表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/82

エピローグ① その2:真理の辞書と、銀の約束

鏡の中に映る自分は、まるで自分ではないようでした。

 エルフの里から贈られた、月光を織り込んだような純白のウェディングドレス。その胸元には、アルス様が贈ってくださった琥珀のブローチが輝いています。

「フィリア様、本当にお綺麗ですわ。……さあ、世界で一番幸せな花嫁になりに行きましょう」

 リィナ様が優しく背中を押してくれました。彼女の瞳には、母親のような深い慈愛が溢れていて、それだけで私の緊張はふわりと解けていきました。

 かつて、私は王宮の隅で、埃を被った古文書とだけ向き合って生きてきました。

「死語翻訳」という、誰の役にも立たないスキル。貴族派の人々からは「墓守の王女」と蔑まれ、自分でも自分の価値を見出せずにいた日々。

 それを変えてくれたのは、あの日、図書室に現れたアルス様でした。

 彼が私の手をとり、「君のスキルは外れなんかじゃない」と言ってくれた瞬間、私の止まっていた時間は動き出したのです。

聖都の祝祭:サプライズの奇跡

 大聖堂の鐘の音が響き、アルス様と指輪を交わした瞬間。聖都マイ・ルミナスの民衆から地鳴りのような歓声が上がりました。

 披露宴の最中、アルス様が私の手を取り、ホールの中心へと導いてくれました。

「フィリア、これは君へのサプライズだ」

 彼が指先を鳴らすと、金色の光の中から一冊の本が浮かび上がりました。

 それは、私がボロボロになるまで読み込み、それでも解読できなかった「神代の断片」……。アルス様の『概念修復』を受けたその本は、見たこともない神々しい装丁に綴じ直されていました。

「……これ、は……?」

「君の『翻訳』スキルを、世界のイデアと同期させるための触媒――【真理の辞書】だよ。フィリア、君にはこれから、この世界の『本当の声』を僕と一緒に聴いてほしいんだ」

 本を手に取った瞬間、私の脳内に、これまでノイズでしかなかった空気の震えが、旋律となって流れ込んできました。

 風のささやき、大地が刻む鼓動、そして――隣にいるアルス様の、私への真っ直ぐな愛の響き。

「……アルス、様……。私、こんなに……こんなに幸せでいいのでしょうか」

「もちろんだよ。……君がいたから、僕は自分の『修復』に自信を持てた。君は僕の、光なんだ」

 アルス様が私の指に、もう一つの細い銀の指輪を重ねてくれました。

 それはロイ様やリィナ様に贈ったサプライズとはまた違う、私たち二人だけの「魂の契約」の印。

 かつて孤独だった「墓守の王女」は、今、歴史を修復する「賢者の伴侶」となりました。

 アルス様が見据える海の向こうの不穏な影も、今の私なら恐くありません。

 彼が直す世界を、私が言葉にして、共に未来へと語り継いでいく。

 聖都の空に弾ける光の粒を見上げながら、私は隣にいる愛しい人の腕を、ぎゅっと抱きしめ返しました。

「……一生、あなたのお側に。……私の愛する、修復師様」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ