24/45 蜜罠ーハニートラップ
この夏、大塚は歌いまくった
夏は祭りなどのローカルイベントが多く、議員は市民と触れ合う機会が増え、有権者への絶好のアピールとなるかき入れ時だ
そこへもってきて、大塚が歌えるとわかり「ひと節お願いします」のオファーが増えた
主婦層を中心に大塚の歌目当てで集まってくる人たちもいて、ちょっとした「推し活」だ
それを短い動画にしてどんどんあげていくと、なかなかの再生数になっていった
「この人、結局いじられキャラなんだね」
モニターの向こうで倉田が大塚のアカウントを見ながら言った
この日は早朝から神野が倉田にビデオ通話を入れていて、倉田はパジャマのままだ
「議員なんて、いじられてナンボだろ」
朝早いせいか神野の声はくぐもって機嫌が悪そうに聞こえた
「なんか演歌歌手の営業みたいだよ
これも神野の演出か?」
「これは内田さんの好みかな
まぁ、似たようなもんだ、好評でけっこうなことじゃないか」
確かに目に見える反応は好調に見えるが、これが票に結びつくかはわからない
素人の神野には『票読み』というものができない
だからオーバースペックに見えてもできるだけのことをやるしかなかった
「秋になったらさすがに出馬するのがバレるからな
それまでにできるだけ知名度、好感度を上げる」
「そんで、朝からなんだよ?」
「写真送ったから見てみ」
そう言って神野もモニターに写真を開いた
「え? これナツじゃね」
「ナツに見えるよな」
「大塚さんと何してんの?」
「パパ活ってとこかな」
「独身でもハニトラってあるんだ」
タブレットの写真は大塚とナツが腕を組んで夜の街を歩いているところだが、鮮明過ぎて嘘くさいし、そもそもナツが大塚とデートするわけもない
「らしいな
後援会の人から送られてきたって、すげー焦ってて朝6時に起こされた
やたら『夏美さんとは関係ありません』って強調してたけど、あったり前だっつーの」
(このせいで機嫌が悪いのか
ナツのことになるとムキになるからな
だからって俺を起こすなよ)
倉田はあくびをしながら聞いていた
「ほんっとムカつくわ
だいたいナツの写真は有料だぞ」
「カンちゃん、こわあい
お目々がヤクザみたいだよぉ」
二人とも生成AIの仕業とわかっているので深刻さはないが、もちろん気分はよくない
「カンちゃん言うな
櫻井さんのとこにフェイクを作れるアプリあったよな
あれでこれと同じようなの作れるか?」
「この写真を読み込ませればできるんじゃないかな」
「じゃあ、あそこの市議会のおっさん全員で同じ画像を作ってくれ」
「こんなのいまどき、簡単に作れるって教えてやるか」
「9月の定例議会で問題にしてくる奴がいるかもしれない
恐らくそいつが犯人だから、証拠を突き付けて恥かかせてやんよ
それと、もうひとつ」
倉田はまだ眠そうだったが、怒りで目が冴えている神野は次々と指示を出し始めた
「おまえんとこサーバのセキュリティとかやってるよな
足跡探しができるなら、探し物もできるんじゃねえか?」
「ああ、もちろん
相手を突き止めるためには必要だからね」
「じゃあ、ネットで探し物を頼みたい」
「何を探すんだ?」
「ある画像、動画ならもっといい
本物が欲しいが、なければAIで作ってもいいぞ
ナツに手を出してタダですむわけねえだろが」
(このやり口は副市長とは思えないが、あの市長の孫ならしっくりくる
どこかで市長選に出るのが漏れたか)
それならばもう隠す必要はない
宣戦布告の時は迫っている
神野の中ではすでにゴングが鳴っていた
【余計なお世話書き】
蜜罠は完全な造語です、こんな熟語はないと思います。
いまならこれくらいのフェイクは動画で作れちゃいそうですが、そこまでやるとさすがに訴えられるんじゃないですかね。
大塚氏が独身なんでここは強気です。




