34/45 配信ーナツのド正論
「お願い、ライブ配信させて」
「まずは病院で手当てしてもらってからだ」
「いまでなきゃだめなの、お願い、1分でいいから」
「ダメだ、医者が先だ」
「お願い」
「ダメだ」
「お願い、カンちゃん」
この手の言い合いで神野が勝った試しはない
「1分だけだぞ、無理だと思ったらすぐ止めるからな」
「ありがと
真希ちゃん、いる?」
「いるわよ」
「ひどい顔してるでしょ、少し直して
みんな心配しちゃう」
真希はナツの傍らに跪いて、ウエストバッグからブラシと化粧直しのセットを取り出した
乱れた髪と汗で崩れた化粧を手早く直す
山口はスマホを三脚で固定し、背景がぼやけるように調整した
異変に気付いた野次馬がスマホをかざしてのぞき込もうと集まってきたが、倉田と大塚のスタッフが両手を広げて近づかないように留めている
そしてライブ配信が始まった
「はーい、ナツだよ
急に切れちゃってごめんね
さっき、ナイフ男に襲われちゃったんだ、もう、びっくりだよ
大丈夫、怪我は大したことないからね」
コメント欄に安堵と心配の言葉が流れて来た
「それで、いま緊急に配信しようと思ったのは、すっごく怒っているからなの
何が気に入らないか知らないけど、暴力はダメ!
日本は誰でもなんでも言えるじゃない
世界は自由になんでも言える国ばかりじゃないんだよ
私たちってすごく幸せなんだよ
私は見た目こんなだけど、日本生まれの日本人なの
日本に生まれてよかったと思うし、幸せだと思ってる
だから、暴力なんかダメ、言ってくれなきゃわかんないって!」
コメント欄は一気に盛り上がった
普段、深刻な話を一切しないナツだからこそ効果が大きい
>ナツ、かっけー
>暴力反対!
>ナツを大統領にしよう
>一生ついてきます
「ほらそこ、バカが湧く
ちょっとカッコイイこと言ったからって信じちゃダメ
ちゃんと自分の頭で考えて
それに日本は大統領制じゃないよ」
>ごもっとも
>ド正論ワロタwwwwwwww
>バカが湧くってwwwwwwww
>今年イチのパワーワード
「ごめん、言いすぎちゃった
自分でもびっくりするくらい頭にきてるんだ
さっきのナイフ男は選挙妨害みたいだったけど、選挙だってちゃんとできる国ばっかじゃないの
せっかく全員に一票ずつあるんだからもったいないよ
言いたいことあるなら、ちゃんと、選挙に行けばいい
できることはいっぱいあるよ
人を傷つける、前に、みんな考え、てね
これだけ、お願い」
神野はじっとナツを見ていた
額に脂汗が滲むのを見て止めようかと迷っていたが、ナツの声が細くなるのを聴いて両腕で×を作った
「みんな、見てくれてありがと
またね」
ナツは手を振って笑い、山口がスイッチを切った
「ナツ、痛むのか?」
ナツは神野の腕の中に倒れ込んだ
「うん、ちょっと貧血かも
クラちゃんいる?」
「倉田!」
神野が叫ぶと倉田がやってきた
「なに?」
「クラちゃん、いまの動画使えそう?」
「ああ、すごくよかったと思うよ」
「もし使えたらニュースに流していいよ
バズるでしょ
その代わり、ノーカットでね」
「いいのか? アンチが湧くぞ」
「いいの、みんなに伝えたい
エナさんのためにも」
倉田は意外な言葉に息を呑んだ
「エナのこと覚えていてくれたんだ」
ナツは微笑んで頷いた
「私も同じ気持ちだよ
文句があるなら、選挙くらい行けよって」
(神野が惚れたのはおっぱいじゃなくてこういうとこか)
倉田は神野を見た
神野は仕方なさそうに頷いた
【余計なお世話書き】
ここがハイライトなんですが、配信中の画面を書いても伝わりそうにない。。
いちばん最初に浮かんだ画がこのシーンでした。
がんばれナッちゃん。




