不正
『ジャスティス・アンドロイド』4
・不正
独善美ことライチャスがスクラップになって数日。ジャスティスは自分が倒したと堂徳ヒロシに告げると、堂徳ヒロシは「彼女は突然辞めた」とイチョウに言った。それに落胆するイチョウであったが、辞めてしまったものは仕方ないという事で気持ちを切り替えて営業を再開した。
それから一人の男がやって来た。
「よう。ジャスティス」
「君は……?」
「フラードだよ」
「フラード?何しに来た?」
「何。ここでアルバイトしようと思ってな」
「お前もライチャスのように暴走するだろう?」
「しないさ。いつも通りの生活を送りたくてね」
「本当か?」
「そうだとも。いつも通り、いつも通り」
そこへイチョウが現れた。
「あぁ、君が電話してくれたアルバイト希望の子だね?」
「はい。成須正です」
「丁度人手が足りてなかったんだ。こっちへどうぞ」
「はい」
イチョウはフラードを奥の休憩室に連れて行き、軽い面接の後、即採用をした。
「じゃあ明日は休業日だから、その時に店の事を教えるよ」
「ありがとうございます」
そう言ってフラードは帰っていった。
「オーナー。良いんですか?」
「何が?」
「あんな得体も知れない奴をアルバイトにして」
「君も似たようなものだっただろう?善美ちゃんの時もそうだったし」
「まぁ、それはそうですけど……」
「今は人手が足りないんだ。少しでも君達を楽にしたくて雇うんだ。良いだろう?」
「……はい」
翌日、フラードは再び喫茶イチョウに訪れた。
「おはようございます」
「おはよう。正君。じゃあこっちに来て、このエプロンを着てくれ」
「はい」
フラードはエプロンを着てイチョウによる指導を受けた。すぐに仕事を覚え、翌日の営業日に即戦力として働いてもらう事が決まった。
翌日、フラードはまた喫茶イチョウに訪れた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。タイムカードを押してきてくれ」
「はい」
フラードはタイムカードの機器に細工をし、自分のタイムカードを押した。
「じゃあ早速準備に取り掛かろう」
一同は軽いミーティングの後、開店準備をした。開店すると、客が続々とやって来た。フラードはレジ係を担当し、会計を進めていった。時々「あれ?いつもと値段が違うね?」と客から言われる事があり、その度にフラードは「最近の物価高ってやつですよ」と流していた。ジャスティスはそれに気付き、休憩時間中にレジを調べた。レジには余分にあるはずの会計料金が無かった。ジャスティスはすぐにフラードを呼び出した。
「おい。フラード。君、不正しただろ?」
「何の事かな?」
「レジのお金が合わない。君、抜いただろ」
「証拠は?」
「そのポケットにあるんだろう?」
ジャスティスはフラードのポケットを弄った。そこから硬貨がチラホラと見られた。
「これは何だ?」
「これは元々俺が持ってた物だよ」
「嘘だね。君は元々無一文の筈だ」
「何でそんな事が言えるんだ?」
「あの別荘の研究所から出る時、お父さんの財布の中身は入っていた。それに僕達は電源さえあれば生きられる。それから考えると、君は金を持っていない筈だ」
「……まぁそうとも言えるかもしれないな。だが、その電源はどこから得る?金が掛かるだろう?」
「それは……」
「な?だから俺は金なんか盗んでない。それで良いだろう?」
「良くない。このお店の評判に繋がる」
「元々の料金分の金は入れてんだ。寛容に受け止めてくれよ」
「受け止められるか。君は不正をした。これはオーナーに行ってくる」
「おい、待てよ。金が欲しいのか?だったら分けてやるからこの事は黙っててくれよ」
「お金なんか要らない。僕はこういう不正を許せないんだ」
「だから待てって」
ジャスティスはイチョウにこの事を報告した。イチョウはレシートを確認したが、レシート自体は特に問題が無く、金額もキチンと収められていた為「気のせいだろう」と流されてしまった。フラードはドヤ顔でその日はタイムカードを押して帰っていった。
翌日、翌々日と続けて金を盗み続けるフラード。何度も注意したし、イチョウにも相談したが「いい加減にしてくれ」と窘められてしまった。
一週間後、イチョウは自分の口座をネットから見守っていた。盗まれていないかどうかをチェックするのが日課だった。そこへフラードが現れた。
「オーナー。お疲れ様でーす」
イチョウは慌ててPCを閉じた。
「お、おう。お疲れ様」
「どうしたンスか?そんなに慌てて」
「べ、別に……み、見た……?」
「?何がッスか?」
「いや、見てないならそれで良いんだ」
イチョウはホールに向かった。フラードはさっきのイチョウの画面を確認する為、PCを強制起動させ、不正アクセスして見た。
「ほーん……?総資産、十億円、ねぇ……?」
更に一週間後、給料日になった。ジャスティスはいつものように給料を受け取り、堂徳ヒロシ、フラードも受け取った。その給料袋の中にはジャスティスはいつもより千五百円少なく、堂徳ヒロシも同様千五百円少なく、代わりにフラードは三千円多かった。これはおかしいと思ってジャスティスはイチョウに相談しに行った。
「オーナー。お給料の金額、間違えてませんか?」
「え?でも先月のタイムカードによると、これが正しいみたいだけど?」
「いいえ。絶対に違います。フラード……正が三千円高いのも納得いきません。まだ研修期間ですし、そこまでの金額のお給料になる筈がありません」
「そうかなぁ……?」
「そうですよ。それに最近のお客様から不満の声も頂いております」
「何て?」
「無言で値上げは流石に酷い、と」
「値上げ?してないけどなぁ……」
「その値上げした分の差を着服をしてるんですよ。アイツは」
「うーん……そこまで言うならちょっと防犯カメラを見てみよう」
イチョウはここで初めて防犯カメラを見た。そこにはいつもより金を多く受け取り、差額の分だけ自分のポケットに入れているフラードが映っていた。更に、タイムカードの機械に細工している様子も見られた。「これは流石に……」と思ったイチョウはフラードを監視カメラの部屋に導いて問い詰めた。
「これはどういう事かな?」
「何がです?」
「何が、じゃないだろう。君、不正をしていたのか」
「これは何かの間違いですよ」
「間違い?じゃあ最近、お客さんが値上げした事に怒っているのも間違いだと言うのか?」
「そう錯覚してるだけじゃないですか?」
「正義君。本当の話なんだよね?」
「はい」
「この防犯カメラの様子を見るに、確かにお客さんから多く金を受け取って、差額分だけ自分のポケットマネーにしているみたいだが?」
「……バレてしまったなら仕方がない。そうです。盗みました」
「何でこんな事をした?」
「実は……」
「実は?」
「妹が、難病で苦しんでて……その病院代を賄う為にお金を盗んでました……!」
「フラード!君にはそんな妹はいないだろう!」
「そうなのかい?」
「いえ、本当にいるんです!だから今回は見逃して下さい!これからは真面目に働きますから!」
「……そういう事情があるなら仕方がない」
「オーナー!?」
「いずれにせよ、まだ研修期間だ。今回は大目に見てやろうじゃないか」
「そんな!?不正を認めるんですか!?」
「認める。だが一つこちらの話を聞いてほしい」
「何でしょうか?罪を償うならいくらでも何でもします!」
「その入院費、いくら必要なんだい?」
「……百万円です」
「百万……!?そうか。大変だったな。正君。君には無償で百万円を貸してあげよう」
「オーナー!?」
「宜しいんですか!?」
「あぁ。だが約束してくれ。必ず、妹さんとここに来て、珈琲を飲むという事を。そして、金を返す事を」
「分かりました!その約束、守ります!」
イチョウは懐から小切手を取り出し「1,000,000円」と書いてフラードに渡した。
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「妹さん、元気になると良いな」
「そうですね!これで妹を救えます!ありがとうございます!」
「今日はもう上がって、妹さんの所に行きなさい」
「はい!このご恩は一生忘れません!」
フラードは店を出た。ジャスティスはフラードを追い掛け、引き止めた。
「フラード!」
「何だ?」
「その金をどうするつもりだ!?」
「別に。お前には関係無い」
「まさか、インモラルに渡すつもりじゃないだろうな!?」
「おっ、察しが良いねぇ。そうだよ。インモラルからの命令でね。金を集めて来いって言われてたんだ」
「何の為に!?」
「会社を興すんだとさ。その為には資金がいくらか必要だって言われたんだよ」
「会社を……?何の会社だ!?」
「さぁ?そこまでは知らないねぇ。アイツが考える事は俺でも分からない。だが間違った事は言わないぜ」
「間違いだらけだろう!?その小切手を返せ!」
「嫌だね。これはもう、俺の金だ」
「借りてるんだろう!?」
「あぁ。借りてるさ。一生借りるだけだ」
「貴様……!」
フラードは胸ポケットからペンを取り出し、小切手に追加の数字を書いた。
「サラッサラリン……と」
「何をした!?」
「十億円あるんだよ。オーナーの資産。ゼ~ンブ、借りておこうと思ってねぇ~」
「許さん!」
「やるか?」
「やるさ!こっちへ来い!」
ジャスティスはフラードを連れて河原に向かった。
「ここなら被害が出ないってか?」
「そうだ。大人しくその小切手を返して、あの店にも来ないというならお前を破壊しない」
「さぁて?お前に俺が倒せるかな?」
「出来るかどうかじゃない。やるんだよ!」
「そうかい。じゃあ行くぞ?」
二人は「剛鉄!」と叫び、アンドロイドモードになり、ぶつかり合った。激しい殴り合いの末、ジャスティスはフラードを破壊した。
ヒラリと舞う小切手を掴もうとジャスティスは手を伸ばしたが、それよりも先にインモラルが現れ、小切手を手に入れた。
「インモラル!」
「よう。ジャスティス。フラードを破壊してくれて感謝する」
「何故だ!?」
「コイツは不正回路を持っていた。俺が会社を興したらいつ不正をして金を盗むか分からないからな」
「そんな兄弟をただの駒みたいに!」
「そう。ただの駒だ。だから見捨てた。ありがとう。ジャスティス」
インモラルはその場を去った。
「待て!インモラル!」
「何だ?」
「お前を破壊する!」
「果たしてそれは可能かな?」
「何だと!?」
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
「何だ……!?」
「俺が通報した。河原でアンドロイドが暴れているとな」
「貴様……!」
ドンドン近くなってくるサイレンの音。それを聞いてインモラルはその場を去った。
「待て!インモラル!クソッ……!」
ジャスティスは仕方なくフラードを別荘まで運び、スクラップにした。
ジャスティスはその後、喫茶イチョウに戻り「正はもう帰ってこない」とイチョウに告げた。イチョウは「騙された……!」と頭を抱えた。更に口座を見てみるようジャスティスが言うと、イチョウは絶望した顔になった。そんなイチョウを見てジャスティスはいたたまれない気持ちになりながら堂徳ヒロシにメンテナンスをしてもらい、その日はスリープモードで眠りに着いた。




