29/45 輪舞ー踊り手の交代
【石川個人事務所】
応接室で石川がスーツ姿の女と向き合っていた
パーティションは透明だが遮音されており、話し声は聴こえない
だが石川は明らかに不機嫌な様子だ
「伊波さん、これはどういうことですかね」
伊波と呼ばれた女は選挙コーディネーターとしてコンサル会社から派遣されている担当者
彼の不機嫌の元はもちろん副市長を潰されたことにある
「副市長の件はこちらでも予想外でして
パワハラ疑惑がやっと収まったと思ったのに、あんな動画が出てくるなんて」
彼女は石川よりは年上のようだがひたすら低姿勢だ
「これもあの男の仕業ですか?」
「たぶん…
彼の会社は企業PRが中心で選挙の実績はありません
正直、手が読めないといいますか」
「私でも副市長を狙ってくるくらいわかりますよ
言いましたよね、大塚は危険だから早めに潰せと」
「いろいろと手は打ったのですが」
「それがあの下手くそなフェイクですか?
とにかく、これ以上は看過できません
副市長が表に立てない以上、政策の話では不利なんですから」
(アレ言い出したの石川さんなのになぁ)
と伊波は思いつつも言い訳を考えるしかなかった
「アンケートでは支持の理由の1位が『人柄が信用できる』です
『政策』は二の次なんですよ
つまり大塚氏のイメージを下げれば短期間に支持を回復できるかと思われます」
「早急に対策お願いしますよ」
(祖父さんの物を俺が継ぐのが当り前ってもんだろう
俺は市長なんかで終わる気はないんだ、躓いてたまるか)
【都内某公園】
大塚が出馬表明して4日後
神野はオフィス近くの小さな公園に呼び出された
相手は大手コンサル会社の選挙担当で伊波という女性だ
伊波は神野の顔を知っているようで、公園の入り口で待ち構えていて会釈してきた
名刺を交換して手近なベンチに並んで座る
見渡せる場所で会いたいというからには、逆に秘匿性の高い話なんだろうと神野は推測した
「こちらをご覧ください」
伊波は挨拶もそこそこに、スマホの画面を見せて来た
大塚が女性と楽し気に夜の街を歩いている動画だ
銀座だろうか、女性は着物姿で素人には見えない艶やかさだ
(あれー、これは…)
「大塚さんは独身ですから、女性とデートしたっていいでしょう」
神野は笑いを堪えながら言った
「でもこれ、カタギの女性じゃないですよね」
「これだけでは何とも言えません」
(よっわいカード
それにこれ、赤崎さんだし)
「仮にホステスでもキャバ嬢でも、大した痛手にはなりません
大塚さんはアイドルじゃないんですから
じゃ、私のターンです」
神野は自分のスマホ画面を伊波に見せた
そこにはキャバクラでパーティーをしている石川が映っている
「石川氏が若い頃ですね、それくらいの遊びは」
「これ32歳の誕生日です、ケーキに32って書いてあるでしょ
そのとき彼は婚約していたはずです
特別な日を婚約者とではなくキャバクラで、いいんですかねぇ
確か彼の奥様は支援者のお嬢様では?」
(この男、こんな動画どこで?)
これは倉田に探させた『ある動画』だ
決定打ではないが、どう見ても伊波のカードより強い
「さすがですね
やっぱりネット情報ではかないませんか」
「どこかでお会いしましたっけ?」
「いいえ、でも、あなたは業界じゃちょっとした有名人ですよ
無名の男を200万インフルエンサーに育てた敏腕だって」
「ああ、なるほど
それじゃアイツに少しは感謝しなくては
それで、なんで手の内見せに来たんですか?」
「ワンチャン、手を引かせられればと思いました
下手打って返り討ちに会うとダメージが大きいですから、あらかじめカードを見せ合おうと思いまして」
「ま、あまりムキにならずとも
所詮、仕事なんですから」
神野は立ち上がって一礼した
(一人抜けたと思ったら、また一人
彼女もダンスに参加してくれるのかな)
伊波の無謀な賭けからは、石川の焦りが伝わってきて笑みがこぼれた
【余計なお世話書き】
大手コンサルトはいえクライアントを怒らせるのはNGなわけで、そのあたりが大手代理店とは違うかなと…お高いんだろうなぁ。
こんな都合のいい動画が見つかるのも怪しいですが、今回は倉田くんのお手柄ということです。
この手の動画は鍵アカなはずですから簡単に拡散させられないんですけどね。




