30/45 逆襲ーアンチは2~3割でお願いします
伊波に会ってから一週間後
神野は大塚の事務所を訪ねた
しばらくぶりに見る事務所は、増員したのか机が増えていて手狭に感じられる
さらにキャットタワーが作られ、ケージを無くして入り口を2重扉に変えていた
これで豆トラは自由に部屋の中でくつろげる
アポ通りの時間だったが大塚はまだ戻っておらず、赤崎がひとりで留守番をしていた
「いらっしゃい神野さん、今日はリアルですね」
「ちょっと気になることがありまして、大塚さんのアカウントを見せてもらえますか?」
赤崎はパソコンを操作してSNSのデータを出した
神野は後ろから覗き込もうとして、赤崎のうなじが目に入りくらっとした
(やべ、色気半端ない
落ち着け、俺! ガン見するな!)
すぐに画面に目を移したが、SNSの数字に目立った変化はない
(動画は荒れてるように見えたがアンチのせいじゃないのか)
「アンチって何割かわかります? 体感でいいですけど」
「3割くらいでしょうか」
「ちょっと多めですが問題ないですね
アンチは2~3割がベストと言われます」
「アンチにベストがあるんですか?」
「アンチがまるでいないとお花畑みたいなぬるいサイトになっちゃいます
ちょっと言い合いするくらいが活気があっていいんですよ」
「はぁ、なるほど」
「ところで…大塚さんとデートとかしてます?」
「えっ? なんですか、急に」
赤崎は驚いて振り返った
神野からそんな話が出るとは思ってもいなかったので、不意を突かれて耳が真っ赤だ
「動画に撮られてましたよ」
「まさか!」
「だいぶ前からマークされてたみたいです」
「やだわ、もう
ごめんなさい、気を付けます」
「あなたが謝ることじゃないですw」
その時、入り口が騒がしくなった
大塚たちが帰ってきたようだ
内田の他に数名の若いスタッフを引き連れているが、皆お揃いのエメラルドグリーンのジャンパーで手にはゴミ袋を持っている
「ああ、神野さんお待たせしました」
「お邪魔してます
今日は清掃ボランティアですか?」
「違うんですよ
最近、演説会に乱暴な輩が来て暴れるんです
議論を吹っ掛けるだけならいいんですけど、帰った後にゴミだらけにしていくんで私たちで片づけることにしたんです」
「乱暴な輩?」
「あちこちで候補者に噛みついては、迷惑行為をしているみたいで」
「石川陣営の嫌がらせですかね」
「『市政を正す会』とかで出馬しています」
「強引に2馬力にしてきましたか
それって違反じゃないんですか?」
(あの女が考えたのか? にしても稚拙な)
「投票行動は促してないんでギリセーフなのか…選管の審査は入りそうですが、石川陣営は知らないで押し通すでしょう」
神野は仰向いて考えていたが「ちょっと失礼」と言って事務所を出た
スマホを取り出して電話をかけ始める
「伊波さん、神野です
いまお電話いいですか?」
「どうぞ」
「アレ、やめさせてくださいよ
泥仕合はご免です」
「何の話でしょう」
「そういうのいいんで
こちらのカード見せましたよね」
「そちらこそ、アレを投稿したら名誉棄損で訴えますよ」
「いやいや」
神野は笑いだした
「今度は投稿元を突き止めます」
「投稿?
アレは言わばデジタルタトゥーですよ」
「え?」
「あの動画を上げたのは石川さんご自身かお友達
私は通りがかりに見つけただけ」
「それじゃ」
(こんな初歩的なことも知らないで俺に喧嘩売ったのか?)
「伊波さん、無理しないでください
餅は餅屋
今回はこういう立場ですけど、今後Webの案件がありましたら弊社にご相談ください」
伊波は何も言わずに電話を切った
その数日後『市政を正す会』の代表は出馬を取り消すこととなる
【余計なお世話書き】
アンチが2割っていうのは定説ですが、これをコントロールできるとなると早苗ちゃんシゴデキです。
選挙協力と2馬力の違いが曖昧な気もしますが、自分が当選する意図がなく立候補するのは違反になるんじゃなかったでしょうか。




