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エピローグ②:聖域の休日と、磨かれる二つの刃

盛大な結婚式から数日が過ぎ、聖都マイ・ルミナスには、祭りの余韻を心地よい活気に変えた日常が戻っていました。

 この日は、アルス伯爵閣下から全職員に与えられた「特別休暇」。領主邸の中庭では、それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。

「ハティ、そこだ! 追いかけて!」

 ミーナの弾んだ声が響きます。彼女が投げたのは、アルスが分子構造を調整し、ハティがどれだけ噛んでも傷つかない「超高密度魔導ボール」。子狼のハティは銀色の毛並みを風になびかせ、見事な跳躍でそれを空中で捕らえました。

「クゥーン!」

「あはは、すごい! ミーナ、ハティの動体視力がさらに上がってるね」

 バルコニーからその様子を眺めていたのは、主役のアルスです。その腰には、サンライト王国から贈られた黄金の宝剣『ソル・レイス』が静かに鎮座していました。アルスはこの剣の「高周波振動」を自らの魔力で制御し、情報の修復だけでなく「物理的な障壁の切断」をも自らの役割として定めていました。

騎士の誇りと、エルフの感嘆

 中庭の隅にある訓練場では、ロイが父の形見である『双頭鷲の長剣』を抜き放っていました。アルスによって分子レベルで繋ぎ直され、『絶界の神域』を増幅する術式が組み込まれたその刃は、振るうたびに空間を震わせるような重厚な音を立てています。

「……見事な剣だ、ロイ殿。人族の鍛造技術と閣下の『修復』が合わさると、これほどの威圧感を放つのか」

 新加入のファランが、エルフ特有の鋭い感性でその剣気を感じ取り、感嘆の声を漏らしました。

「ああ。これは父が遺した誇りであり、閣下が私に預けてくださった『命』だ。……ファラン、君の弓もエルフの里を守り抜いた至宝だろう。一度、私の『神域』を射抜いてみるか?」

「ふっ、望むところだ。私の翡翠の矢が、閣下の直した剣に届くか試させてもらおう」

 かつては敵対しかけた二人が、今や互いの武を高め合う戦友となっている。その傍らでは、リィナが二人のために「身体強化の効果を持つ特製スポーツドリンク」を用意し、微笑みながら見守っていました。

影の計算と、静かなる決意

 一方、執務室ではサバスが、休日返上で山積みの資料を整理していました。

「……ふむ。サンライト、シルヴァニアとの三か国貿易による税収予測……。これで閣下が構想されている『魔導防衛線』の予算は十分に確保できますな」

 サバスは、閣下から贈られた「一族の系譜の断片」をそっと机の引き出しに仕舞いました。その瞳には、自分のルーツへの興味以上に、この「アルスという名の奇跡」を何者にも汚させないという、冷徹で苛烈なまでの忠誠心が宿っていました。

「サバス、あまり根を詰めないで。アルス様も心配していたわよ」

 リィナが差し出した茶を受け取り、サバスは珍しく口角を微かに上げました。

「……これは失礼。……リィナ殿、閣下の創るこの『平和』。長く続けねばなりませんからな」

 中庭から響くハティの遠吠えと、ミーナの笑い声。

 アルスはフィリアの肩を抱きながら、その光景を胸に刻んでいました。

 この安寧こそが、これから始まるゼノス帝国との「概念を懸けた戦い」における、彼らの最大の武器になるのです。


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