第三話 遺された剣、消された忠義
エターナル・リライト号』の甲板。アルスは、母マイの形見である「古い航海日誌」の裏表紙に隠されていた、二つの紋様が重なる極秘の記録を修復し、空中にホログラムとして投影しました。
そこには、十五年前の『北伐戦争』の最前線が映し出されていました。
「……ロイ。君の父上、準騎士伯バディ。そして僕の母方の祖父、騎士伯エドマンド。……二人がルミナスの盾として、最後に何を見たのか。……その断片だ」
【回想:十五年前、消去の波】
映像の中、アルスの祖父であるエドマンド卿は、既に左腕を失いながらも、ボロボロの旗を掲げていました。その傍らには、ロイの父であり、生涯の従者として彼を支え続けたバディが、主を守るように剣を構えています。
『……バディ、逃げろ。これは通常の魔法ではない。……空間そのものが「食われて」いる』
『……お戯れを、エドマンド様。……貴方の影として、地獄の果てまでお供すると誓ったはずです。……それに、故郷で待つアルス坊ちゃまと、私の息子ロイ……。あの子たちの未来を、ここで絶やすわけにはいかない』
その瞬間、帝国の巨大な浮遊要塞から、黒い「虚無の波動」が放たれました。
通常の物理攻撃ではありません。触れた瞬間に、兵士たちの鎧も、武器も、そしてその肉体までもが、最初から存在しなかったかのように「消去」されていく、概念の暴力。
エドマンド卿は、最期の瞬間に自分の指を噛み切り、血で自身の剣の鞘に「あるコード」を刻みました。バディは、その鞘を必死に守り抜きながら、迫り来る虚無に飲み込まれていきました。
『……ロイ、アルス……いつか、この世界の「バグ」を……!』
映像は、そこで砂嵐となって途絶えました。
【現在:継承される「不壊」の意志】
「……アルス様。父は、最期まで貴方の祖父上の傍にいたのですね」
ロイは、腰にある『双頭鷲の長剣』の柄を、砕けんばかりに握りしめました。この剣は、アルスがその「最期の鞘」に残された血の記録を読み取り、分子レベルで再構成したものです。
「ああ。……僕の祖父上と君の父上。主従を越えた友情と忠義。……帝国は、それをただの『エラーデータ』として消し去った。……ロイ。この剣に宿っているのは、君の父上の剣技だけじゃない。……僕の祖父上が託した、帝国への反撃の『鍵』だ」
アルスは、自身の宝剣『ソル・レイス』を抜き放ちました。
黄金の光が、ロイの銀の剣と共鳴し、夜の海を明るく照らし出します。
「……僕たちは、彼らが守ろうとした『未来』そのものだ。……ロイ、行くよ。……消された彼らの名誉と、騎士伯家の誇りを、僕たちが帝国から奪い返すんだ」
「……御意。……我が剣、我が命。……すべては、あの日消された魂を『修復』するために」
船の行く手には、帝国の不気味な海防衛網が姿を現していました。
従者の息子と、騎士伯の孫。
世代を越えた絆が、今、帝国の「虚無」を切り裂くための最強の力へと昇華しました。




