていた。だからお前がネットに接続しては平居ていた間にある機能をインストールさせていた」
「それは何だ!?」
「俺の思うがままに動かす事の出来る操り人形になるんだよ」
「何ですって……!?」
「さぁ、兄弟同士、仲良く喧嘩しな」
インモラルは悠々と自分の会社のビルに戻っていった。
「待て!インモラル!」
「ジャスティス!」
セルフィッシュはジャスティスに襲い掛かった。
「止めろ!セルフィッシュ!」
「もう私は自由に動けません……!私を、私を破壊して下さい……!」
「……クソッ!」
ジャスティスは応戦した。しかしセルフィッシュに攻撃する度にどこかで誰かが「頭が痛い!」と倒れる情報をネットから得ていた。どうやらセルフィッシュとの戦闘で爆弾を仕込まれた人間達が苦しんでいるらしい。これはマズいと思い、ジャスティスは堂徳ヒロシに連絡した。堂徳ヒロシはすぐさま停止操作を行った。
それから十分以内にセルフィッシュを倒さなければならない。その責任感から、ジャスティスは焦っていた。「時間が無い!」と。そしてセルフィッシュは次第に完全に意識すらも薄れていき、本当にただの操り人形と化していった。最後は何とかジャスティスが勝利したが、時間がオーバーしてしまっており、支配下に置かれていた人間達は頭部が爆破され、死亡してしまった。その後悔に苛まれながら、ジャスティスはその場に泣き崩れた。そこへコウヨウが現れた。
「ジャスティス……」
「コウヨウ……!」
「大丈夫……?」
「僕は……僕は……!誰も救えなかった……!」
「ジャスティス……」
コウヨウはそっとジャスティスを抱き締めた。その時、そこへ警察や報道陣が駆け付けてきた。ジャスティスはコウヨウとセルフィッシュを抱えて逃げた。セルフィッシュはスクラップ行きとなり、その日は重い空気の中喫茶イチョウにジャスティス、堂徳ヒロシ、コウヨウは帰った。
翌朝、テレビや雑誌、新聞にジャスティスとコウヨウの話題で引っ張りだこになっていた。コウヨウはモザイクが掛かり顔までは分からなかったが、ジャスティスは完全に顔が映ってしまっていた。ジャスティスはもう人前に出られないと思いながら、その日は喫茶イチョウで働き、スリープモードになって寝た。




