35/45 勝確ーもはや勝利宣言
ナツは救急車で運ばれ、神野が付き添った
山口と真希は警察の対応やナツの家族への連絡などに追われている
犯人はとっくに逃げていたので、警察は動画の提供を呼びかけていた
倉田は櫻井に電話しているが、午前中のせいかなかなか繋がらない
(リスくん、出てくれ)
「あれ? 倉田さん、どうしました」
5回ほどかけ直してやっと眠そうな声が聞こえた
「すまん、リスくん
緊急で頼みがある」
「なんすか?」
「いまから送る動画を、次のニュースで流して欲しい、ノーカットで」
「次は11:00っすけど」
櫻井はダウンロードした動画を見て驚いた
「え、これ?
スクリーンは新宿、渋谷、池袋っすよ
このコ、神野さんとこのタレントさんすよね、顔出しすると大変な騒ぎに」
「わかってる
本人の希望だ」
「このニュース、もう入ってます
オールドメディアも動き出してて
それで被害者の肉声って火に油っす」
「ああ、だから切り取られないように、彼女の言葉をノーカットで伝えて欲しいんだ」
「いいんですね、わぁぁ大変だ」
「頼むよ」
倉田が電話を切ると、大塚が駆け寄ってきた
「倉田さん、ナツさんは」
「怪我は大したことないようです」
「私の巻き添えだとすると、大変申し訳ない
今日の演説は控えた方がいいのでは」
「何言ってんですかっ!」
倉田は声を荒げた
普段の様子とは別人の倉田に大塚はびくっとして見返した
「いまここで止めたら、暴力に屈したことになるだろうが
ナツの言ったことちゃんと聞いてくださいよ」
「そうですね、わかりました
内容を変えて、暴力で言論は曲げられないって訴えます」
大塚はお辞儀すると選挙カーへ戻っていった
(くっそ、ナツといい早苗ちゃんといい、どうしてポンコツ野郎に惚れちゃうかなぁ)
スマホを見るとニュースサイトに速報が入っている
もはや1ローカル都市の選挙という扱いではない
(なんなんだこの騒ぎは)
スマホの画面を見つめながら倉田は迷っていた
(まさかとは思うが)
もう一度、電話をタップした
「どうしたんだい?」
「兄さん、いま大変なことになってて」
「SNSで見たよ」
「あの、それで、まさかとは思うけど、兄さんじゃないよね」
「おまえは」
電話の声でも心底呆れているのがわかった
「愚弟というのは謙遜で使う言葉だが、ここまで愚かだったとは」
「悪かったな、でも」
「僕の日頃の行いが悪いから仕方ないが、こういうときのセオリーを忘れていないか?」
「セオリー?」
「もっとも得する奴を疑うべきだろう
神野くんだったらそう言うのではないのか?」
「神野はいまポンコツになっちゃっててダメなんだ」
「へぇ、彼にも弱点があるんだね
それはいいニュースだ」
「神野に手を出すな!
そういう約束だろ」
「人聞きの悪いことを
僕はただ彼のことを知っておきたいだけだ
おまえは少し頭を冷やすんだな」
電話は一方的に切れた
(もっとも得する…
石川か? いや)
公園の方から歓声が上がった
大塚の演説が始まったようだ
たったいま起こった事件に聴衆は熱狂している
倉田はその姿を見ながら思った
(大塚の勝ち確だ、これで勝てなきゃ選挙なんてやめちまえ)
【余計なお世話書き】
5分程度とはいえ新宿、渋谷、池袋の大スクリーンを押さえられるというのは、ちょっとチートすぎるかもしれません。
ただのチャラ男じゃなくてその程度にはお金持ちですが、何故かモテませんw




