31/45 終了-終わりと言う名の始まり
選挙公示日前日
神野と大塚は初めて出会った駅前の小さな広場にいた
「なんだか夢のようです」
大塚が言うと神野は笑った
「まだ始まってませんよ」
「そうなんですが、私がスタートラインに立てるなんて」
春にはたった5人しか聴衆のいなかった大塚の街頭演説
秋風の吹き始めたいまはスマホを持った若者が殺到する人気ぶりだ
「ありがとうございます、神野さん
あなたが偶然、私を見つけてくれたからいまの私があるんです」
神野は少し首をひねった
「私は偶然という言葉が嫌いです
これにはきっと何かの必然があると思っています」
「必然?」
「あなたは市長になるべくして選ばれた人なのか、これから審判が下されます」
「そうですね
私は神野さんに言われるまで『市長になれたらこうしたいな』くらいの漠然とした思いしかありませんでした
でもいまは、はっきりとしたビジョンが見えています」
「ならば、それを実現させるまでです
私のできることはすべてやりました
これからはノーガードで殴り合いになるでしょう」
神野は右手を差し出した
「ご武運を」
大塚はその手を取って深々と頭を下げた
「ありがとうございました」
神野が自分のオフィスに戻るとナツが待っていた
「カンちゃん、明日から選挙が始まるでしょ」
「そうだよ」
「忙しいの?」
「いや、選挙って始まっちゃうと俺らは手を出せないんだ
たしか選挙コンサルタントを雇って有罪になった人がいる」
「じゃ応援は?」
「様子は見に行くよ」
「私は街ブラしようかと思って
この前は人が集まりすぎて街の紹介とか全然できなかったの
それに大塚さんがチラっと映れば宣伝になるでしょ」
「一人の候補だけ応援するとまずいんじゃなかったかな
あくまで『匂わせ』で頼むよ」
「なになに? あのおじさまのとこ選挙が始まるの?」
話に入ってきたのはメイクの真希だ
彼にはポスター撮りのメイクや服のコーディネートで協力してもらっている
「あそこの選挙って、すごいドロドロしてんでしょ
もう、ネットで話題よぉ
もしかして社長の仕掛け?」
「いやいや、あちらが勝手にドロドロさせてくるんだよ」
(俺ならなんもしないね、固定票持ってるのになに焦ってんだろ)
神野が思うように、石川陣営は『余計なこと』をして墓穴を掘りまくっていた
彼らが雇ったコンサルには本当の意味の『ネットのプロ』がいないらしい
「それで勝てそうなの?」
真希が興味津々で訊いてきた
それまで選挙など話すらしなかった真希がこれだ
なんであれ自分が関わったということが大きいのだろう
「五分五分じゃないかなぁ
知らんけど」
「誰が勝つか賭けようか
私、見た目は石川ちゃんなのよね」
「お、賭けなら俺も一枚かませろ」
山口も参戦してきた
「カンタはどっちだ?」
「俺は立場上、大塚に賭けるしかねえだろ」
「もう、みんな不謹慎!」
「じゃあ、ナッちゃんは?」
「そりゃ、大塚さんよ
紳士だもん
石川って人いやらしい目で見てくるの」
「それは、大塚さんの方に問題あるよな」
「ちょっと、ぐっさん!」
山口が『余計なこと』を言ってナツに睨まれた
「そういえば倉田も来るんだろ?」
「ああ、さすがにもう大丈夫だろう」
「大丈夫? 何が」
「あいつ、事務のおねえさんにフラれてさ」
神野の暴露に全員が笑い出した
「あのオネエサン、綺麗だったもんねwwwww」
真希も山口も腹を抱えている
「えー、クラちゃん可哀想だよ」
と言っているナツも笑いが堪えられなかった
「すねると面倒だからあんまりイジるなよ」
手を離れ始まってしまった選挙戦は対岸の火事
彼らはその行く末を観戦するだけの野次馬に変わっていた
【余計なお世話書き】
大塚氏にとってはいよいよの出陣ですが、神野くんはもうお役御免です。
選挙期間中は決められたスタッフしか使っちゃいけなくて、これはなかなか厳しいはずです。
選挙違反で検挙したいときによく使われますよね。




